旅の5日目
「中学三年の夏休み、私達は
そして、その予感通りに、良くないことが起きた……?
「えぇ……私達を
あ……それでおじいちゃん、やたらと鍵のこと、気にしてたんだ……
「恐らく、また勝手にスペアキーを作られていないか、警戒していたのでしょうね。……スペアキーで別荘の中に入ってきた幼なじみと許嫁は、私を責めた。『
どうして
悪いのは藤佳ちゃんを突き落とした
「けれど……真理乃を守れなかったのも事実よ。階段から突き落とされた時も、その後も……」
藤佳ちゃんはその後どうしたの? 一貫校なのに、アタシが退院した後、藤佳ちゃんは学校にいなかったよね? どうして
「それは……真理乃のご両親に、藍花学園の姉妹校である、
つまり、藤佳ちゃんを脅したってことだよね……? そんなのひどい……あんまりだよ!
それに、藤佳ちゃんを突き落とした二人は、どうしてアタシの傍にいられたの!? こんなの、おかしいよ……
「そのことも、家族を盾にされて……突き落とされたんじゃなくて、足を滑らせて落ちたことにするしかなかった。その上、真理乃が記憶喪失なのをいいことに、貴方と別れるよう迫られもしたわ」
なんだ……やっぱり皆して嘘ついてたんだ……元々、周囲の人間の言うことには、違和感を覚えていたから……それに、おじいちゃんと二人っきりでは会わないように、手を回されていたのも変だったし……今にして思うと、おじいちゃんがアタシに、ほんとのことを言わないようにするためだったんだろうね。
「恐らく、そういうことだと思うわ……」
あぁ……きっと親戚の子が、そこの階段から落ちて亡くなったっていうのも、アタシを
どこまで卑怯な人達なんだろう……。
「そうね……だからこそ私は、ただ黙って引き下がりたくはなかった。そのまま負けて終わりたくなくて、別れを迫られた際に、真理乃のご両親とおばあ様にお願いしたわ。“もし、またどこかで真理乃と再会し、彼女の方から声を掛けてくれて……再び私のことを好きになってくれたら、私達の関係を認めて下さい”と……恐らくご両親もおばあ様も、そんなことあり得ないと思ったのでしょうね。簡単に了承してくれたわ。……私はその言葉を録音、録画し、書面でも約束させた。何がなんでも、約束を守ってもらうためにね。もし、それでも約束を破ると言うのなら……真理乃、貴方をどこかへ
藤佳ちゃん……
「平気な顔をしているように見えるかもしれないけど、私は、真理乃との仲を引き裂いてきた人達を恨んでいるわ。それに……何度も真理乃に会いに行こうとした。けれど、自分からした約束を破る訳にはいかないと、ずっと我慢していたのよ……それなのに、向こうは約束を守らないなんて……そんなこと、絶対に許さないわ」
うん……アタシも、藤佳ちゃんと同じ気持ちだよ。だからこそ謝らせて。
ごめんなさい! 実はアタシ……今まで藤佳ちゃんのこと、騙してたの。
「え……」
アタシ……本当はとっくに、記憶が戻ってたんだ。
今まで全く思い出せなかったのに、大学で藤佳ちゃんとすれ違ったあの日……アナタの顔を見た瞬間、すぐに思い出したの。
けれど、アタシにはそれを打ち明ける勇気がなかった。忘れられてたらどうしよう。人違いだったら、もう他に好きな人ができていたら……いろんな不安が込み上げてきて、なかなか言い出せなかった。
藤佳ちゃんのことを信じきれなくて……こんな風に試すようなまねして、本当にごめんなさい。
「なんだ……そんなこと? “騙してた”なんて言うから、何を言われるのかとドキドキしたじゃない」
そんなことって……怒って、ないの?
「どこに怒るトコロがあるのかしら?」
ははっ……アタシってバカだなぁ。
「そんなことないわ」
……あのね、記憶を失っている間も、藤佳ちゃんが言ってくれた言葉だけは、すぐに思い出せたの。
顔にモヤのかかった
その言葉のおかげで、本当のアタシを見失わずに、今まで生きてこれた。
「ふふっ……とても光栄な話だわ。それにしても……記憶喪失のフリを続けていたなんて、全く気がつかなかった。お世辞抜きで、私より演技が上手なんじゃないかしら?」
藤佳ちゃんにそう言ってもらえるとうれしいな。でもね、この
……祖母と父の前では“優秀なお嬢様”を、母と二人っきりの時は“甘えん坊で守ってあげたくなる、幼い息子のような僕っ子”を、幼なじみと許嫁の前では“従順で少しぶりっ子な真理ちゃん”を演じ分けていたからね……イヤでも演技が上達してしまったの。
「それは……その、ごめ――」
待って! 謝ってほしくて、こんな話をした訳じゃないよ。
ただ……藤佳ちゃんはアタシを、“アタシ”のままで、肯定してくれるから……すごく感謝してるって伝えたかったの!
それに……アタシがほしいのはもっと、別の言葉だよ。
……と、言ったものの、やっぱりアタシから言わせて?
藤佳ちゃん、大好きです。もう一度、アタシとお付き合いしてくれませんか?
「っ……うん。私も大好きよ、真理乃……愛してるわ」
アタシも……愛してるよ、藤佳ちゃん。
もう二度と、藤佳ちゃんのこと、忘れたりしないからね。
この先ずっと、アタシの傍にいてください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。