第17話その名前
その状態をなんと言い表せばいいだろう。その名前はあるだろうか。病院に行けばなにがしかの状態をしめす診察名をつけてくれるだろうが、的確ではないと思える。
「やめた」
僕は冷蔵庫ののこりもののつまったゴミ袋を担いだ。そんなこと考えている暇があったら別のことをしたい。そもそもめんどうくさい。
水分の多いゴミ袋は重い。階段のとちゅうでよろめいた。シャツに手すりの赤さびがついて、やれやれだぜ、と嘆息する。帰り足でごみ処理施設へ寄ることにした。
今日はうすぐもりだった。直射日光がうすらいでいるぶん、昨日より涼しい。
「親父も、こんな気分だったときある?」
父と最後に会話したのはいつだったか。病院でいくども顔を合わせていたけれど、決定的な深い部分にはふれずうわっつらなことばかりで、そのままだった。
親父は幾度か口をあけようとしたときがあったようにも思えた。しかし、僕がそれをさせずにいたから、それ以上は強く言ってこなかった。多分、親父は僕へ負い目があるからだ。
雲に乱反射する太陽光に目を細めて、その向こう側のなにかを探ろうとした。
けれど、さえぎるもののない青空につぶやく勇気は、僕にはまだない。
親父がどんな表情をしていたかだって、思い出す勇気もないんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます