第5話
そして、わたくしが、ハデス様に婚約破棄を打ち明けられた日に戻る。
「君にはすまないと思っている。僕はこれからの人生をメンテ―と共に歩むつもりだ。僕たちは愛し合っている。もう、この気持ちを抑えることはできないんだ」
「ごめんなさい、レウケー様」
わたくしは、二人に満面の笑みを見せた。
「分かりました、ハデス、 婚約破棄の件、確かに承りました。もういいのです。だって、わたくしにはヒトごときが作った法など関係ありませんから。だから、力づくで奪うことします。メンテ―……」
「えっ!!」
思いもよらない、わたくしの告白にメンテ―は動揺する。
「はぁ? あんた何言ってんの、あんたはここで――」
「メンテ―、どうしたんだ?」
わたくしは、メンテ―に微笑みながら、
「邪魔よ、消えなさい」
隠し持っていたナイフをメンテ―の額に投げつけた。
メンテ―の額にグサリとナイフが突き刺さる。
「ど、どう……して……わたしが……ひろいん……なのに……」
メンテ―の額から血しぶきがあがる。
わたくしの顔やドレスに血が付着する。
そのままドサッと仰向けに倒れたメンテ―。
ベッドのシーツが赤く染まる。
「あらあら、わたくしの赤いドレスがくだらない雑草の血で汚れてしまったわ」
「め、めんてえええええええ!!」
「あははははは、ざまぁ~ですわ」
あらあら、ハデスの瞳が怒りに満ち溢れているわ。
うふふ、そんな、熱い瞳でわたしを、わたしを、見つめるだなんて、もう、わたくし、胸がときめいてしまいますわ。
「れうけーーーーきさまーーーー!!」
ハデスは、机に置いてあった剣を抜き、
「嬉しいですわ、今まで見向きもしなかったくせに、そんな情熱を込めた瞳で見てくださるだなんて、ハデス、わたくしをもっと、もっと――」
ハデスの剣がグサリと、わたくしの胸を貫いた。
「ぐふっ……ああっ……」
わたくしの口から一筋の赤い血が、流れ落ちていく。
「……うふふ、ぐふっ、ハデスが、わたくしに、初めてくれた贈り物、これが痛みというものなのですね。 ……こんなにも……痛いものだなんて、わたくし、わたくし、とっても、うれしくて、興奮がとまらなくなってしまいそう」
傷口に触れながら、わたくしは、悦びに満ち溢れた瞳でハデスを見つめた。
「な、なぜ、生きている……」
腰元に隠していた短剣をわたくしは取り出し、
「お礼に今日から、ハデスも愛しい人形として飼ってあげますわ、永遠にね」
ハデスが、剣を握りしめている右手首に向けて、
「うがああああああ!!」
わたくしは、短剣を振り下ろした。
「痛いですか。痛いですか? あはははは、可愛い、可愛い、あとで治してさしあげますから、お人形さんは、手足はいりませんよね? あと、舌も、あなたはもう、愛されるだけのわたくしのお人形さんなんですから、まずは、いらないものを取り除きましょうね」
さらに左手首をザクリッ――
右足をザクリッ――
左足をザクリッ――
舌をザクリッ――
☆☆☆☆
「あらあら、ハデス、もう、眠ってしまいましたか? これからだと言うのに、仕方のないお人形さん……ほんとお寝坊さんね」
わたくしは、動かなくなった彼の額にキスをする。
あなたのことは、中で、たーくさん、たーくさん、見てきましたわ。うふふ、末永く一緒に暮らしましょうね。永遠に愛してさしあげますわ、ハデス。うふふ、それに、あなたもね、レウケー。
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