第12話 できない防御

 父と母は弟の話をちゃんと聞いてくれただろうか?

 弟はきちんと両親を理解させてくれただろうか?

 ここでの話をそのまま伝えてさえもらえれば、とりあえず落ち着きを取り戻し、冷静に落ち着いて直接話をできるようになるのではないか、そう思い多少は期待していた。


 だが、そう上手くはいかなかった。

次の日から私の携帯がひっきりなしに着信音を鳴らし出したのである。


「お前はなんでお母さんのことを庇わないんだ!自分の弟が嘘ばっかり親の悪口吹き込まれてるのを黙ってみてたのか!」


「お前は親があんな風に言われてるのを見てよくも平気でいられるな!」


「また逃げる気か!だったらこっちに来い!二人揃ってこっちの家に来い!わかったか!」


 母親と父親から交互に電話攻撃が続くようになった。

初めは私も電話に出て、その都度説得を試みたり、私の立場を訴えたり、時には相手につられて声を荒げたりしながら対応していたのだが、いつしか電話が鳴る度に私は怯えるようになっていった。


 電話の音だけではない。その頃にはもう、玄関のチャイム、時計の時報等、あらゆる音に敏感になりびくびくと震えるような緊張状態となっていた。


 そうして徐々に精神的に追い詰められていったのである。


 次第に家族皆も疲弊していく。

家族のなかで私の立場はとても危ういものとなっていた。


 このままにしておく事はできない。

しかし夫は、自分達だけで対処するには危険過ぎるとし、だれか間を取り持ってくれる人はいないか、と考えた。そして両親がよく知っていて、尚且仲介に適した人物にあたるよう私に指示した。


 両親、特に母親が信頼している人物。

年上で立場が上で、その人の言うことなら聞き入れる、という人物が必要だった。

私は考えを巡らせた。


 母親は昔、自分の兄二人の妻達ともトラブルを起こし、それが激しい兄弟喧嘩に発展し今や絶縁状態なのだ。

それに父親の方も兄一人と絶縁、もう一人の兄は他県におり、その他頼れる親類は皆無である。


 たった一人、思い出した。

母親の叔父にあたる人物だ。母親はその人を慕っていたはずだ。

私にとって直接話したこともない親戚であり、突然こういった相談をするのは憚られだが、夫の強い要望と切羽詰まった私達の現状に藁おも掴む思いだった。


 きっとこの現状を知れば自分の姪である私の母親を諭してくれる、と期待した。

「それは...うーん、出来ないねぇ。姪と言っても人の家の事に口出すのは出来ないんだ。まぁ、それとなく言っておくから。な、それでいいだろう?」


 "余計な揉め事には関わりたくない"

と言わんばかりに母親の叔父は冷たく、正に他人事だった。

 親戚を集めて行う『いとこ会』という宴会が好きで、事あるごとに中心になって号令をかけていた人物である。

私はその宴会を毛嫌いして参加したことはない。やはり思った通り、ただその場を楽しむだけの上っ面親戚会だったのか。


 ただ、この人物が駄目なら私はもう頼れる人が誰も思い当たらなかった。


そして "それとなく" 母親に言った叔父の一言が、母親の怒りに拍車をかけた。



 









 

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