16話アイドルとお仕事

 ☆☆☆

 約束した土曜日、いつものようにタキシードを着て準備OK。

「おはようございます。よろしくお願いします」


 美少女は頭を下げる。やはり可愛らしい。


「よろしくお願いします」


 まぁと霧崎あかねは感嘆の声を上げた。


「この方が悠斗さんとおっしゃるのですね。とてもかっこいいです。SNSでも話題になっていましたよ。礼儀正しくて声もかっこいいとか」


「恐縮です」

 どうやら評判を見て指名されたようだ。


 有難いが、こんなにかわいい人に褒められるなんて経験がなくて照れてしまう。


「さて、撮影を始めましょうか」


 はいと答えた霧崎あかねはまだ夢見心地のようだ。


(アイドルといえどやはり女の子なんだな)


 俺は苦笑しながら仕事モードへと切り替えた。


 ☆☆


 撮影は照れの連続だった。

 カメラマンさんに褒められ、胸を張れ、もっと霧崎あかねに近づいてほしいなど指示が飛ぶ。


「はい、休憩」


「あの、悠斗さん、もしよかったらお話しませんか?」


「悠斗さんは体も大きくて写真映えすると思うんです。

 ですから自分に自信をもって堂々とカメラの前に立ってください」



「そのほうがかっこいいですよ」


「そうですかね」


「絶対にです」


 自身にみなぎっている彼女はやはりアイドルとしてのプライドで


 仕事をこなしているのだろう。


 さっきまでの自分の態度に恥じた。


 今度は完全に役を演じてやる。

 休憩終了と同時にまたカメラの前に立ったのだった。


「できたわよ」


 伊丹チーフに呼ばれていわれたのだ。


「今話題の霧崎あかねにあんなに乙女な表情をさせるなんて。さすが祐ね」

「そうですか。オレ、きれいに処理されすぎでは?」

 

 パソコンのなせる業なのかオレの毛穴まできれいにされている。

 女優並みの肌の良さ。

「大丈夫よ。今の技術で飛び切りのカッコよさにしてあげるから」


(フツメンとは思えんぐらいにイケメン化されている。もう詐欺だろ?)


「これ、本社近くのポスター張れる場所に置かせてもらうから」

「これを!?」

 

 凡庸男子がポスターになるそうだ。

 霧崎あかねの手の甲にkissしているA4程度のポスター。


 売り文句は「彼に魔法をかけてもらいませんか?」だそう。


「実は先方からの申し込みだったのよ。声が好きなんだそう! あとマナーが良いらしいって。よかったわね」


「え? 彼女って来店してくださいましたっけ?」


「彼女のお母さまが常連なんですってよ」


「ああ。霧崎真奈美様ですか」


 子供がいるといってはいたが、それがアイドルとは。


 俺を推してくれてるのはSNS繋がりの女子高生から50代まで来る。

 イケメン俳優ファンから声優さんのファンまで。


 これを知った高校生の友人たちが騒ぎ出し、大変な事に。


「流石、祐君ね。新しいことを提案してみようかしら」


 伊丹チーフは目が金を求める商売人だ。


 戦々恐々としながら家路についた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る