06 カレンダー

「うわ、これなんて書いてあるんだ……」

 半年前で止まったままの壁掛けカレンダーには、日々の予定が書き記されていた。随分とまめな人だったようで、三ヶ月以上先まで予定が書き込まれている。ゴミ出し、通院日、釣りの予定――大体は読み解けたのだが、父はかなりの悪筆で、三文字を超えると途端に崩し字もかくやという難解さになってくる。


「誕生日、じゃない?」


 背後からの声にひゃっと飛び上がったが、振り返るとそこには昨夜出会ったばかりの幽霊シロが、俺の肩越しにカレンダーを覗き込んでいた。

 彼が出てきたということは、もう日が落ちたということか。

「おはよう? それともこんばんは、かな?」

 律儀にそう挨拶してくるシロに「こんばんは」と返してから、改めてカレンダーを確認する。見ていたのは三月のカレンダー。シロが読み解いた「誕生日」の文字が書かれているのは――十二日。


「ショウの誕生日は五月だったよね。これは誰の誕生日なのかな」

「俺の――」

「え?」

「俺の、誕生日だ」 

 それが父にとっての記念日だったのは、四半世紀も前のことなのに。

「……覚えてくれてたんだ」

「忘れないでしょ。大切な日だよ」

 さも当たり前のように答えて、シロは笑う。

「自分の誕生日なんかより、よっぽど大切な日だ」

 カレンダーをめくってみる。父の誕生日の欄には、通院の予定しか記されていなかった。

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