第21話 本の森
私たちが秘書室に足を踏み入れて直ぐに
その背後で重く大きな扉を光を閉ざした。
そうして視界が黒に染まって数秒、真っ直ぐに見据えた視界の奥から
徐々に明かりが灯っていく。
入室前の警告の後、ハスグラッジから聞いていた通りだ。
『この部屋は外から見てどんなものがあるかわからないように
室内の照明を落としています。
あなた達が入室してから数秒で明かりが灯り始めますので
動かずに、その場で、その時を待って下さい』
そう、彼は話していた。
この秘書室にはこの国『インズ・アレティ』の成り立ちの裏側。
一般の国民には伝えられていない真実が記されている本が多く並んでいるのだという。
一般的にこの国は
インズ・アレティという少数ではあるものの戦闘能力の高い部族が
十名の騎士と共に本来この国を治めていた部族の長を打ち破ったことで
王位を勝ち取ったとされている。
それ以降内乱もなく
インズ・アレティと十の騎士によって
統治されている状況が続いているのだとされている。
だが、これは表向きの伝承だ。
そのうちは血に塗れており
惨たらしい現実が積み上げられた結果が
今のこの王国を作り上げているのだ。
「とりあえずは、この国の歴史書を探せばいいかしら」
リューゲは室内を見渡していた。
この国に関連する全ての本が収めされている為
蔵書数はとても多い。
けれども、その全てはハスグラッジの手によって分類ごとに分けられており
『歴史』『図鑑』『皇位継承』『地理』等種々のものに分けられ、表記されている。
見渡す限りに本棚が並び、壁には遥か天井に届きそうな程に高い所まで
本棚が続いている。
その全てに本が詰まっているのだ。
「インズ・アレティの秘宝、もしくはこの国の成り立ちから調べる方が
確かかもしれないな」
ヴァールハイトは淡々と言葉を紡いだ。
2人とも手を止めずに、一心に背表紙を見つめている。
そんな2人を一瞥しながら、入口から少し進んだ所で気になる表紙を見つけた。
『インズ・アレティの悲劇』
国の成り立ちに悲劇は付き物だ。
誰かの成功の裏側には、誰かの失敗がある。
それには涙も、血も付き物だ。
綺麗なだけの物語など、空想のものでしかないのだと
この王国で、継承者として扱われ始めた時に気付いていた。
それでもこの悲劇の本に惹かれたのは
きっと、今の状況を表せる言葉をそれしか知らなかったから。
異母姉としても、自分に近しい人間。
その人とも上手く話せない。
それどころか、互いに憎み合い、貶し合うような関係。
どちらが皇位を継ぐに相応しいかを決めなければならない。
これが悲劇でなければ、これが喜劇であったなら
幸福な未来が想像できるものであったならよかったのに
そう何度も願ってきたからかもしれない。
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