第7話 火種は燃える

静まり返る部屋に凛と響く声。

迷い無く流れ出る言葉は聞く人の心に突き刺さる。

「ある目的とはなんでしょうか?」


有無を言わせず突き刺さる言葉にその場が言葉を失う中

静かに、それでいて揺るぎない声が聞こえた。


左隣から聞こえたその声に顔を向けると

真っ直ぐに女帝を見つめる姉上の顔。


少し目を細め、睨み付けるような、強い意志を感じる顔。

 

「この国に伝わるという秘宝をさがしてもらいます。

 名は<インズ・アレティ>

 

 この王家が成り立つ上で必要不可欠な秘宝です。

 文献は図書館に様々なものがあるでしょうから

 その中から探し、その場所へ行き、そして、秘宝を持ち帰りなさい。」


淡々と述べる皇帝。


呆然とする一同を一瞥し

もう話は終わったかとでも言うように降壇しようとした。


「ククルス女帝。旅に出るのは二人の皇女と騎士だけですか?」 

 

再度静寂に包まれた空間に、矢の如く入る言葉。


「…それ以外に誰がいるというのですか。」


不機嫌そうに目を細めこちらを睨む女帝。相対し表情ひとつ変えず


「もう一人、継承権を持つものがいます。」


淀み無く綴られる言葉。

私の左隣から紡がれるそれは、とても鋭く心を抉った。


「皇帝の継承権を持つ者は皇帝の血族であること。

それが条件なのであれば王位継承者は私とアモル。

そして、私の弟であるハイドがいます。」

 

(おとうと…?)

 

 初めて聞いた。

カムラの母親は、ククルスの姉であるレ・ワイズ様。

私にとっての叔母にあたる人。


彼女は確か、カムラが8歳の頃に亡くなったと聞いている。

叔母が亡くなったことで、母上は王位を継いだ。

叔母上の死因は塔からの転落死だったと伝えられていた。

 

昔から母上は口癖のように


「カムラより貴女の方が王に相応しい」


「カムラより賢く、勇敢でありなさい。」

と言っていた。


 その口癖のせいか、私は王位継承者は私と姉上<二人だけ>だと信じていた。


継承権をもつ王子が早逝し

歴代の姉妹が<二人>である事も関係していたのかも知れない。


今までがそうだったから、きっと自分達もそうなのだと信じていた。

 

「弟…ですって?」


 問題なのは驚いていたのは私だけではなく

現女帝である母上も同じだったということ。


「レ・ワイズには娘の貴方しかいないでしょう?」

 

再度矢のように鋭い眼光をカムラ姉上に向ける母上。


「いいえ。私ともう一人。ハイドがいます。」


「そのハイドとはいったい誰なのです!ここへ連れてきなさい!」

 

声を荒らげる母上。

その表情は先程より厳しさを増していた。


(あんな母上は初めて…。)

 

普段から母上が声を荒らげることは無かった。

決して優しく温かな母親ではなかったが、静かに見守ってくれていたはずだった。


「ここにおります。」


皇帝の怒号に包まれ静寂に満ちる部屋に淡々と響く落ち着いた声。


「…貴方が、ハイド…?」

 

母上は酷く狼狽えた。

それは目に見えてわかるほど。


目を見開き、息は荒く

指先は震えを増して信じられないものを見る目で


私の後ろを見ていた。


-確か、私の後ろには…-

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