10 くらげの夢

 深海を漂う夢を見た。真っ暗な海に、白いクラゲがふよふよと漂っている。

 俺もクラゲなのだろうか。所在なく浮き沈みしながら、段々と浮上していく。

 ふと、一匹のクラゲがつい、と近寄ってきて、ぽよんと体がぶつか――ったところで目が覚めた。

「うなされてたよ」

 目の前には白く透き通ったシロの顔。闇の中、重力を無視してベッドの上に浮かんでいる姿は、夢に出てきたクラゲに似ている。

「怖い夢でも見てた?」

「いや……夢の方が良かった」

 現実は、とにかく蒸し暑い。

 古い家だからだろうか、それとも父が苦手だったのだろうか。この家に冷房の類はなく、ようやく見つけ出した扇風機で寝苦しい夜をかき混ぜてみたものの、焼け石に水でしかない。

「窓、もっと開けてみる? 少しは風が入るかも」

「網戸が破れてるから、これ以上開けたら虫が入るって言ったのはシロじゃないか」

 この部屋は客室だとシロは言っていたが、恐らくほとんど使われたことがないのだろう。

 あ、それじゃあさ、といたずらっ子のような目をして、シロが俺の隣に転がり込んできた。

「隣で寝てあげるよ。幽霊は冷たいからさ、少しは涼しいんじゃない」

「……幽霊って冷たいの」

「らしいよ。ほら」

 差し出された手は、掴もうとしてもすり抜けてしまう。仕方なく、ぎりぎり触れるくらいに近づけてみると、確かに何だか少しひんやりするようだった。

「ほんとだ」

「でしょ。朝まで隣にいてあげるよ」

 嬉しそうに寝台に寝転がって、お泊まり会みたいだね、と笑うシロ。

「ここは一つ、怪談でもする?」

「ええ……」

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