第2話 学園生活のための準備

 メッセンジャーボーイが、詳細なカタログを持って来た。

 さっそく目を通す。

 ミランダは「初等部」からだな。俺は「高等部」だろう。 


 成績順にクラスは変わる。A~Eのクラスがある。

 A・Bのクラスは、他のクラスより優遇される。特にAだ。


 また、寮は寄付金で変化、俺が高額の寄付をした場合―――面子にかけて高額な寄付をするが―――空間拡張された、好きなだけ部屋数を増やせる仕組みの部屋が与えられる。身内なら住まいを一緒にして、住まわせることも可能だ。


 サロンはABクラスなら、何でも立ち上げる事が可能だ。

 ただし上級生か、OBに顧問になって貰う事。

 サロンの一覧を見る、どれも面白そうではあるが………。

 兄ちゃん(魔界の第4王子)か姉ちゃん(その超高能力者の奥方)の役に立ちたい。


 兄ちゃんのために、邪神(クトゥルフ神話のクリーチャー)の研究をしてみようか。

 そうだな、それなら学園で単に遊んでるより有意義だ。

 そうしろ、と『勘』が告げる。邪神は悪魔の天敵だ。

 俺の勘は、神託や啓示に匹敵する『第六感』だ。本当に有意義になるのだろう。

「邪神探求」のサロンを立ち上げる事に決めた。


 話が変わって、寮の部屋だが、調度品は下位なら備え付けの物もあるが、上位の者は自分で持ってくるしきたりらしい。


 あと、重要な事だが、学園内では魔法は「生活魔法」しか使えない。刃傷沙汰を避けるためだ。武器を持ち歩くのも禁止。

 ただ、サロン内部では自由らしい。魔法研究のサロンとかもあるからな。

 

 それから、外出許可なしに外に出ようとすると、厳しい罰則がある。

 高能力者が多く雇われており、これをかいくぐって外に出るのは俺でも骨だろう。

 外出時に望めば、高能力者による警護も可能だ。

 坊ちゃん嬢ちゃんは親の敵が多かったり、身代金狙いが狙ってくるからなぁ。

 俺には不要だけど。


 あと、制服はあるが、私服で通うものが多いらしい。

 俺は制服がいい、折角学校なんだし………。

 選んだ服は、クラバット付きの黒いレースがふんだんに使われているシャツ。

 それと、光沢のあるグレーの布で黒いスラックスが止めてあるズボン。

 後は私物で特殊なドラゴンを使った姉ちゃん製のコート。

 その下には遺髪アクセサリーと、精霊を封じた宝玉。

 耳にはたくさんのピアス。指にもいくつもの指輪。


 ミランダにも俺の好みで選んでしまう。

 幽鬼の体をほどいて編んだ、青白いワンピース。月の紋章が揺れている。

 アクセントで腰のベルトの背中が赤いリボンになっており可愛らしい。

 目は赤いしいし、これでいいだろう。


 あと、大切なのは精霊の持ち込みについてだ。

 なになに………学舎ではダメだけど、寮やサロンで具現化するのはあり、か。

 一安心だ。読んでおくのはこれぐらいかな?

 後は、俺の契約精霊、カミラに了承を取るだけだ。


 自分の私室の左横にある部屋にノックしてから入る。

 そこは真紅の世界。この部屋の住人は、血と死と女の情念の複合精霊なのである。

 それも最高位の精霊に匹敵する力のある複合精霊なのである。


 住人であるカミラは膝まである黒髪に赤い目、陶器の様な白い肌だ。

 床には浅く血が張られており、本人は天然の黒岩に座っている。

 漆黒のワンピースは露出度が高く、なまめかしい。


「ねえカミラ、頼みがあるんだけど、学園に付いて来てくれるかな?」

「私の坊やが言う事なら聞いてあげるわよ?」

「サロンの願書を見て。邪神絡みになるよ」

「あら………それは、また。私はよくってよ。血もあれば死も訪れるでしょうから」

「本当?良かった………じゃあ願書を出すよ!」


 俺は自分の部屋に戻り、さっそく願書を書きだした。

 出来上がり。それに寄付金を魔法の袋に入れて完了。

 メッセンジャーボーイでなく、実力者に持って行かせた方がいいだろうな………。

 メッセンジャーは途中でからまれやすいからなぁ。途中で絡まれやすいのだ。

 今回はカミラに持ってって貰おう。

 カミラに頼むと、彼女は気だるげに引き受けてくれた。よし。


 後日、ディアブロ学園から、封書が届いた。

 俺の編入先は高等部1年、ミランダは初等部1年と決まったようだ。

 寮の部屋は一緒だ。希望通りだな。

 部屋のカスタムと、家具運び込みがあるので、早く入寮して来いと書いてある。

 それから、希望のサロンは立ち上げOKだが顧問が要る。

 ので、早めにサロン担当の先生に相談する事、だそうだ。


 実は、顧問はもう了承を取り付けてある。

 OBで理事、引退ペイモン公と先代べフィーモス公の長男、エラムだ。

 魔帝城のパーティで、同年代として親しくなったため、気楽に引き受けてくれた。

 学園も、理事が顧問なら問題ないだろう。


 クラス分けの試験は×月×日です。多目的ホールで行うので間違えないように。

 と、強調して書いてあった。


 早速俺は、カミラを大きな紅い宝石に封じ、腰の鎖に下げる。

 家具は、向こうに着いてから『無属性魔法:クリエイトマテリアル』で作る。

 あと、顧問のエラムには、悪いけど登録に来て欲しいと先に連絡しておいた。

 試験は、別に勉強する必要ないな、うん。


 ミランダにも用意させた。

 制服だし、俺の寮にミランダの部屋も作る。

 なので用意と言っても、初等部の勉強をしておくぐらいなので、連れ出した。

「まだにゅーがくじゃないでしょ?何でこんな早く連れ出すのさ」

「やっておくことがあるんだ。部屋の設計とか」

「部屋なんか、別に何もなくてもいいじゃん。血の樽ぐらいでさ」


「血といえば、俺の血をやるの忘れてたな。ちょっと待てよ………」

 俺は手首を切り落とす。そこから溢れる血をを水袋に入れて、いっぱいになったところで、落ちてた手をくっつける。

「ほら飲め。癒しの掟に従おうと思ったら必須だから」


「飲むけど………多い」

「普通に飲んじゃダメだからな、ちゃんと牙から飲めよ」

 言い置いて、俺は馬車を準備する。4頭立ての大きい奴だ。

 身分に相応しく、飾りも悪趣味じゃない程度に豪華仕様である。


 ミランダは、血を飲み切ってぼーっとしている。背中を押して馬車に乗せた。

雷鳴らいな、なんかいつもにも増してしゅきかも」

「血を飲んだからだよ。3か月で元に戻る」

「うん、それと嫌な予感がするんだけど、心当たりはー?」


「それは、設立するサロンのせいだろうな」

 俺は邪神(クトゥルフ神話のクリーチャー)に関わるサロン設立の話をした。

「げっ………そんなことに娘を巻き込むつもりなの、!?」

「守ってやるからさ、付き合え、娘よ」

 馬車が走り出す。

「うう~、特別に許してあげるよ。雷鳴がいなければ私はのたれ死んでたもんね」


 寄宿舎に着いた。寮監には話が通っているはずだ。

 黒髪赤い目と典型的な悪魔で、話しかけると愛想よく応じた。でも高能力者だな。

 案内された所には、何もないが空間拡張された真っ黒な空間が一つ。

 好きにデザインしろということだろう。

 俺は、全体的にログハウス風のデザインで行くことにした。


 まず、応接間。広々とした空間に大きな暖炉とローテーブル。

 ローテーブルの前にはこれでもかっていうぐらいのクッションと座椅子。

 毛足の長い木の色と同じ絨毯。客用にコーヒーメーカー。

 コーヒー用と血用のティーカップとゴブレットを、ガラス張りの棚に突っ込む。

 部屋の端には積み上がった薪。ここはこんなもんか。


 次、樽と瓶の保管庫。家から適当に持って来た。ワインセラーも作る。

 あとは大量のハーブを真空パックに入れて保存。

「貴重な血は特別用だ。そういう血が欲しい時は俺に言ってな。普段用でいつでも飲める血はここに置いとく」

「処女の血は?」

「それは特別だから、祝いの時か特別な客の時だけ」


 次、ミランダの部屋。

 本人の希望で、フカフカ棺桶と、柔らかい絨毯、勉強机と勉強道具類。後本棚。

 クローゼット。服の手入れ用品。マグカップ。洗面所と洗面用品。これだけだ。

 本人曰く、これでも置く物を増やしたらしい。


 次、カミラの部屋。

 コンクリートの、足首まで血が浸る床をつくる。

 これに使う血は、俺は好まないがカミラが好む年配の人間の血である。

 人間界の魔道具屋「オルタンシア」で得た血を、『血液増量』して使っている。

 血の床を作ったら、腰かけられそうな黒い玄武岩を用意する。それだけだ。

 カミラは満足そうに岩に腰をかけてから言った。 

「これで十分よ、かわいい私の坊や」


 次、台所。

 血の樽や瓶を加工するための部屋になる。

 客用に普通のものも取り揃えた。時の止まった保管庫と食器棚だけだが。

 あとは香りのいい樽と、瓶がほとんどを占める。


 最後、俺の部屋。

 ロフトを作って、そこにフカフカのマットレスを敷いてみた。天窓もある。

 勉強机と大きな本棚。暖炉とそこで寝転がるのに必要そうなクッション。

 大きいクローゼット。制服には種類があるので、その収納用と、外出着だ。

 俺は魔帝城にも参内しなくてはならない。ある程度は魔法で何とかするけど。

 他の広い洗面所には大きな鏡、あと洗面用品。


 こんなもんかな?


 次はサロンだ。

 エラムに来てくれるよう頼んだ職員室に、ミランダと一緒に出かける。

 校長先生には滅多な事では会えないらしいので、挨拶の必要はなかった。

 職員室の扉を礼儀正しく叩き、先輩にあたるエラムから情報を貰っていたので、間違えずにサロン担当の先生に声をかける。


「リスメラ先生、サロン設立の願書を出していた雷鳴です」

「ああ………聞いてるよ。またぶっとんだモノを作ろうと思ったもんだね」

「紅龍様の役に立ちたい(これは本音)ので」

「………あの方が邪神を”ひっかけて”試練の間からお帰りなのは、知ってる人は知ってるからね。キミは紅龍派だし、そういうこともあるか」


 そう言って先生は「認可」の判子の押された書類を渡してくれた。

「現状、部員は君とミランダ君だね?」

「はい、まあ希望者が来る確率は低そうですが………」


 スーッと職員室の扉が開く。エラムだ。

 職員の中でも人気があったらしく、挨拶や会話に答えながらこちらに来る。

「待たせたかい?ごめんよ、OBとして捕まっちゃってね」

「いや、遠い所仕事を押して来てくれて感謝してる」

「たまには仕事と参内以外の事がしたくなるものだよ………」

 エラムは遠い目をしいてる。現実逃避するなよ(苦笑)

 だが引退ペイモン領の経営は、まだ手伝いとはいえさぞ大変だろう。


 そのエラムにリスメラ先生が声をかける。

「やあ、エラム君久しぶりだね。こんな危険な部の顧問でいいのかい?」

「わたしが居なくても雷鳴がどうにかしそうな部だと思いますよ?彼とは魔帝城で親しくなりまして、OBとして名前を貸してくれと言われたので来たのです」

「そうか、私としては不安だが。ここでも邪神騒ぎの騒動があったからね、解決してくれるというのなら、受け入れるにやぶさかではないんだよ」

「そうですか、ならわたしを顧問にしておいてください」

「ああ、分かった。これで成立だね」


 俺はエラムと先生に礼を言い、仕事のあるエラムを見送ってから部屋に帰った。

 暖炉の前のクッション地帯のテーブルに、血のカップを乗せてくつろぐ。

 ヴァンパイアには火への本能的な恐怖があるのだが、俺はもう訓練で克服済みだ。

 ミランダにも火への恐怖を克服させてある。克服するのは早い方だった。

「ミランダ、次はクラス分け試験だぞ、頭に知識を情報球で流し込んでやろうか?」

 実技は自分で頑張らないといけないけどな。

「それってすごい頭痛がするんじゃないの?」


「初等部の分だけだからそこまで酷くない。でもお前はヴァンパイアとしての知識を優先させて育てたから………初等部の知識ぐらい最初から持っててもいいと思うんだ。後は授業を受ければいい」

「雷鳴がそう言うなら。AかBのクラスでないと、行動が制約されるんでしょ?」

「そう。いけない場所が増えたり、外出しにくくなったりする」


「じゃあ初等部で通用する情報球だな、はいよ」

 ポンと渡すと、ミランダは真剣に飲み込む。さほどもかからず消化できたようだ。

「なんだ、簡単じゃん」

 お前の元になった天使って、かなり上級だったんだろうな。


 試験の結果、俺は高等部1年Aクラスの主席になった。当然とも言える。

 ミランダは、主席ではないが、かなり高い順位で初等部Aクラスになった。

 今日は、いい血を出して祝いだな。


 邪神絡みの事件も、そろそろ起こりそうだと『勘』が告げている。

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