第21話 肝試し 1
ミーン ミンミンミン ミーン
「………あづい」
俺が此方の世界に戻ってきて、1週間が過ぎた。
あの後、脳波の精密検査では、特に異常が見当たらなかった為、3日程入院した後は自宅療養という形をとっていた。
入院中、春樹や芹沢達が見舞いに訪れた時は、そりゃあ賑やかで、嬉しくもあったが正直もう来ないでくれとも思ったのは懐かしい記憶である。
ブー ブー ブー
「………春樹か?」
スマホに入った着信を見れば相手は春樹であり、俺は退院後、何するよりも先に買い換えたスマホの通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『いよう親友、元気か?』
「ああ、暑くて死にそうな所を除けばな」
スマホの向こうから聴こえてくる更に暑さを倍増させる男の声に、少しウンザリしながらも俺はそう答えた。
『そうかそうか、ならそんな親友にピッタリな誘いがあるんだがどうだろうか?』
「プールは行かんぞ」
あれだけは、もう勘弁して貰いたい。
『ハッハッ、プールか、それも良いがそれよりもっと涼しくなる誘いだ!』
何だか、悪寒と共に嫌な予感しかしないぞ……?
「………まさか!」
『お、流石だな親友、そう正解は"肝試し"だ! 集合は今夜7時、場所はうちの学校の旧校舎だ! 遅れんなよ? んじゃな!』
「いや、おいーー…!」
プツッ! ツー ツー ツー ツー
「誰も、行くとは言ってないんだが………」
俺は、幽霊とかそっち系は本当に苦手なんだ………
……………………………………………………………
PM7:00
「しかし、不法侵入だろ大丈夫かコレ?」
結局、春樹からの誘いを断れなかった俺は渋々、夜の高校の正門前に来ていた。
来た時には既に、春樹と芹沢、それに武者小路が待機していて、武者小路に至ってはそれはもう、小学生男子のようにワクワクした顔をしていた。
「なぁんだ湊、怖いのか? アタシはワクワクして仕方がないがな!」
左手には懐中電灯を持ち、右手には竹刀を持った、相変わらずジャージ姿の武者小路がそう話しかけてきた。
「なんだ、高杉も幽霊駄目か? 実はウチもなんだ! 仲間だな!」
此方は此方で、下は短いスカートで上は半袖の上にスカジャンを肘まで捲って着ており、その髪色も相まって正にヤンキーそのものといった出で立ちであった。
「ああ少しな……にしても芹沢、その格好暑くないのか?」
「フンッ! これはウチの戦闘服なんだ、いくら高杉でもこればっかは譲れねー…ところで今日、あの女は居ないんだよな?」
「あの女?」
突如、そう言ってキョロキョロと辺りを見回し始めた芹沢に俺は、誰のことだろうと聞き返した。
「あの女だよ! つり目で高飛車で会えば必ず人の事を"馬鹿っぽい頭"とか言ってくるショートヘアの女の事だよ!!」
「………」
おい、九条………お前、俺が眠ってる間に何やってんの?
「何!? アイツ、芹沢にも言ってたのか? 俺にも全く同じ事、会うたび言ってきたぞ! "髪だけじゃなく中身も同じのようね?"とか言ってさ!」
どうやら、二人とも俺の御見舞いに来た時に、九条にちょくちょく会ってたらしい………
いや、春樹に関しては恐らく、九条にちょっかいでもかけようとしたのだろうから同情はしないが。
「フフン! どうだ湊、皆アイツの事を敵だと思ってるようだぞ? まあ、アタシはあんな奴まっっったくもって眼中に無いがな?」 ………ゴキリッ
いや、眼中ありまくりだろう?
無いのに何故拳を鳴らす?
むしろ、今すぐ拳をぶちこみたいとか思ってるだろ?
ハァ………
「九条は、隣の県に住んでいるからな…誘っても今日は来れなかっただろう。 俺が入院している間はタクシーでわざわざ通っていたらしいからな、そう易々とは呼べんさ」
「タクシー!?」
「県外からわざわざ!? いや、どんだけの金持ちだよ!!? やっベー断れてもお近づきになっとくんだった!」
俺の廻りにはどうしてこう賑やかな奴らしか居ないんだよ………ハァ
……………………………………………………………
あの後、春樹お手製の(怪しさ満点の)くじ引きで二人組に別れた俺達は、どうやら先に行った春樹と芹沢の10分後にスタートしなきゃいけない様で、俺と武者小路は旧校舎の入り口の前でその時を待っていた。
「なあ、武者小路………」
「あん?」
何だかこのやり取りも久しぶり過ぎて笑えてくる。
「九条とは、どこまで話をしたんだ?」
「全部だ! アタシがアイツを庇ってこの世界に飛ばされた事も、アイツが向こうでお前に会って、お前が……湊がアタシを助ける為に動いた事も……結果、それが上手く行かなかった事も含めて全部だ!」
武者小路は、真っ直ぐな瞳で俺を見てそう言ってくる。
そんな真っ直ぐな瞳を見て俺は、ああ、やっぱり武者小路はこうなんだよなあ………と思うのだった。
「………すまない、君を…武者小路を助ける事が出来なかった。 折角、過去に戻れたというのに…本当にすまない!」
バッ!
俺は、そんな彼女に正面から頭を下げた。
すると_
パシンッ!!
突如として、頭に何かの衝撃を感じた。
恐る恐る顔を上げるとそこには、全く笑ってない武者小路がいて、その手には竹刀が握られていて、俺は恐らくそれで叩かれたのだろうと悟ったのだった。
「何するんだ?……痛いじゃ…ないか」
しかし、そう抗議しようとした俺は彼女の気迫におされてしまって……
「馬鹿者が! ……この馬鹿者が! 過去でアタシを助ける? 馬鹿を言うな! アタシがどれだけ心配したと思ってる? アタシがどれだけ泣いたと思っている? ………アタシがどれだけ貴様の…湊の目が覚めることを未来で祈っていたと思っている!?」
「武者小路………」
ああ違う、違うんだ武者小路………
俺は君を泣かせたかった訳じゃないんだ………そんな君の泣き顔をもう見たく無くて、俺は過去で君を助けようとしたんだ。
気付けば彼女はまた目に涙を浮かべていた。
「………いいか?過去のアタシを助けた所で、何も変わらんぞ湊………。
過去のアタシはそれに感謝もしないし、また普通に日常を送るだけだ。今を見ろ! 未来に目を向けろ! 過去じゃない未来を見ろ! ………そうだろう馬鹿者が……未来の私を悲しませたままじゃ、私を救った事になどなるものか………」
九条真由美が理性的に今回の件を俺に説明した……
しかし、武者小路陽子は感情的に俺にそう語りかけてきた。
きっと、どちらも正しいのだろう。
「すまない武者小路、そしてありがとう。」
「フンッ 礼を言うのは此方だ馬鹿者…」
だが今ばかりは…少なくとも俺は、そんな武者小路の純粋で真っ直ぐな感情に救われた気がしたんだ………
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