第21話短夜

 日の落ちるころ夕立があった。

 雷はなかったものの、雨の勢いは強かった。僕は早めの夕食をとりながら動画を見ていたのをやめて、夕立見物をした。音がすごくて聞きづらいのも見物の理由のひとつだ。

 雨が上がると、冷たい風が吹きつけてきた。ばぁちゃんがベランダに出て涼むようすは、ほんとうに生きている人のようだ。網戸をすり抜けるすがたを見なければ、かんちがいしてしまうだろう。

「なぁばぁちゃん。僕、なんだかひさしぶりに人と話らしい話をした気がするんだ」

 ばぁちゃんがベランダでしゃがんだ気配がした。僕はそのすぐ近くの壁に寄りかかって続ける。

「僕さ、ずっと他人に事情を話したりするのをなるべくさけてたわけ。説明がめんどかったりするじゃんか。他人に話してもしょうがねぇし。だけどさ、吉沢さんにはなんとなく言えちゃってさ。なんなんだろね。向こうが話してくれたからってのもあるだろうけど、やっぱまだ、僕、弱ってんのかな。ばぁちゃんがいてくれるのにね」

 思うことがもっともっとあるんだけど、うまく言葉にならない。ばぁちゃんが来てくれてから、胸の内を隠すのが下手になった。あとちょっとしかいっしょにいられない。またひとりに戻るだけ。それがどうしようもなくさみしくてしかたがない。僕はひとりで生きられるとずっと思っていたけれど、案外そうでもないのかもしれない。

 夜になるとしょうもないことばかり考えてしまう。やっぱり心が弱っている。

「短夜や夢も現も同じこと」

 ばぁちゃんは出た時と同じように網戸をするりとすり抜けてきて、僕の隣に座ってうたうようにつぶやいた。

「なにそれ、俳句?」

 ばぁちゃんは、子ども姿に似合わないおとなびた瞳でほほえんで、僕のあたまをよしよしと撫でた。

「こどもは早くねろ」

 はぐらかされて、僕はむつける。

「いやだね。今日は本怖見るんだ」

「なにそれ?」

 きょとんとしたばぁちゃんを、僕はふふん、と見返した。

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