第20話 謎解きは病院の屋上で…
さて、謎解きはまだ終わっていない。
あの後、自分が帰って来れたことに安堵した俺は、九条が病室から出て行った後、俺が目覚めた事を聴いて駆けつけた家族と対面し、母親からは泣かれ、父親からは心配かけるなと厳しめの言葉を頂き、兄貴からは「それより、お前どっちが本命なんだ?」と質問され
………ああ、やっぱり俺は帰って来る事が出来たんだなあと、普段と変わらない家族の様子を見て再び安堵の溜め息を漏らしたのだった。
その後、医者からの説明によれば、俺はどうやら10日間程眠っていたらしく、身体の方は幸いにも裂傷や擦り傷といった外傷は多いものの、骨折や内臓に損傷を負うような大きな障害は無いようで、心配なのは10日間も眠っていた為、脳に何かしら異常がみられるかも知れないとの事で、残すは精密検査を受けるのみとなっていた。
「あら、もう出歩いて平気なのね?」
現在、俺は病院の屋上のフェンス越しに久しぶりに見る令和の町並みを楽しんでいた。
「九条か……」
「何してるの? 貴方のお兄さんからここにいるって聞いたのだけれど」
どうやら、丁度お見舞いに来てくれたらしい彼女が後ろから話しかけてきた。
恐らく暇で、弟のお見舞いを口実にナースの尻でも追っかけに来たのであろう兄貴から聞いて屋上に足を運んだらしい………
「………別に、ただ眺めていただけだよ、この令和の町並みを………」
カシャン………
「本当凄いわよね、私がいた時代から36年でこうも町並みは変わってしまうのね………いいえ町だけじゃ無いわ、人が着ている服装やしている髪型、そして車や電子機器…本当に全てが違うわ」
フェンス越しに俺と同じように、隣で町並みを眺めながら彼女はそう言った。
「君は随分と馴染んでいるように見えるがな?」
隣に立つ彼女は、背中が少しだけ覗いた真っ青なワンピースを上品に着こなしており、手には白の何だか可愛らしい高級そうなバックを持っていた。
「あら、そうかしら? これでも苦労してるのよ、今の家は結構なお金持ちで、両親も随分と華やかで……私も此方にいる間はあまり迷惑をかけたくないから様々な雑誌やテレビ、インターネットを通しての情報収集で何とかやってるといった所なのよ?」
「………此方に来て何日目だっけ?」
「10日よ、ちょうど貴方がトラックに跳ねられた日に私もタイムリープして此方に来たみたいね」
………恐ろしい女だ、僅か10日でインターネットを使いこなすとは……
武者小路なんて4カ月目でようやくスマートフォンの存在に気付いたというのに(確かトランシーバーとか言ってたぞアイツ)、これで喧嘩も強いというのだから…
絶対に敵に回したくない人物No.1である。
「なあ、どうして俺はあっちの世界に行く前と全く同じ時間、同じ日に戻って来たんだ?」
「………貴方がこの世界から、突然消えてしまったらこの世界は滅茶苦茶になってしまうわ。……そうね、例えば箱の中にリンゴが目一杯詰まっていたとするわね、そこからリンゴを1つだけ抜いたらどうなると思う?」
「別に? ちょっとずつずれて動くだけ………そうか!!」
急に、九条らしからぬリンゴの話を始めた時はどうしたことかと思ったが………成る程。
「歴史の修正力とでも言えば良いのかしら……人間1人がある日突然居なくなってしまう事で起きる様々な事象を避ける為に、貴方は同じ時間、同じ日に戻って来た。 恐らくそういう事じゃないかしら………」
………全く、この女は本当に敵に回したくない。
「案外、私が何かしなくても貴方は此方に戻って来たかも知れないわね。 "何らかの事故に巻き込まれて誰かを庇ったり"してね………」
「君達は、それに巻き込まれないと………?」
俺は、さらに追及を重ねる。
「私達は、タイムリープして、此方の世界に来たんだもの。 私達が戻った所でこの世界に影響は無いわ、また元の私達が生活するだけ、……そうでしょう?」
何だか、考え過ぎて頭が痛くなってきたな………。
「フフッ、そうねこの辺でこの話は終わりにしましょう。 病み上がりの人間にあまり考えさせるのも悪いしね………」
「え?」
「あら? 声に出てたわよ。 それじゃあ頭痛の原因の私は帰るわね」
そう言って、九条は屋上の出入口へと足を向ける、
しかし、俺は最期にどうしても聞いておかねばならない事があった。
「なあ、九条…お前がこの世界に来たのって、やっぱり………」
すると、九条真由美は振り向いて………
「あら、言ってなかったかしら? 母親を探す為よ、私を庇って死んでしまった母親をね」
辛そうな顔で必死に笑いながら、俺にそう言った。
………………………………
『仮に、もし仮によ。 誰かを庇う事でその負のエネルギーが発生し、その物質が出来るのだとしたら…』
……………………………………………………………
………さて、謎解きはこの位で終わりにしようか?
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