第13話 代え難いもの
「…アモルちゃん?」
呼び掛けられた声が
思い出していたよりも少し低く擦れているような気がすると
思うと同時に
目前に迫るティラノの顔を認識した。
その瞬間に自分が呆けていた事に気が付いたのだ。
昔と変わってしまった姉上と
変わらないままのティラノを見て呆けてしまっていたのだ。
「…っ!だ、大丈夫です。」
思いの外声は震えていたようで、
「ティラノ、顔が近いぞ。失礼に当たる。」
と嗜めるマタル。
「あ、ティラノが苛めてる」
と騒ぎ立てるハスグラッジ。
「アモル!大丈夫なのか!?」
と慌てるヴァールハイト。
静まり返っていた室内には声が溢れ
様々な反応が飛び交っていた。
ー当の私は、人前で呆けた恥ずかしさと
近づいたティラノの顔が整っていたとか
ヴァールハイトの慌てぶりに驚いたとか
色々な感情が入り交じっていたような気がするー
「…秘宝を探さなくていいのかしら。
まぁ、呆けている暇があるなら大丈夫なのでしょうけど。」
周囲とは違い、一段と冷たい声が耳に刺さる。
その声に顔をあげると
声の主である姉上は既にこちらに背を向け歩き出していた。
「…では、私たちはこれで失礼します。」
丁寧な一礼をし
トロイを初めとしたカムラ派の騎士たちはこの場を後にした。
そんな騎士達の背中をただ、呆然と見送っていると
「大丈夫。カムラは必ず俺が護るから。」
また、頭にポンと重みが乗った。
そして、二度同じ動作を繰り返して
「アモルちゃんも、無事でいてくれよ。」
昔から他人の心配ばかりの彼もこの場を後にした。
「…アモル。」
暫くの沈黙の後、口を開いたのはリューゲだった。
十騎士の中で唯一の女性である彼女の存在はとても心強い。
不安なことも心配なこと、嬉しいことに幸せなこと
女性という性の性かそれを感じ取ってくれるのはいつも彼女が最初だった。
「秘宝探しの前に
一先ずはみんな領地に帰って各副団長にこのことを伝えて頂戴。
……準備が出来次第また集合する。それで良いかしら?」
まだ心の追い付かない私の返事を待ってくれる優しい存在。
「うん。」
私の口から出たのはその短い言葉だけだった。
だけれど、彼らにはそれだけで十分なようで
「了解した。」
「わかった」
「あぁ」
「うん」
と各々に返事をし
彼らもまた背を向けて歩きだした。
「困ったわね。私は遠いから……。
そうだ。ここから文を出すわ。
申し訳ないけど暫く、貴方の部屋に泊めてもらえないかしら?」
困惑の感情も申し訳なさの欠片も感じない程
リューゲの声は弾んでいた。
顔をあげた先にはいつもと変わらない自信に満ちた笑顔。
(あぁ、やっぱり優しいなぁ)
「うん」
それに吊られてか私の口から紡がれた言葉も
先程より弾んで聞こえた気がした。
宮殿内の来客室ではなく自室に彼女を招き
二人で使うには少し狭いであろうベッドで語り、眠る。
ティラノと友人になった頃の私ならきっと夢物語だと思うだろう。
この広い王宮のとても狭い人間関係の中で
友人と呼べる存在の獲得
そもそも王宮内で女性人口が少ない中での同姓の友人。
それが夢でなくて一体なんだというのだろうかと。
きっと昔の私ならば冷たく嗤ったのだろう。
そんな風に思いながら、夜も更ける中
目の前で声を弾ませながらコロコロと表情を変える彼女を眺めていた。
ーきっと彼女は気づいていたのだろう。ここで私を一人にしてはいけないと ー
だから私は話を聞いて眠りについた振りをして
彼女が眠りについたのを確認してから部屋を出たんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます