第18話群青

 僕の住む町の商店街は、シャッターの降りている店が半分程度ある。それに、商店街とは言っても通りを百メートルも歩いたら終わりの、ほんとうにこぢんまりとした街だ。

 小さな店の集まっているはずれのところで、よくある地域のチェーン店であるスーパーマーケットが幅を利かせている。仕事帰りでの買い物には頻繁に利用しているけれど、せっかくの時間のあるときなので、商店街をぶらついてみることにした。平日の夕方よりも少し早い時間帯に町の中を歩く機会はとても少ない。肉屋で作っているコロッケのうまさは格別だ。惣菜に買って帰りたい。さして特筆すべき趣味もない僕は、夜のビールひと缶と、おいしいつまみが楽しみで生きている。そして、そのおいしいつまみだって誰もが手にするようなありふれたもので充分ときている。我ながら実につつましい。

 コロッケを四つ買った。残ったのは明日、たまごでとじて丼にしたらうまかろう。この店の牛肉コロッケは、ジャガイモのつぶしが粗くて胡椒の効きの強いところが酒に合う。

 店を出てちょっと歩いたところのコンビニの近くで女性がスマホで話している。目についたのは、平和な昼ひなかににあわない険しい雰囲気だからだ。そのそばを通りがかったベビーカーを押した女性もちらと横目にしている。

 通話を切った女性がこちらに歩いてきた。群青色のシャツワンピースの長い裾をもてあますような、足をもつらせる歩き方だ。よほど心が乱れているにちがいない。僕は目を合わせないようにしながらも様子をうかがうためにアンテナを張りつつ、女性とすれちがい、なにごともなかったことに安堵する。

 数歩進んで、どこかでみた面差しだと思った。思い出しながらまた数歩、吉沢由莉じゃないか?

 おそるおそる振り返る。すると、向こうもおなじようすでこちらに振り返ったところだった。

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