プロローグ

第1話 ~魔界の説明書~学園への一歩

 

 ここは魔界。魔帝陛下のおわす場所。


 魔界の「現代領」は8つの領地で出来ている。「大罪」が7つより多いからだ。

 丸い「現代領」は、ケーキのように切り分けられた形をしている。

 

 南から順に、「魔帝領」陛下の直轄であり、住まう住民のほとんどが「傲慢」の罪を体現している「傲魔」であり、恐ろしくプライドが高い。

 

 今代の陛下は、城で終わらないパーティを主催されている。

 ある程度身分がある者は、パーティに参内の義務もある。

 そんな魔帝城だが、役所も兼ねており、裏口から入ると役所である。

 ここで自分を登録してない悪魔は「いないもの」として処理されてしまう。

「魔界紳士録」がここから出ており、身分や実力が高い者はこれに乗ることになる。


 次は「レヴィアタン領(海魔領とも)」で、「嫉妬」の大罪を体現している。

 例を出すと、下手にここの女の子に手を出しておいて、本命が別の子だった場合、大抵呪われるか、直接殺しに来る。扱いの難しい種族として、広く知れ渡っている。


 3つ目は「アスモデウス領(淫魔領とも)」「淫行」と「虚実」の大罪を。

 表・裏・闇に領地が分かれており、それぞれ74大魔王が収めている。

 ほとんどが、両方の資質を持つので、交渉は大変だ。


 ちなみに74大魔王とは74人の実力者で、参内義務がある。各領地に10人程かな?

 よく、より強い者に倒されて入れ替わりがおこる。

 7大魔王(レヴィアタンやアスモデウス等)もそう。名前は役職名なのだ。


 さて4つ目は「ベールゼブブ領」住民は虫か爬虫類の姿が多い(人化もするが)。

 大罪は「暴食」と「腐敗」だ。「腐敗」系はあまりいない。

 主に「暴食」系統の住民が多い。


 5つ目は「アスタロト領(賢魔領とも)」「知識欲」の大罪を司っている。

 みんな主に地下で、研究に打ち込んでいるが、たまに作品が暴走したりしておかしな事に、いや、おかしなことを通り越してとんでもない被害が出たりもするか。

 今は行動派の賢魔が紅龍ホンロン王子の影響で増えている。


 6つ目は「マモン領(権魔領とも)」「権力欲」「金銭欲」の大罪を司っている。

「権魔」は「金魔」を見下しており、主に家柄が重要になって来る。

「金魔」は身分だけで、金を持ってない者は相手にしない。身分を買う事もあるが。


 7つ目は「ベルフェゴール領(夢魔領)」大罪は「怠惰」だ。

 街は静まり返っている。皆夢の中に入り、そこで怠惰に暮らしているからだ。

 たまに体のメンテナンスのために起きて、寝てる間の実の安全を確保するために結界を張り直していたりする。


 最後は「べフィーモス領(戦魔領)」大罪は「憤怒」だ。

 いつも怒っているわけではない。ただ短気なだけである。

 バカだと馬鹿にされるのに先代のべフィーモス様から嫌気がさしてきたらしく最近では、当代べフィーモス様と先代がタッグで教育に力を注ぎ込んでいる。

 ちなみに先代の離職理由は過労と育休(引退ペイモン様と結婚した)で、実に穏健な職の引継ぎだった。今代と先代の仲は大変良く、一緒に戦魔領の事を相談している。


 最後に「引退領」だ。まず、「現代領」はケーキのような形と言ったが、魔界は陛下の体で出来ているため―――パーティに出てくるのは分身だ―――胸の上からお腹迄の位置を占めているに過ぎない。

 その他は「引退魔王」が統べており、引退悪魔が暮らしている。

 引退悪魔とは、現代領でもう十分尽くしたと判断され、実力も兼ね備えた者だけが認められる「引退領」へ行くことができる権利である。

 ちなみに「引退領」に行く代わりに、魔界を出奔しても構わない。

「引退領」は「ルキフェル領」「アスタロト侯爵領」「引退ベールゼブブ領」「引退アスモデウス領」「引退ペイモン領」がある。

 長くなるのでここではこれ以上触れない。


 さて………俺の事も話しておこうか。

 俺はつい最近まで、制限空間で熾烈な戦いをしてきたばっかりだ。

 天使のフリューエルとミシェル。

 聖女で、小さい頃から俺の面倒をみてくれた人。

 悪魔のヴェルミリオン………は、昇天してしまったので魔界には居ない。

 聖女も、認められて天使になる事になったみたいだ。

 それらが仲間だった(白と黒が聖女の周りで踊る旅、参照)


 別れのあとでちょっと寂しい。

 

 話が変わるが俺は、魔帝領の悪魔だ。傲慢の悪魔だな。

 名前は、雷鳴らいな=ラ=シュトルム大公。

 『爵位』というのは、代々の魔帝陛下から、特別な時に特別な者だけが授かる。

 特に『大公』とは、魔帝の血縁者であり、かつ多大な貢献をした時に授かる。

 うちの爵位は第2代魔帝に与えられた。最高位の身分である。


 ところで俺は悪魔だがヴァンパイアでもある。ので、仲間を作る事ができる。

 帰ってきてすぐに、「抱擁(仲間にする儀式)」を行っている。

 理由は、寂しかったのと、用事で魔帝領の森の奥に行った時、死にかけの少女に死にたくない、助けて、と縋られたから。

 ヴァンパイアになっても生きたいか?

 そう聞いたら迷いなく「生きたい」と言われた。


 彼女は天使の姿と能力を映したドッペルゲンガー種の少女だった。

 だが、ヴァンパイア化することで、その姿は悪魔と称せる所まで変わった。

 金色の髪は青白いのストレートヘアに変わり、長さは膝まである。

 茶色の瞳は宝石のような赤になった。白い肌は青白く、白い翼は黒く染まった。


 名前は無かったので、俺は「ミランダ」と名付けた。響きが好きだったのである。

 魔帝城の裏口方面の役所で、俺の養女として住民登録と身分登録も済ませてある。

 

 能力は高かったので、ヴァンパイアとしての教育が終了後、うちの身内として恥ずかしくないレベルで自由にしていいと言った。

 家の中でウロチョロして、使用人と仲良くなるのはいいのだが、問題は外出だ。


 あちこちで悪戯を働いてくる。カラスに魔法をかけて、近所のオジサンのカツラ(魔法で固定されていたはずなのに、いったいどうやった?)を盗んだりとか、恐妻家の貴族の奥方に浮気をバラしたりとかだ。

 バレるようなことはしないが、俺にはネタばらししてくるのだ。笑える。

 

 天使の人格をある程度受け継いでいるはずなんだが、一体どんな天使だったんだ?

 もう定着してしまっているのでこれが本人の性格ということになる。

 ちなみに「血親」の俺に対しては遠慮は欠片もない。


 俺は、寂しさを紛らわせるために、彼女の部屋に行った。

 彼女は部屋にいた。シンプルな部屋だが、他の家具は別に要らないと言われたのだ。

「どしたの?捨てられた子犬みたいな目になってるよ」

 140㎝ほどの体躯なので、16~17の少年の姿(165㎝)でもくりくりした愛嬌たっぷりな目で見上げて来る。とてもかわいい。

 

「………なんか落ち込んでるね?ハグしてチューしてあげようか?」

「あ、それいいな。頼むわ」

「了解………ぎゅー。ちゅっ」

 キスは口である。小柄なコイツでは背伸びしないとできない。

 俺も抱き返す。華奢な体躯なので、すっぽり腕におさまる。

 寂しさが少し癒された。


「今日は癒しの氏族の「教え」の最後の仕上げに来たんだよ。つっても記憶球でおしまいだし、ただの訪ねて来た名目だけど」

「ねえ今日で最後なら、癒しの氏族の戒律って、もう守らないといけない?」

「ああ、守ってくれ。俺の血をたっぷりやるから、それを飲んだら助けを求めてくる奴が、時々出てくるから、その代償に吸血を要求するとかして」


「分かったよ。確か………1:助けを求められたら断ってはならない 2:相手の同意なく血を飲んではならない 3:相手より先に攻撃してはならない だよね?」

「そういうこと。貰った血で「血の樽」か「血の瓶」を作ればしのげるはず。最も、俺と一緒にいる時は血に不自由はさせないけど。一人の時は『癒しの教え』の『人工血液』でもしのげるはずだ」


「はーい!戒律守っていい子でいまーす!で、今は2人だから血をくれるの?」

「女の血と男の血、どっちがいい?」

「薄いけど甘いから、女の血かな」


「だったらアレかな………」

 俺は呟き、虚空に手を突っ込んで樽を出してくる。

 人界に出してる店「オルタンシア」で報酬に受け取っている血を樽にしたものだ。

「ジャスミンで漬け込んだ、25歳の女性の血だよ」


 ゴブレットに注いでやると、ミランダは美味そうにそれを飲み干した。

「おかわり!」

「勉強が終わったらね。ミランダならすぐにこの『教え』もマスターするさ」

「はあーい」


 勉強はあっさりが終わった。

ミランダの元になった奴は、結構レベルが高かったみたいだ。ご褒美に血を飲む。

そうそう、とミランダは書き物机の引き出しから、何か取り出してきた。

 パンフレット、か?

「寂しいなら、こういうのもアリじゃないかな」


 受け取ってみると、それは「学園生活のお誘い」が書かれているパンフだった。

 しかも淫魔領にある、魔界で一番格式が高い学校の。

 学園生活は、勉強さえきちんとできれば、サロン(部活)にいつでもいける制度だ。

 必須授業は「魔界の歴史と悪魔の心得」だけだ。

 良家の子弟、子女ばかりだ。学校生活でコネを作れと遠回しに書かれている。


 いいな、これ………本格的な案内を取り寄せよう。

「学園生活するなら、お前も俺の娘として一緒に入ろう。どっちみち悪魔としての勉強は必要だったんだ。ディアブロ学園を出ると拍が着くし、友人もできるぞ」

「そうなの?あたしも学園生活?」

「一人は嫌だからな。まあ学級は違うだろうけど」

「しょうがないなあ、もう………」


 俺はミランダの部屋を出、自分の部屋へ。

 詳しい案内書を送ってくれるようディアブロ学園へ一筆したためる。

 メッセンジャーボーイを呼んで手渡し、忘れずに案内書を貰って来いと念を押す。


 前回の仕事が過酷だったので、学園生活を送るぐらい許してくれるだろう。

 おれは案内書をまだかまだかと待つのだった。

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