第28話 その1「死の木の契約ー1」
12月10日。もう少しでクリスマスである。
俺、ミランダ、モーリッツは学園近くのおもちゃ屋に来ていた。
モーリッツが「クリスマスツリーってどんなのですか?」などというので
「飾りつけするのが面白いぞ」
「当日はツリーの下にクリスマスプレゼントを置くんだ」と言ったら。
やっぱり知らなかったミランダと、モーリッツにツリーが欲しいとねだられた。
モーリッツも俺に甘えてくれるようになったのかと嬉しかったので―――
俺は、2つ返事でクリスマスツリーを買いに行くことにした。
本場同様、本物のもみの木と、あまり安物ではない飾りつけを買う。
まあ、飾りに関しては値段関係なく、年少組が欲しいと言った物を買っているが。
その点、高級志向の学園が側にあるショッピングモールは丁度良かった。
ちなみに、床にも飾りを置く。
プレゼント(中身は秘密)用のラッピングペーパーやリボンも買ったりする。
おかげで、おもちゃ屋の入口から押してきたでっかいカートは、山盛りに。
絶対全部は使わない―――全員の分かっていた事だ。
が、だから減らそう、という冷静な奴は存在しなかった。
ツリーに使わなければ部屋の飾りつけに使えばいいのだ。
そう思った俺は、2人に「折り紙の経験はあるか」と聞いてみた。
「「ありませーん」」やはりそうか。じゃあ折り紙も買おう。
何をするのか分かってない2人に、部屋の飾りに折り紙の作品も混ぜるのだと説明する。そうだな、モールとかも一部作ろう。
そう言うと2人は様々な折り紙を好奇心のままに買い込んでいた。
普通の折り紙は「ダサい」からだという。
それと、クリスマスパーティーの招待状も買う。ノリノリで買った派手なものだ。
そうだ、エラム(顧問のOB、引退ペイモン様の長男)も呼ぼうかな。
パーティをするときは、居間を今の3倍にしよう、飾りつけもその分必要だが。
模様替えも、クリスマスに合わせて行う。
今の通り、床に座椅子とクッションで座るのはそのまま(土足厳禁)だ。
だが、普段淡い灰色のカーペットは、深紅に金の縁取りに変える。
帰って早速ツリー(思ったよりデカかったな)を設置。
部屋の大きさと、カーペット、座椅子、クッションをクリスマス仕様に変える。
ピンポーン。ううん?誰だろう?
開けて出てみると、エラムと、同じくOBでエラムの弟レイナードさんである。
エラムの足には性別不詳の子供―――8歳ぐらい?―――がくっついている。
顔を見れば2人の妹(弟)なのはすぐわかる。母親そっくりだったからだ。
「どうしたんだ、いきなり?」
「いや、それが………この子はうちの第5子なんだけど、学園の幼等部1年に入る予定期間で、もう寮に入っているんだけどね、1人は危なっかしくて。雷鳴は子供の扱いが上手いから、頼めないかと思って………ほら、イスカちゃんと挨拶して」
イスカは黒い大きな目でこちらを見つめ、可愛らしい唇を開く。
「………いじめない?」
「大丈夫だよ、むしろ守ってあげるから、安心していいよ。俺は君の味方だ。エラム、この子の寮はどうなってるんだ?」
「それがぐずるばっかりで。全然できてないんだよ………それも頼む」
「そうか………イスカ、俺の名前は雷鳴。とりあえずうちにお泊りしよっか?今はクリスマスの飾りつけの最中なんだ、楽しいぞ」
「くりすます?僕も飾り付け、いいの?」
「もちろんだ!みんなで遊ぼう!」
にっこりと笑うと、イスカはトテトテと俺に近づき、足にしがみついた。
「イスカがこんなに早く懐くなんて」
ポカンとした表情の兄二人に、イスカの好きな物は?と聞く。
「精霊だね」「ですね、兄さん」
精霊?それなら後で、カミラの部屋に連れて行ってやるか。
「わかった。イスカの性別は?」
「子供の頃は、性別が定まらないのは普通だろう?この子もまだ無性だよ」
「じゃあとりあえず女の子として扱うけど、いいな?」
とりあえず………あれがいいな。
俺はイスカに蜘蛛の形の―――純金の台に深紅のルビーが乗った―――ブローチを差し出す。これには血の精霊が宿っているのだ。下級だけど。
イスカは満面の笑顔でそれを受け取り、精霊と交信する。
「ありがとう!雷鳴おにいちゃん!」
「本当に子供の扱いが上手いな………あ、この紙に割り当てられた寮の番地を書いてあるから、すまないが何とか作らせてやってくれ」
「クリスマスまではうちに泊めるけどいいか?」
「問題ないよ」
そういうと、2人はホッとした顔で帰って行った。
俺はブローチに頬ずりするイスカの手を引いて、カミラに合わせることにした。
結果、この家が精霊の住む家だと理解したイスカは、別人のように活発になった。
ミランダとモーリッツとも仲良くなり、一緒に飾りつけしている。
2人からすれば、ちょっと年下なだけの友達である。
食事は、モーリッツが使うクッキングメーカーで良いかと思っていたら、カミラに何か言われたらしく、俺やミランダと一緒に血を飲むようになった。
まあ、血は悪魔にとっては完全食物なので、好きなようにさせている。
そんなイスカが野良猫を拾ってきた。
まあ、野良と言ってもどう見ても純血のペルシャ猫だ。
使い魔にする?と聞いてみたら、本人は使い魔はいらない。
そのかわりペットにしたいという事なので、ペットグッズを買ってやることにした
目下の年少3人の関心毎は折り紙だ。折り紙は立派なジャパンのアートである。
教養として学ぶのはいい事なので、折り紙の本(日本語)をたくさん買ってやった。
3人共、あっさりと日本語をマスターする。好きこそものの上手なれだな。
ちなみに、やっぱりというか、1番上手いのはミランダだ。
そして、クリスマスイブがやってきた。
客は怪奇小説愛好サロンの面々と、ジーク、如月ちゃんといったところ。
他にも誰かのクラスメイトが複数人。うちのクラスのやつもいる。
まあ、調子に乗って、沢山招待状を書いたからな………
客が帰ったら、片付けせずに―――イスカが沢山ブラウニーを呼んでくれたので、お任せして―――寝てしまった。
次の日は25日、身内だけでプレゼント交換して過ごす。勿論イスカもだ。
無口だが懐くと態度で示す、可愛い娘である。
ちなみに、最近常に蜘蛛のブローチを身につけている。
ちなみに俺が贈ったのは「何でも1回言う事を聞いてあげる券」だ
♦♦♦
年が明ける前にイスカの寮を何とかしないとなんだが………
本人はうちがいいと泣くのである。寂しい寮は嫌だと。
俺はすっぱり諦めた。
先生の説得はエラムとレイナードに「任せた」と言ったら了承が取れた。
ので、イスカは今日からうちの子―――部屋増やした―――だ。
ところで今日はモーリッツがもじもじしている。
「どうした?」
と聞くと、「何でも1回言う事を聞いてあげる券」を差し出してきた。ん?
「先輩、今レヴィアタン領(海魔領)に停泊している超豪華客船と、超高性能武装船を見に行きたいです!」
「お前船好きだっけ?」
「最近のレヴィアタン領では少なかったですが、古い写真を見てカッコいいなって」
「いいぞ、みんなで見に行こう。どうせ冬休みだ」
「いやったあ!」
モーリッツに抱き着かれた。こいつ、将来は結構なガタイになりそうだな。
でも今は可愛い子だ、しっかりと抱き返した。
そんなわけで、俺と年少3人組は、港町「リベルタ」にやってきた。
古風な港町で、洋風だが、中華街も勢いが(
超豪華客船は、乗る訳ではないので外からしか見れない。
だが、武装船は一般公開されているらしい………って、どうしたイスカ?
え!?猫が逃げた!?しかも武装船の方!?って、ちょっと待てイスカ!
「走るぞみんな!」
猫を………というかイスカを追いかけ武装船へ。
入場料は金貨を放り投げ「釣りはいらない!」と言って駆けこむ。
最奥まで来てしまった。
だがそこには、銀色に輝く蜘蛛の網に囚われたイスカがいる。
そしてその背後には馬ほどもある巨大な真っ黒い体と、炎の様な目を持った蜘蛛がじっと佇んでいる。召喚されかけのクトゥグァにも似た気配だ。すなわち邪神。
俺の知識では―――恐らくアトラック・ナチャ。
宇宙で延々と糸を編み、どこかに辿り着くと世界は滅ぶという言い伝えがある。
アトラック・ナチャはイスカに対して問いを放つ。
あの深淵に橋をかける者がおらず
また、永遠が我にあの仕事を要求しているが
古き契約に従い、お主が運命を選ぶことを見届けよう
このまま我が網に抱かれるか?
深き者どもを受け入れるか?
お前はどちらを選ぶのか?
そして今気づいたというようにこちらにも言葉をかけてくる
「お前たちも我が網に抱かれるか?それとも深き者どもを受け入れるのか?」
アトラック・ナチャと深きものに何の縁があるんだ………
いや、今はイスカを助ける事だけ考えよう。
………うん?よく見るとこれ………いや『勘』もそう言っている。
「この蜘蛛は幻影だ!」
ミランダとモーリッツも俺の声で気付いたようだ。超リアルな幻影だと。
俺はイスカに『教え:癒し:精神治癒』をかけ「目覚めろ!イスカ!」と言う。
イスカを幻影の網から離して、もうろうとしているのを抱きしめる。
そうするとアトラック・ナチャは薄れて消えていくが………
「たとえまたひと時逃れようとも、死の契約からは逃れられぬ」
そう言ってから、消えていった………
そして、アトラック・ナチャが消えてから気付いたのだが、部屋の一画に蜘蛛のレリーフがある。石灰岩を利用した名刺サイズのはめ込み板で、イスカから借りて当ててみたがこれで型を取ったとしか思えないほどそっくりな形状だった。
イスカにブローチをつけ直しておいた。
でも、もしかしてこのせいで目をつけられたのか………?罪悪感が湧く。
ここに居る面子も、目をつけられているようだし、やっぱこれかな。
ちょっと凹む………。
「とりあえず、俺はイスカを休ませてやりたいから、早めにホテルに行くよ」
「あたしは猫を探すよ。起きた時いなかったらがっかりしそうだしさ」
「僕はミランダの護衛をします」
「わかった、何かあったら念話しろ」
外の桟橋に差し掛かった時、ドプン、という音がした。
船から遠ざかっていく(多分)半魚人が見えた。
珍しくないと思おうとしたが、邪気がそれを否定する。
………一応、2人には念話で注意しておいた。
結局、猫は見つからなかったらしい。
モーリッツは、ゆっくり観光出来て満足だったようだが、と苦笑しておく。
目を覚ましたイスカは猫がいない事で落ち込んでいたが、ミランダとモーリッツが不器用ながら一生懸命励ましており(2人もイスカが可愛いらしい)気を取り直した。
ちなみに俺はイスカを抱っこしたまま、できるだけ高価そうなジュエリーショップを選び、血赤珊瑚で大き目のハートのネックレスを作ってもらった。
で、こっちに血の精霊に移って貰う。それをブローチと交換した。
イスカは大事なのは中身なのだろう、全く文句は言わなかった
良かった、こんなものつけさせておけないからな。
だが必要になる可能性はあるので、俺がつけておこう。
夕食は中華街で一番美味い店―――イスカが地元の「食」の精霊に聞いてくれた―――で食事だ。値段?子供たちの笑顔はプライスレスだろ?
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