第22話 肝試し 2

あれから、5分位経っただろうか?

気付けば、俺に頭を押し付けるようにして泣いていた武者小路も平静さを取り戻し、同時にそんな彼女を支えるように立っていた俺自身も落ち着きを取り戻していた。


武者小路は言っていた。

過去へ戻りたいと、戻してくれと………

きっと、それは俺が過去に戻って彼女を助ける事が出来ていたのだとしても……何故だかきっと何処かで、彼女のいないこの世界で「この馬鹿者が」と、此処にいない武者小路に怒鳴られるような……そんな気がしたんだ………。


……………………………………………………………


「……さて、そろそろ時間か?」

「うむ。 さあ、お化け退治と行こうか、湊!」

先程までの悲壮感漂う空気は何処へやら、すっかり元気を取り戻した武者小路は、それはもう張り切っていた。


「ハハハ………そうだな」

そんな彼女の意気込みに、精一杯乾いた笑いを返すしかない俺であった。


何を隠そう…実は俺は人より少しだけ霊感が強いほうである。

それはどれぐらい強いかと言えば、よく皆が耳にするような、何か感じるとか寒気がするといった類いではなく……

まあ、ぶっちゃけて言うならハッキリ見えてしまうのである。

最近の話で言えば、入院中、夜中にトイレへ起きた時に、前から生気の無い看護婦がこれまた生気の無い患者を車椅子に乗せて歩いてきて、通りすがりに「貴方…ひょっとして見えてる?」と言われ、アカンこれマジもんや……と必死に知らない顔をしたのは良い?思い出である。


「なあ、武者小路………」

「あん?」


ギイイイーー………


錆び付いた旧校舎のドアを開けている武者小路に俺は質問をすることにした。

「幽霊って、信じるか?」

「んーー? どうだろうな? アタシはいたらいたで楽しいと思うぞ?」

「!? そうか! なら良かった…実はな………」

「あん?」

「さっきから、俺達の後ろに小さい男の子が………」

そう、俺が言いかけた時である。


ガシィッ!


「ぎ」

「ぎ?」

「ぎぃいやああああああああああああああああーーーーーー!!!!」


突然、腕を引っ張られると同時に、武者小路が叫んだかと思えば、俺はまるで宙に浮くような感覚を味わいながら勢い良く引き摺られて行くのであった………。


……………………………………………………………


ハァ……ハァ……ハァ………


あのままの勢いで、一気に階段を掛け上がり旧校舎の2階までたどり着いた俺達は、そこで先にスタートを切った春樹達、金髪コンビに遭遇する事になった。


「な、なんだよ高杉か? 急に叫び声が聞こえたから、何かと思ったじゃないか?」

開口一番、相当驚いたらしい芹沢が俺にそう投げかけてきた。


「おおおおお大村! コイツが、湊がアタシを恐がらせようとするんだ! 急に後ろに小さな子供が居るとか言って!!」

そうやって捲し立てる武者小路は現在、春樹の胸ぐらを掴み、これでもかと見ていて音が聴こえるような気がする程、ガックン ガックンと春樹の首を前後に揺さぶっていた。


「待て、待ってくれ陽子さん。 君みたいな美女に胸ぐらを掴まれるなんて、願ってもないご褒美だが…流石にこれはちょっと激しすぎ………ッウプ」

必死に武者小路から逃れようとする春樹を尻目に、俺は俺で武者小路に引きずり回された後遺症からか、現在必死に壁に手をついて吐き気を堪えている最中であった………。


「おーい、高杉ー? 大丈夫かあ?」

現在、芹沢がそう言って優しく俺の背中を擦ってくれていた。

俺は、最近の自分の周りを思い浮かべ……見た目は一番ヤンキーだが、なんだかこの子が一番、女性陣の中じゃマトモな気がしてならなかった。

「す、すまない芹沢……優しいな………」

「バ、バッカじゃねーの? アタシは別に優しくなんかねえよ!     ……………高杉にだけだし」

「?………ああ、ありがとう感謝する」


後半は良く聴こえなかったが、俺は心からの……本当に心からのお礼を述べたのだった。


………………


その後、何とかそれぞれ、落ち着きを取り戻した俺達は、別段特に何か起こる様子もなく、旧校舎の2階を散策していた。


「へえ、湊、お前見えるんだ?」

「まあな、そんなしょっちゅうではないが、見える時は、ハッキリ見える」

「マジか、高杉!? え? アタシの後ろとかに何か見えたりする?」

「いや、大丈夫だ本当に、たまに見える程度なんだ安心してくれ」


言うべきでは無かったかと少し後悔しながら、俺達は俺の背中にピッタリと張り付く武者小路を敢えて無視して歩みを進めるのだった………。


………………………


「………8、9、10、11、12、13っと、んー別に変わったことは無いなあ」

魔の13階段を意識して芹沢が屋上へ繋がる階段を数え終わり、俺達の肝試しは最終地点となる旧校舎の屋上へと辿り着いた。


ギイイイ……


相変わらずの錆び付いたドアを春樹が開け、一見不気味に見える屋上に立った俺達は、夜なのに明るく感じる事に違和感を覚え一斉に頭上を見上げた。


「………スゲエな」

春樹がそう言えば

「サイッコーだな!」

芹沢が続き

「ああ、凄いな…なあ、武者小路………」

俺は、いつの間にか背中から離れていた武者小路にそう語り掛ける。

「フンッ、まあそうだな……窮屈に感じるこの時代でもこの空だけは…この星だけはあの時代と何ら変わらないな…」


また時代というキーワードを出した武者小路に俺は、敢えて注意せずに、俺達四人はそれぞれ夏の夜空に広がる満点の星に心を奪われていた。


すると、その時である。

急に屋上の出入口の方からライトで照らされた感覚を覚えた俺はそちらに目を向けると、そこには懐中電灯を持った一人の制服を着た男性が立っていた。

「コラー、君達駄目じゃないか夜の学校に忍び込んだりしちゃ、早く出ていかないと不法侵入で連絡する事になってしまうぞーー」


そう話すのは中年の恐らく見廻りに来たであろう警備員だったようで………

「すみませーーん、今出ていきます。 ……おい、皆行くぞ」

俺はその警備員にそう返事をし、三人に目を向けたのだが………


「「「………………」」」


「?、どうした? あまり長居しすぎると本当に不法侵入になっちまうぞ?」

しかし、それでも三人からの返答が無いため俺もついつい苛ついてしまい………

「おい! 聞いてんのか!? お前らー………」


「お、おい湊…」

「アンタさ、一体誰と………」

「喋っとるんだ!! この馬鹿者が!!!」


「え? 誰ってそりゃあ、あそこの警備員さんと…」

そう言って振り向いた先には誰も居なくて………


「「「う、うわああああああああっ!!!!!」」」


ダダダダダダダダダダッーーーーーー!!!


「え?」

俺は、後ろから走ってきた三人をただ見送る事しか出来ず………


「………………マジで?」 


一人残された俺は、誰もいない屋上でそう呟くのだった………。



……………………………………………………………


『ねえ、知ってる旧校舎の噂? ………なんでも屋上に繋がる階段を13数えてから屋上に行くと………出るんだって。 ………昔、あそこで階段から滑り落ちて死んだ警備員の幽霊が……今でも自分が死んだことを受け入れられなくて、夜な夜な徘徊しているらしいよ……誰もいない学校を警備するために……』   


         

………時越高校「学校の七不思議・夜の警備員」より


















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