第17話その名前

 その状態をなんと言い表せばいいだろう。その名前はあるだろうか。病院に行けばなにがしかの状態をしめす診察名をつけてくれるだろうが、的確ではないと思える。

「やめた」

 僕は冷蔵庫ののこりもののつまったゴミ袋を担いだ。そんなこと考えている暇があったら別のことをしたい。そもそもめんどうくさい。

 水分の多いゴミ袋は重い。階段のとちゅうでよろめいた。シャツに手すりの赤さびがついて、やれやれだぜ、と嘆息する。帰り足でごみ処理施設へ寄ることにした。

 今日はうすぐもりだった。直射日光がうすらいでいるぶん、昨日より涼しい。

「親父も、こんな気分だったときある?」

 父と最後に会話したのはいつだったか。病院でいくども顔を合わせていたけれど、決定的な深い部分にはふれずうわっつらなことばかりで、そのままだった。

 親父は幾度か口をあけようとしたときがあったようにも思えた。しかし、僕がそれをさせずにいたから、それ以上は強く言ってこなかった。多分、親父は僕へ負い目があるからだ。

 雲に乱反射する太陽光に目を細めて、その向こう側のなにかを探ろうとした。

 けれど、さえぎるもののない青空につぶやく勇気は、僕にはまだない。

 親父がどんな表情をしていたかだって、思い出す勇気もないんだ。

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