第11話 疑いとリアル
伯母の家に一晩お世話になり、夫に会えたのは翌日の晩、仕事から帰宅した時だった。
姑と私は前日起こった事の全てを夫に話した。
夫はその際、私と姑それぞれ個別に話を聞き、全体を客観的に捉えるよう努めた。
夫が全てを聞き終えた後、これからどう対処すべきか三人で話し合った。
「お前の親って本当のところ、どんな親なんだよ?」
私はグッと息を呑み、答えを探した。
幼い頃から育った環境、親から言われ続けた言葉を振り返った。
あの人達を客観的に見たら、どんな人物なのか、どう話したら釈明になるのか戸惑った。
その時、突然玄関のチャイムが鳴った。
一気に緊張が走った。父親が怒鳴り込みに来たのかと、三人で顔を見合わせた。夫がいち早く立ち上がり玄関へ向かい、ドアの向こうへ声をかけた。
立っていたのは私の弟だった。
胸を撫で下ろしドアを開けた。安堵した私だが、夫は弟の目の奥の怒りを感じ取っていた。
夫に居間へ通された弟は、挨拶もそこそこに本題に入った。
弟が母親から聞いた話として話した内容はこうだった。
「姉と母が話してた所にそちらのお母さんが割って入ってきて、母の顔を『可笑しい』とバカにして笑った挙げ句に『帰れ』と追い出されたと聞きました。それが本当かどうか聞きに来ました」
「えぇ!?」
姑は思わず声を上げた。
私は目が点になり、慌てて反論しようとした。
「違う!お母さんが最初に...!」
その時、咄嗟に夫が私を制した。
「俺から話すから」
私は夫に任せて口を閉じた。
夫は落ち着いていた。そして順序よく丁寧に、感情抜きに、私と姑から聞いた事実だけを淡々と説明した。
とても静かに時間は流れた。
弟もとりあえず、"こちらの言い分を聞いてから" という姿勢であった。
夫はまず、自分は自分の母親の話を聞き、その後私の話を聞いたこと、そして、両方の話しに食い違いが無かったこと、その上で自分は二人の話が真実だと考えてるということを伝えた。
「じゃあ、目がつり上がってるって言ったのは?」
弟のこの問いは、母親が最も憤慨したことなのだろう。実は母親は自分が美人だと自負している。若い頃から自分は男性にモテていたと自慢していた。父親と嫌々結婚したと言いながら、父親に一目惚れされたのだと誇っていた。
「『そんなに目をつり上げて怒ることないじゃないですか?』って私を庇っていってくれたこと。だれも『顔が可笑しい』なんて言ってない!大体、人の家覗いて、嫁に行った娘に嫁ぎ先で自分の言うことを聞けって怒るお母さんの方が普通の親のやることじゃない!」
私は勢いよく反論した。
「じゃあ、何でその後逃げた!?まずいと思うことがあったからじゃないのか?」
夫が弟のその問いに答えた。
「お義父さんからの電話は『ちきょう!今から行ってやるからな!待ってろよ!』これは脅しであり、怒りで興奮して何をするかわからない状態だと思うのは当然だよ。こっちは女二人で力では太刀打ちできない。俺は、よくお袋が俺の嫁さんと子供を守ってくれたと思っているよ」
弟の表情は次第に落ち着いてきた、というか、力が抜けたようだった。
母親は父親と同じ様に弟にも "言い聞かせた" のだろう。自分は被害者で、一方的に口激されたのだと。
「自分は、向こうの人間だから...親を差し置いて自分がここで頭を下げるのは違うと思うので、帰ってこの事を親に伝えます。自分は一応、事情を聞きに来ただけなので、その後は親に、任せます...」
弟はそう言って帰って行った。
その間、姑は一言も発しなかった。
夫は見送りながら弟は "匙を投げた" と感じた。
今後、弟はこの問題に関わろうとはしないだろう。言い換えれば "面倒になりそうだから逃げることにした" というところか。
それでも "長男だから" と母親に一任され、訪ねて来ただけに、帰ってから私達との話し合いの報告を両親にすることになるだろう。
果たして、両親は少しでも落ち着いて考えられるようになるのだろうか...?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます