第5話 王位継承
[王位継承]
それは本来であれば切磋琢磨して奪い合うものだ。
だけれど私にはどうしてもそうは思えなかった。
私は王位など継ぎたくない。
それは幼い頃から抱き続けた想いであり
叶う事のない願いでもある。
私には国を護る力など、
そんな責務を負える程の技量など無いのだから。
王位など継いだ所で
この国の民を路頭に迷わせることは
分かりきっているのだ。
けれども、だからと言って継承権を放棄する意志もないのだ。
「アモル皇女?大丈夫ですか?」
ボノスが顔を覗かせる。
それはとても暖かく、
見ているだけで心穏やかになる瞳。
この人は他人の機微を読み取る事に長けており
こうやって何時も誰かを気に掛けている。
温柔敦厚そのままを体現する人なのだ。
「…ご心配をお掛けしました。大丈夫です。」
「…そうですか。何かあれば言って下さいね。」
ボノスは少しだけ眉を下げながら話す。
恐らくは納得しきっていないのだろう。
ただ昔から関わってきたが故に
私がこれ以上を口に出さないという事も分かっているのだろう。
私が[継承者]として任命された時も
誰よりも心配してくれていた。
だから口を噤む。
それが今の最良の選択だと分かっているから。
中庭で四騎士と話している間に時間は刻々と過ぎ
次第に十騎士が揃う。
先程の四騎士に加え
明朗快活な男性騎士ティラノ
狷介不羈の男性騎士トロイ
志操堅固の男性騎士ブレイク
冷静沈着な青年ロバール
堅忍不抜な青年ヴァールハイト
紅一点であり全てに粉骨砕身する女性リューゲ
これらを合わせて十騎士と呼ぶ。
この国を守る十騎士は皇帝継承者が複数人いる場合
自身がどの候補が皇帝に相応しいか決め表明する決まりがある。
その支持人数によって皇帝の意向
つまり『継承者』の決定にも関わってくるのだ。
現時点で姉上支持派は六人
私の支持派は四人となっている。
ただ私は皇帝より既に
『継承者』という称号を与えられているが故
未だに継承争いは続いているのだ。
(本当であれば、とうの昔に継承者は姉上で決まるはずだったのに)
皇帝が騎士の意見を聞かずに
継承者を決定した為にこの争いは終わらない。
私自身にも継承権を放棄する意志も無い為に。
「皆んな揃ったようですね。では、中に入りましょうか。」
ボノスの穏やかな声が響く。
きっとこれから始まる決して平穏で無い
争いの火種になるであろう会合へ誘う。
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