第20話 秘書室

「まぁ、継承者であれば新たに許可の申請をする必要もないでしょう」


そう言って、ハスグラッジは私たちを秘書室へ通してくれた。


知性の高さ故に図書の守り人としての責も担っている彼は

図書館全体の蔵書を知り尽くしているとも噂されていた。


「ハスグラッジ、聞きたいことがあるのだけれど」

「いえ、お断りさせていただきます」


先程までと同じ柔和な笑みに戻ってそう告げられた。


「おい、アモルの言い分も聞いてから返事すべきだろう」


ヴァールハイトが間に割って入るように声を上げた。


「嫌ですよ。これでも私は一応カムラ様の支持派閥ですからね?

ここで敵方に情報を売りつけたなどと噂が立っては迷惑なので」


目を細め、笑顔を浮かべるハスグラッジからは何の感情も感じなかった。


「……そうですね。いえ、あなたの言い分は正しいものだと思います。

私は、私の仲間と探してみるべきですね」


 ハスグラッジの言い分は正しい。

彼は昔からカムラ姉様の支持者であり、彼自身を十騎士に任命したのもカムラ姉様のはずだ。


そうであれば尚更、彼が私側につく理由がない。


「アモル!」


ヴァールハイトもリューゲも私にその視線を向けていた。


きっとこれは、不安。


ハスグラッジの言葉に私が傷ついていないのかと

心配してくれているのだろう。


「大丈夫。私にはあなたたちが居てくれるんだもの」


そう言葉を紡いで小首を傾げる。


この言葉は紛れもなく私の意思で

私の思いを表現することが出来ていると思う。


「籠の姫様がそんなにも思いを素直に口にするなんて珍しいですね」


柔和な笑みのまま薄く開かれた双眸から赤い瞳が此方を見据えていた。


「このハスグラッジ、少々アモル姫様を見くびっていたのかも知れませんね」


肩を少しだけ竦めながら彼は目線を外し、そうしてそのまま

重厚な赤い扉にかけられた南京錠に手をかけ、鍵を外した。


「……」


 言葉は紡がないが、入口を開け彼は秘書室の入り口から少し離れた。


「秘書室は厳重な管理の為、管理者の許可無しに出入りが出来ません。

もし、部屋から出たい場合は中に鈴を置いていますのでそれを鳴らして下さい。

……それと、万が一ですが秘書室からの本の持ち出しは禁止されています。

本を持ち出したことが発見された場合にはいかに継承者といえども

罰則の対象となることをお忘れなく」


警告を述べた後、ハスグラッジは右掌を秘書室の方に向け私たちに入室を促した。

 

「さぁ、探しましょう?この国に伝わる秘宝とはなんなのか、私たちの知らない事を」


だから私は2人の手をとり、秘書室に足を踏み入れた。  

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