第19話 王立図書館
屋上を後にした私たちはそのまま王立図書館へ足をすすめた。
「相変わらず数が多いわね」
王立図書館は皇都の中心部、皇宮の入り口に位置している。
皇宮に仕えている侍従や騎士をはじめとする者達はもちろん
この国家に与するものであれば、誰であれ例外なく
この図書館を利用することができる。
その為、勉学に励む者や探究心を満たす者など
日夜、種々の人種が集まっているのだ。
「エルフに獣族にヒトに……。あら珍しい蛇竜まで来てるじゃないの」
リューゲは室内を見渡して嬉しそうに語る。
多種多様の一族が集って形を成した国。
それがこのインズ・アレティなのだ。
こうして多種族が集まる場所を見ると
過去の皇族がしてきたことが、間違いではなく
幸福な未来を迎えるための選択は過ちでは無かったのだと
思い知らされる。
利用できる種族に制限はないが
それでも国家を守る騎士が図書館内を訪れることはそうそうない。
しかも王位継承者がそれらを引き連れて歩く事など
皇都内でも珍しい光景故
室内から、ヒソヒソと声が響いていた。
「アモル様だわ……」
「あれが例の籠の姫様?」
「騎士様まで引き連れて……」
「カムラ様とはやはり何かが違うのよね」
声のした方を
私の代わりに睨みつけるリューゲに
その方向に立ち、壁になるヴァールハイト。
2人とも優しすぎるのだ。
『籠の姫』は民の声を聞かなかった私の怠慢。
騎士を引き連れることは民の心に多かれ少なかれ畏怖を抱かせる。
カムラ姉様と違う所などいくらでもあるのだ。
あの判断力も冷静さも、知力も剣の才も私にはない。
民の声はいつだって真実を映し出しているのだ。
けれども、それに立ち向かう勇気は未だに持てていないから
私は両脇に壁役を引き連れて室内を闊歩し、目的の秘書室前までたどり着いた。
「アモル様、此方に来られるなんて珍しいですね。
秘書室へ何か御用ですか?」
そう声をかけて来たのは
十騎士内でもリーダー役を担う四騎士の1人ハスグラッジだった。
彼は肩を越える鳶色の長髪を低めの位置で一つにまとめ分厚い本を片手に持っていた。
「カムラ様はここには居られませんよ?もう既に旅立たれましたから」
柔和な笑みを浮かべながら言葉を紡ぐハスグラッジ。
「それは分かっているわ。でも、今の私では姉様に追いつく事など出来やしないから
今出来ることをしに来ただけ」
真っ直ぐにハスグラッジを捉えて言葉を返すと
いつもは感情を見せない切長の瞳が少しだけ開かれた。
双眸から赤い色が見える。
生まれ付き知性の高いものは三原色に近くなるという言い伝えがあった。
彼もまたその類であり、姉様もそうであった。
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