第12話 理解出来ないもの
「姉上…。」
「カムラ!居たのか…。」
ほぼ同時に言葉を紡いだ。
「アモルが愛らしいのは認めるけれど
貴方にアモルは渡せないわよ。
その子が欲しいなら、まずは私に剣で勝ってみせて?」
冗談めかして姉上は薄く微笑む。
ーそういえば、この頃はまだ姉上は微笑んでくれていた。
気付いたときにはもう、私たちの距離は離れきっていたー
「欲しいとかじゃ無くて……
いや、カムラに勝つとかあと10年は軽くかかるだろうな…。」
どうしよう、と後頭部をしきりに掻く彼を見てか
姉上が冗談を言う間柄と知ってか
気づくと私の中にあったはずの警戒心は薄らいでいた。
それを知ってか知らずか姉上は真っ直ぐ私の元へと近付いた。
そして少し屈んで、一息吸って
「アモル、今日はねこのデュオと私が
正式に主従契約を結ぶ儀式があるの。
……貴女も出てみないかしら?」
まだ幼い私に、儀式への参列などした事のない私にそう言った。
日に二度も呆気にとられ動けないことなどなかった。
「……なぜ。」
どうにか紡げたのはただ一言だけだった。
「貴女はまだ儀式への参列したことは無いでしょう?
作法を学んでおいて損することはないからね。」
ー騎士との主従契約の儀式ー
それは皇帝を継ぐ意志を示すもの。
その作法を学べと姉上は言った。
それが意味することを幼いながらも私は知っていた。
ー皇帝の座を争えー
ー私と闘えー
そう姉上は言っているのだと。
「私は姉上が皇帝を継ぐべきだと思っています。だから」
「違うのよ。そうではないの。
そうなってしまってはいけないの。」
ー私は皇帝の座を捨てるー
そう紡ごうとした口は姉上の手によって止められ
紡ごうとした言葉は言葉で遮られた。
目の前にあるのは悲痛に眉をしかめる姉上の顔だった。
何故そんなにも悲しむのか
何故こんなにも悔しいのか
何故喜んではくれないのか
私には何一つとして理解できなかった。
私が継承権を棄ててしまえばこんな争いなど起こらなくていいのに。
幼い私には何一つとして理解できなかった。
(理解が追い付いていないのは今も同じなのだけれど)
心の何処かでそう感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます