11話 こだわる伊丹さん

 手の甲にkissだけはさすがに青ざめてしまう。

「執事じゃなくないですか? これじゃナイトってか婚約者というか」

「似たようなものよ。こういうときめきを女子は求めているわ」

「セクハラで訴えられませんか?」


 大丈夫よと太鼓判を押されて、伊丹さんををみると恋する乙女の表情になっている。きっとこの会社には女子視点のトキメキを大切にするようだ。


「本社では新しい試みとして魔法キャンペーンをしています今年の4月から始めたものです。お嬢様の日々の活躍がうまくいくように手の甲にkissよ」


「……お坊ちゃまには??」

「する予定はないけれど要望があれば増やすわよ。次は写真ね」

 写真家さんに取ってもらえた。

「うん。いい出来だわ」

(本人的にはスピード写真と変わらない感じしたけど、どうなんだろう?)

「今日の説明はここまでよ。お疲れ様。気を付けてね」

 

にこやかに接客の基礎の資料と税金面の資料、そして魔法キャンペーンの趣旨とやり方がマニュアルとなって配布された。


 初日は時間のことも気にしてかそこで終わりとなった。

 電車で揺られながら、ヤバい展開になってきたと冷や汗をかく。

(本当に学業に影響はないのだろうか?)

 若干の不安も感じつつ、帰路についた。

 自宅に帰って時刻は22時30分。

「これなら何とかなるかな?」

 食事と風呂を済ませ、復習へと移る。なかなか英単語の熟語が覚えられないのだ。

 とにもかくにもバイト先で魔法キャンペーンが始まった。

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