第20話入道雲

 店員が器を下げるのを見送ってから、僕もぽつりぽつりと話し始めた。

 幼少時に母が死に、伯父の家で育ったこと。今日は父の忌引で休みなこと。

 吉沢さんは静かに聞いてくれた。

「そうだったんだ」

「うん」

 コーヒーが届いたときにちょうど話し終えて、僕は口をつぐんだ。

 僕らはそれから無言で、それぞれコーヒーをたしなんだ。

 店のドアを開ける。さぞかし暑かろうと思いきや、意外に暑苦しくなくて僕はほっとした。まだ夏の入り口だからなのだろう。

「じゃあ、またね」

「気をつけて」

 後ろ姿を見送って、僕もきびすを返した。

 正面には絵葉書になりそうな入道雲があがっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る