第6話 幸福と過ち
年始の挨拶に来ていた母親が、4時間してようやく帰った。
まだ大きくなった心臓の音と手の震えが落ち着かない。
姑は大きく息を吐くと
「疲れたわね」
と、一言漏らし自室へ向かった。
「すいません、あの...あ、ありがとうございました...」
姑は私に目を向けたが、何も言わずそのままドアを閉めた。
この当時、私は結婚して一年になろうとしていた。幸い、姑は私と母親は別だと思ってくれているらしい。
この家での生活は忙しかった。
私は姑の仕事を手伝いながら、炊事、洗濯、掃除と一切の家事と家計をやりくりした。
特に食事は姑の好みに会うよう気を使った。辛く思うこともあるが、私の実家と確実に違う事がある。
人との揉め事がない。
この家には私の母親のように、毎日人の文句や悪口を、人への妬みや蔑みを家のなかでぶちまける人がいない。
それが私の心に平穏をもたらしていた。
普通の家とはこういうものなのか。
それとも私が育った環境が普通じゃなかったのか。
この家にもうじき家族が増える。
私は臨月を迎えていた。夫との子を待つ幸せと同時に、言い知れぬ不安を募らせていた。
3週間後、正午過ぎに陣痛が始まった。幸いその日は、夫が休日で在宅していた。初産のためか出産まで14時間もかかり、一晩中陣痛に苦しんだが、明け方、男児が生まれた。
3,000グラムを越える赤ちゃんは、初めは産声が小さく心配したが、徐々に力を増していくように元気に声を上げて泣いた。
待ちに待った我が子はとても可愛かった。
助産師が赤ちゃんを綺麗にした後、夫がその子を抱いて分娩室へ入ってきた。
夫は恐る恐る、でも大事そうに抱き、優しく微笑んでいた。
辺りは朝日でキラキラ輝き、すっかり明るくなっていた。
私はその時に感じた幸せを一生忘れない。
皆、子供の誕生を喜んでくれた。
母親も、自身に初孫が生まれたことをこの上なく喜んだ。
"産後21日、水に触るな"
という昔の言葉通りにと、産後は実家で過ごすことにした。
その際に私は母親に
「私がいない間の夫が心配だ」
と言ってしまった。
これは私の最大の失敗だった。
家事の一切と夫の世話をしていた私は、つい思いを口にしてしまったのだ。
それを、母親に。
母親は私の言葉に張り切って、すぐに対応策を講じた。
それは父親に言い聞かせて自分の代わりに動かすことだった。
母親の思うまま、父親は産後3週間、私の実家で一緒に暮らすよう夫に命令した。
まだ私の親の本性を知らない夫は、戸惑ってはいたが、従うしかないと了承した。
こうしてしまったことで、後に最悪を招くことになる...
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