第15話なみなみ

 頭が重い。昨夜が暑かったからだろうか。麦茶をジョッキになみなみと注いで飲み始める。こんな量は一度に飲めるわけないと思っていたのに飲んでしまった。のどが渇いていたらしい。朝のテレビをながめていたら、すっきりしてきた。

 休みは今日で三日目だ。僕は喪主であるから会社に二日間の休暇延長をしてある。まだ前半であるけれど、手続きも片付けも終わっていない。

 今日の予定は、親父の家の大物の処理のために業者と待ち合わせだ。見積りしながら、できるかぎりその場で持って行ってもらうよう電話で話してある。どこまで進むだろう。

 このあいだから業務的なことばかりを考えている。かなしむ余裕を与えられないのは非情な気がする。もっとむつまじい関係だったらさぞかしつらいに違いない。

 僕は粛々とやるべきことをかたづけるだけだ。与えられたことを、淡々と、黙々と。

 でも、それって彩りが少ないんじゃないか? だけど、もうこれ以上振り回されるのはまっぴらだ。

 だから、それでいいんだ。誰にも迷惑をかけていない。いいじゃないか。

 なんだか胸の奥がくさくさする。

 やり場のないものが、言葉にしづらいものが渦巻いている。

 ばぁちゃんには胸の内がみえているだろう。けれど、なにも言わずにいてくれる。

 その沈黙がやさしくて、泣きたくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る