3話帰宅のちルーティーン

 19時40分帰宅。

 のち夕飯、

 風呂で寝る。


 その生活を1学期つづけた。

 初の夏休み中はほとんどバイト。

「おかえりなさいませ。お嬢様」

 言い過ぎて口癖になりつつある。


「俺ってどうなっちゃうのかな」

 最近、バイトの影響が実生活にまで及んできたところだ。

 トーク画面で丁寧な言葉で連絡してしまうのだ。

「時間割りの変更、承知しました」

「承知しましたってお前、祐でいいんだよな。

 送り先間違えたかと思ったぜ。また飯いこうなー」

「おう」


 返信。ヤバいことに口調が変わりつつある。

「祐、こちらにきなさい」

 オヤジからの呼び出し。

 いっつも放任主義のオヤジだが、

 ここ最近の息子の行動に異変でも感じたのだろうか。


「なに?」

「お前、こんなバイトしているなんて知らなかったぞ」

「ウフフ、血は争えないわね。お父さん」

 母さんまで意味深な笑みを浮かべている。


 机に出されたのはバイト代の給与明細だった。

 たしかにバイトづけだったからかなり貯金額はある。

「こんなにたくさん稼ぐなんてすごいじゃないの。

 でも100万円は超えないこと。課税金額が増えてしまうのよ」


 絶対にばれたくはない秘密。


 そんなヒミツが父親にバレてしまったようだ。


「俺もなー、若い時には女装したりして金稼ぎをしたもんだ」

「は?」

「ねー」

「イヤイヤイヤどんな時代生きてんだよ」


 オヤジはバリバリの昭和生まれ。

 亭主関白って感じなのに。


「いや、時給がよかったもんでな」

「ほんとにおとうさん、可愛かったんだから。

 写真ないのが残念だわ。一枚くらいとっておいてもよかったわよね」


「で、やっていることを詳しく聞かせてもらおうか。

 まさか体を売ったりは」


「してないから」

 何かしら執事カフェの幹部に目をつけられていることを

 告白する羽目になった。


「ほぉぉう。興味深い」

 父親も目が輝いている。


「なぁ母さん、まだイケると思うか?」

「もっちろん」

 俺は冒頭の平凡を翻そうかと思う。


 非凡な両親を持っていることが

 誕生日にわかってしまった。

 むしろこんな家庭だとわかりたくなかったかもしれない。

「よし、わしはその会社に面接に行くぞ」

 イヤイヤイヤむりだろ。

 どう考えても。


「若者が多いから一人くらい爺やポジションがいてもアリだと思うのだ」


 ポジティブすぎる。

 誰がバーコード禿寸前の中年オヤジにときめくというのか。


「……逆にありかもな」

 内心は否定しまくりではあるが、

 言葉にしたらいろいろ面倒くさそうだ。


 黙っていよう。

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