旅の4日目

「今日はここ、つくもフラワーパークを案内するわ」

 ここにはいつ頃、遊びに来たの?

「中学二年の冬休みだったわ」

 そうなんだ……。

「……まだ、最終入場時間は過ぎてないわね。折角だし、園内に入ってみる?」

 うん、園内を散歩してみたい。あと……あの大きな観覧車にも乗りたいな。

「分かったわ。それじゃあ、入りましょうか」






 中学時代のとうちゃんとアタシって、どんな感じだったの?

「そうね……表面上は親しくなる前と、あまり変わらなかったわ。別々のグループで、部活も違ったから学校内での接点はほとんどなかった。けれど、テスト期間は一緒に勉強したり、休日に遊んだり……の親御さんや幼なじみ達の目を盗んで、遊んでいたわ。時々、桜佳も一緒にね」

 そうなんだ……藤佳ちゃんは何部だったの? あ、演劇部かな?

「いいえ、絵を描くことが好きだから美術部だったわ」

 え! そうなんだ。それなら、いつから演劇に興味を持つようになったの?

「そうね……実はそもそも、演劇にはあまり興味がないの」

 へ……? だったらどうして、舞台芸術学科の演劇コースに……?

「また例の第六感も関係してくる話なのだけれど……芸術大学に入学すれば、真理乃と再会できる……そんな予感がしたわ。そして、真理乃の夢も踏まえると、美術学科ではなく、舞台芸術学科の方がいいと思えた」

 アタシの夢って?

「この話を、自らするのは少し恥ずかしいのだけれど……順を追って説明するわね。真理乃のおじい様とおばあ様が別居するタイミングで、真理乃はおじい様から昔、使っていた小型カメラをもらったそうなの。それで、『藤佳ちゃんを撮らせてほしい』とお願いされて……撮影後、『藤佳ちゃんのこと、もっと撮ってみたい。いつかアナタを主人公にした、ドラマを撮りたい』と言ってくれたわ。それもあって私は、演技について学ぶために、舞台芸術学科を選んだ」

 そうだったんだ……でもそれだと、藤佳ちゃんは本当に好きなことをできていないんじゃ……

「そんなことないわ。絵に関してはで学んでいるもの。それに、あくまできっかけが真理乃ってだけで、演技することも割と好きよ。違う自分になれるのは思いのほか、とても楽しいわ。なにより、スキルアップした状態で、今こうしてまた真理乃に撮ってもらえてるから、とても幸せよ」


 そっか……それなら、よかった。

 ……それにしても、両親や祖母が、こういうテーマパークに来ること、よく許してくれたなぁ。

「そこは真理乃のおじい様のおかげよ。どこかに出掛ける時はいつだって、何らかのカタチでおじい様が協力してくれたからこんな風に、真理乃と一緒にいられた。だから、真理乃のおじい様には感謝してもしきれないわ」

 そっか……昔からずっと、おじいちゃんだけはアタシ達の味方だったんだね。

 葉薊芸術今の大学への進学を反対されていた時もね、おじいちゃんが助けてくれたの。

 おじいちゃんは映画監督っていうのもあって、アタシが映像関係の道に進むことだけは、簡単に良しとしてくれなかった……けれど、最後はアタシの、“かわきくろうのような、美しい映像を撮りたい”っていう本気の想いを受け止めてくれて……学費まで出してくれた。

 だからアタシも、おじいちゃんには感謝してもしきれないよ。

「ふふ……やはり素敵なおじい様ね」

 うん!

 ……ねぇ、藤佳ちゃん。つくもフラワーパークでの思い出話も聞きたいんだけど、いいかな?

「えぇ、勿論よ。私も……真理乃に、伝えたいことがあるもの」

 伝えたいことって?

「……とりあえず、観覧車あれに乗りましょう。二人っきりになれる場所で、話したいことなの」

 う、うん。分かった。






 わ~……観覧車高い所から見える花達もキレイだね。

「そうね」

 ……そ、それで、アタシに伝えたいことって……?

「…………」

 言いづらいことなら、また別の機会でも……

「——ねぇ、真理乃……もし、私達が恋人同士だったって言ったら……信じてくれる?」

 へ……

「…………」

 …………

「……ごめんなさい、今のは忘れ――」

 やっぱり、そうだったんだ……

「え……」

 ごめん、“やっぱり”っていうのは、少し違うんだけど……その、アタシの……片思いだと、思ってたの。

 大学で初めて声を掛けた時は、自覚してなかったんだけどね、こうやって藤佳ちゃんと話している内に、その……徐々に惹かれてた。藤佳ちゃんのこと、好きだなって思ったの。

 なのに、まさか付き合っていたなんて夢にも思ってなくて……すごくビックリして、声が出なかったの。

 だから藤佳ちゃんの話、信じるよ。というか、本当であってほしい。

「よかった……引かれたのかと思った……」

 うん、惹かれてるよ? ……あ、引かれたの方か……引いてはいないけど、惹かれてはいたんだよって、口で言うとややこしいね。

「ふふっ……本当に、良かった……」

 その、もしかして告白って、ここでしたの?

「えぇ、とてもベタだけど、観覧車の中で私から告白したの。……丁度、今みたいな綺麗な夕焼け空だったわ」


 藤佳ちゃんは……いつからアタシのことを……?

「小学校の入学式の日から好きよ……あれはいわゆる、一目惚れだったわ。アプローチを始めたのは中学一年生の時。桜佳がね、『じょ、藤佳のこと、意識し始めてるよ』って教えてくれたから……桜佳は、人の感情を読み取ることができる第六感を持っているの。だから桜佳の言葉を受けて、さり気ないアプローチを始めて……中学二年の冬休みにここで、真理乃に告白して、恋人同士になれた」

 藤佳ちゃんのお姉ちゃんもすごいね!

 それに……藤佳ちゃんから告白してくれたなんて、夢みたい。

「夢じゃなくて現実よ。ただ、交際していることは応援してくれていた桜佳以外には、秘密にしていたわ」

 すめらぎくんとは正式なお付き合いをしていた訳ではないとは言え、両親と祖母がアタシ達のこと、認めてくれるとは思えないもんね。

「それもあるけど……多方面からの嫉妬がかなり、ね……」

 あ~……藤佳ちゃん、モテそうだもんね。

「何を言っているの? 人気があったのは真理乃、貴方よ。それに……許嫁くんの方は真理乃に結構、本気だったように思えるわ」

 皇くんが? そんな感じしなかったけどなぁ。

 そんなことよりさ……あと二つだけ、聞いてもいいかな?

「えぇ、何でも聞いて頂戴」

 その……あのね、アタシ達って……どこまで進んでいたのかなぁっと、少し……ううん、かなり気になって……

「……そうね、かなり進んだ関係だったんじゃないかしら? あんなことやこんなことまでしていたわね」

 へ……

「ふふ……冗談よ。当時はまだ中学生だったもの。とても清い関係だったわ」

 も~からかわないでよ~

「ふふふ……ごめんなさい。真っ赤な可愛い顔で聞いてくるからつい、意地悪したくなったちゃったの。それで、もう一つの聞きたいことは何かしら?」


 アタシは……どうして記憶を失ったの? 藤佳ちゃんなら知ってるよね? 本当の理由。

「……ご両親からは、どんな風に聞いているのかしら?」

 交通事故に遭った際に、頭を強く打ったって聞いてるよ。

 けれど、絶対に何か隠していると、アタシは考えてる。

 お願い、藤佳ちゃん。本当のことを教えて! どんな真実でも、アタシは受け止めるから。

「分かった……真理乃のおじい様の別荘に戻ったら、“あの日”のことを全て話すわ」

 どうしておじいちゃんの別荘で?

 この後、どこか近くに移動して、話すんじゃダメなの?

「それでも別に構わないのだけれど……あの別荘で、真理乃は記憶を失ったから……話すなら、あそこの方がいいと思ったの」

 ……分かった。その代わり、必ず全てを話すって約束して?

「えぇ、約束するわ」

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