08 笹の葉さらさら
「さらさら、っていうよりは、ざわざわ、だよね」
裏庭の笹林から聞こえてくる葉擦れの音は、シロのいう通りどこか重厚で、こうして夜中に聞くとむしろ不気味なくらいだ。
「でも『お星様キラキラ』はホントだね」
いつもより高い位置から見上げる空は、まるでプラネタリウムで見る星空のように、暗く青く澄んでいる。まるで星に手が届きそうなくらいだ。
「屋根に上れるなんて知らなかったな。いいところを教えてもらったね」
「シロは登ったことがなかったの?」
家のことに詳しい彼のことだから、屋根に上がれることも知っていると思っていたのだが。
「そうだね、ここには来たことがないや。ショウが天体観測をしてたっていうのも知らない。きっとずっと昔の話なんだろうね」
天体望遠鏡も錆びてたしね、と物置から発掘された品々を思い出し、笑うシロ。
物置にはその他にも様々なものが眠っていた。登山道具や自転車、サバイバルキット。中には銅鑼やお面、ホラ貝なんてものまであって、趣味の方向性に若干の疑問を感じる。
(……山伏だったりしないよな?)
あれこれ手を出して、最後まで残った趣味はやはり釣りだったのだろう。釣り道具だけは物置ではなく、玄関横の専用置き場にきちんとまとめられていた。釣りをやらない俺には価値が分からないし、持っていても宝の持ち腐れだ。あの辺りはまとめてバーの店主に寄贈しようと思う。
機嫌良く七夕の歌を口ずさんでいたシロが、「五色の短冊」と歌ったところでふと歌うのを止めた。
「それで、君は一体なんてお願い事を書いたの?」
昼間に書いた短冊を思い出し、あははと笑う。
「大人になると、咄嗟に願い事って思いつかないなあってことを、思い知ったよ」
賄いのカレーを食べながら悩みに悩んで、結局書けたのは「晴れますように」と「健康でいられますように」の二つだった。「家内安全」や「湿気退散」と大差ない、正直言って織姫と彦星には荷が重い願いごとだ。
「いいじゃない。実際晴れたし。それに――大事だよ、健康って」
しみじみと呟くシロ。実体がないはずの横顔を、半月が照らしている。影は出来ないのに、不思議なものだ。
「ユウ君は長生きしてよね。幽霊はさ、寂しいよ」
その幽霊から言われてしまっては、返す言葉がない。
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