第10話 避難

 姑は私と息子を連れて、伯母の家へと向かった。

「今来られても困るから」

姑は冷静で、迷いはなかった。

 前々から "女世帯" だと思われ、私の両親から下に見られてると感じていた姑は、私の父親が姑を "旦那のいない独り身" だという事を承知の上だからこそ、強い行動に出ているのだとわかっていた。


 しかも、私の夫もまだ帰らない。

「もしもの時、男がいないと太刀打ちできない」

万が一のことを考えての行動だった。

私はただ、身を任すしかなかった。


 姑の姉夫婦は快く迎え入れてくれた。

「ここに居れば大丈夫だから、ゆっくりしていきなさい。気にしないで大丈夫だから。ご飯食べたのかい?」

余計なことは何も言わず、私達親子を置いてくれた。

突然にも関わらず、嫌な顔一つせず、ただただ有り難かった。


 同時に、姑の親戚一同にこの事は広がるだろう、と覚悟した。

そう思うと肩身が狭く

「すみません」

という言葉しか出てこなかった。

消え入りたかった。

もうダメだ。今後もし親戚中から責め立てられたとしても仕方がない。何も言えない。弁解なんてとてもできない...


伯母は、小さくなってうつ向いている私を見て言った。

「可愛そうに。何で娘にこんな思いさせるのかねぇ」


 その後、連絡がとれた夫は、私と我が子を守ってくれた姑、自身の母に感謝していた。

 その夜はそのまま伯母の家に泊まった。



 仕事を終え、帰宅した夫は家に独りいた。

玄関のチャイムが鳴った。

チャイムは何度も連続で鳴った。出てこないとみると、ドアを激しくドンドン叩く音がした。


「出てこい!居るのわかってんだぞ!コラァ!」

おそらくこれは、一回目ではない。

父親の電話から三、四時間経っている。

 夫は、この調子では何を言っても無理だと考え、居留守を使った。


 どうして私の両親はこうも見境なく感情的になるのだろう。

母親はきっと、自分の言動や行動は棚に上げ、気に入らない相手の言葉だけを切り取り、一方的に被害にあい罵られた、と父親に告げたに違いない。


父親の怒りは私に対してか。

それとも姑に対してか。


そもそも、何故こんなことになったのだろうか?そんなこと父親は考えないのだろうか?。 

全て母親の言いなりなのか。


 それにしても、あんな風に理性を失ったような怒鳴り方をするものだろうか?相手は娘の嫁ぎ先だ。自分の行動が娘の首を絞めることになると想像がつかないのだろうか?

今、自分の娘がどういう状況に置かれているのか、気がつかないのだろうか?

親として私の気持ちなど、これっぽっちも気にかけないのだろうか?

情けない思いで、次々にいろんな疑問が浮かび上がる。


 いや、私の両親はきっとこう言うに違いない。

「何故親の気持ちがわからない!親に向かってそんなこと言って良いと思ってるのか!」


 私の親にとって子は、"親のためにある"。そんなところだろうから。










 

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