第18話 昭和中二病患者
「で、なんだい話って?」
俺達は、あの後近くにあった空き地へと足を運んでいた。
「ああ、話すよ………話すんだが………」
「何よ」
チラリと自分の背後を見れば悠然と立っている九条真由美が眼に入った。
「いや、何で君までいるんだ?」
「あら、別に良いじゃない? 私だって気になるもの………貴方みたいな一見、そう一見普通の男子が彼女みたいな鬼お……失礼、 女に何の話があるのかと思って。 ………それに、貴方の謎も少しは分かりそうだしね」
「………今、ここで決着を着けても良いんだぞ真由美?」
「あら、どうしたの? 元々あった鬼の要素が更に膨れ上がっているけれど?」
「テメエ………」
止めろ武者小路、喧嘩の腕ならともかく口では絶対お前に勝ち目は無い!
「落ち着け武者小路、 そして煽るな真由美!」
「あん? テメエ何勝手に呼び捨てにしてんだ?」
「私は煽った覚えは無いのだけれど………」
駄目だ、話が進まん!
あっちの世界に来てから、色々あった後の武者小路は呼び捨てを許してくれたり、優しい一面もあったがこっちの武者小路は想像以上に尖ってやがる!
更にそれに火を着ける存在が無自覚に煽っているときたもんだ……。
ハァ………
「頼む。話を聞いて欲しい、呼び捨てにした事は謝ろう武者小路さん………そして真由美、どうしてもそこに居るというのなら少し黙っていてくれ」
俺は慣れない"さん"付けに、違和感を感じながら話を聞いて貰うよう懇願したのだった。
「チッ………いーよ別に呼び捨てで、聞くから早く話せよ」
「そうね、私も黙っているから早く話しなさいよ」
(おおう!?)
コイツらこんな時だけ意気投合しやがって、誰らのせいで話せなかったと思ってやがる? 幸いにも呼び捨ては許してくれたからまだ良いが………
「分かった。 何、簡単な事だ………そうだな折角、真由美も居るんだし二人に話そうか」
俺は当初、武者小路にだけ伝える内容だったものを真由美にも話す事にした。
「卒業式の日の喧嘩を二人に止めて欲しい」
「無理だな」
「無理よ」
うん。こうなる事は分かっていた。 言っちゃなんだがある程度単純な武者小路だけなら、ここからなんとか誤魔化しながら説得の方向に話を持っていく事も出来た………
「どうして、私が彼女と喧嘩しちゃいけないのかしら? それにはそれ相応の理由があるんでしょうね、…それとも、それは貴方が今此処にいることに何か関係しているのかしら………自称記憶喪失さん?」
ほらな?
「記憶喪失だあ? 何だ? 何の話だ真由美」
ほらな?
だから、彼女を九条真由美を連れて来たく無かったんだ俺は………。
……………………………………………………………
「落雷?」
「タイムリープだあ!?」
"事実は小説より奇なり"とは正しくこの事だろうか?
真由美の押しの強さもあり真実を語った俺だったが、目の前の二人には全くと言って良いほど信じて貰えなかった………。
「プ……じゃあ貴方は、記憶喪失さんじゃなく未来人さんって事なのね………ププッ」
「ブフッ……馬鹿おまえ真由美、可哀想だろ? コイツすげえ真剣な顔して………ブハッ!」
「………」
えーと、どっかに棒切れでも落ちて無いかな?
「………落ち着け俺。 フゥ、頼む何もさっきの話全部を信じてくれとは言わない! 嫌、信じてくれなくて良い! だが、これだけはお願いだ! 卒業式の日…その日だけは二人の喧嘩を止めて欲しい!!」
ガバッ!
俺は必死の思いで自分より、年下にあたる少女二人に頭を下げた(武者小路に至っては複雑だが)。
すると_
「……あーっと、アンタ、高杉っつったけ? 良いよ、アタシはその話信じるよ。 卒業式の日に喧嘩しきゃ良いんだろ? わーったよ、コイツとのケリは別な日に着けるよ」
「あら? そんな与太話信じるの?」
どうやら、何故だか知らないが話を信じてくれる気になったらしい武者小路に、気づけば今度は俺が質問していた。
「何でだ?」
「あん?」
「何で、信じる気になった? こんな、突拍子も無い話、普通なら信じないだろ? なあ、何でだ?」
「いや、別に全部を信じちゃいないよ…アタシが未来に行くって話も、アンタが未来でアタシと仲が良かったって話も、アタシが未来で泣いてた話、アンタがアタシを庇って過去に飛ばされた話。………殆ど全部信じちゃいないさ。 だけど、始めに言ったろアタシは人を見る目には自信があるって、だからさ、だからアンタの…高杉の真剣な目を見て、少しだけ、ほんの少しだけそんな馬鹿げた話に付き合ってやるのも悪くないかなって思っただけだよ……」
ああ、武者小路はやっぱり何処にいても武者小路なんだな………
と、俺は彼女の持つ真っ直ぐな気持ちに改めて感心していた。
………………………
「じゃあな、真由美。 決着の日付はまた後日決めよう」
ハァ
「………良いわ、貴女がそう言うなら私もそれで構わないわ」
「すまない、恩にきる二人とも!」
そう言って俺は再び二人に頭を下げたのだった。
……………………………………………………………
「さて、じゃあ俺は帰るよ。 今日は助かったありがとう真由美」
武者小路が去った後、学校へ行くだろう真由美を残して、俺は彼女の家へと帰る事にした。
「ええ。 ねえ、一つ質問があるのだけれど?」
すると、帰宅への足を踏み出そうとした俺に後ろから質問が返ってきた。
「ん? 何だ?」
「ハァ………"何だ"じゃ無いわよ、貴方………どうやって未来に帰るつもりなの?」
「………信じて無いんじゃなかったのか?」
それは、一見現実的と見える彼女からは意外すぎる質問で俺は心底驚いていた。
「信じてないフリをしただけよ。 あそこで私が貴方の話を信じたら、きっと彼女も信じるわ……ええ、
あの直情馬鹿はそういう人間だもの。
現に、私が貴方の話を信じてみなさい、そしたらあの女はきっと自分を責めるわ………事故とはいえ彼女を庇って貴方をこの世界に飛ばしてしまった事に……そしてもう一度私を庇うでしょうね、今度は彼女が貴方を助けに未来へ飛ぶために………ね。」
俺は、彼女の答えに自身の浅はかさを恥じた。
確かにそうだ。 確かに彼女の言う通り武者小路があの話を信じてしまったら、きっと喧嘩の日程は変わらなかっただろう。
ああ、武者小路はそういう人間だ。
真っ直ぐで、自分にとっては他人に思える親にも優しくて、君を戻すと誓った約束を…それを破ってしまった俺に最後は涙迄流してくれた……そんな優しい人間なんだ。
「…馬鹿だな俺は………」
「"ワームホール"」
すると、そんな俺に九条真由美はいきなりそんな事を囁いた。
「え?」
更に彼女は続ける。
「時空のある1点から、別の離れた1点へと直結する空間領域の事をそう呼ぶの……まあ、時空に存在するトンネルのような抜け道とでも言えば良いのかしら?
もし仮にこれを通るとしたら、実際には負のエネルギーが、エキゾチック物質が必要になるのよ。 でも、そんな物質は貴方の存在した未来でも未だ確認されていないのよねさっきの話だと……だとしたら何か条件のようなものがあって、貴方も彼女も飛ばされたと考えるのが正しいわ……」
俺はただただ呆気にとられていた………。
「君は何を言って………」
「黙って聴きなさい。 良い? 彼女は私を庇って貴方の世界に飛ばされた。 貴方は彼女を庇ってこの世界に飛ばされた。 仮に、もし仮によ。 誰かを庇う事でその負のエネルギーが発生し、その物質が出来るのだとしたら………」
「タイムトラベルが可能になる?」
「………あくまで仮定の話よ。 仮にそうだとしたら全世界に多数のタイムトラベラーが既に存在している事になるし………でも、貴方のいた世界と私が今いる世界の一部がワームホールで繋がっているとしたら?」
「可能か………そういえば、俺がこの世界にくる前に俺のスマホに君から電話があった………」
俺は、九条真由美からの電話があった事を彼女に告げた。
「………へえ、あれ電話なのね。 あら?時計じゃなかったのかしら?」
墓穴を掘った………やはり、この女は恐い………
しかし、ここまで話してしまったのだ、今さらあれがバレた所で何の問題もない! 無いったら無い!
俺は悔し紛れに答えるのだった。
「あ、ああそうさ、あれは未来で造られる持ち運び出来る電話って所だ」
「やっぱり、そうだったのね? 実は一度貴方が眠ってる間にかけてしまったのよね偶然にだけれど……」
「はあ?」
なんだ、今平然ととんでもない事を言ったぞこの女。
「そんな大声出さないでくれる? 私だって故意にやった訳じゃないんだから、ただ画面を触っていたら急に"もしもーし"ってあの女の声で、あの女らしからぬ口調が聴こえてきて、何だろうと思って確認してたら、貴方の目が覚めそうだってお爺ちゃんに言われて咄嗟に謝って電話を切ったわ……あれ、やっぱり陽子だったのね? 失敗したわ謝って!」
いや、そこかい!
てか、電話繋がったんかい! 圏外じゃなかったんかい!? よく電話切れたなオイ!?
いや、待てよ………確か彼女、九条真由美は言っていなかったか?
「君があの時俺を庇って助けたから………ワームホールが開けて俺の世界に繋がったのか?」
「さあね。そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるわ………だって、貴方が此方の世界にいるのに繋がったのは貴方のスマホ何でしょう? なんだかおかしな話だと思わない?」
「………可笑しくなんて無いさ」
「え?」
成る程、彼女の話から大体の理屈は読めた。 ならばここからは俺のターンだ。
「さっきも言ったが、君から電話がかかって来たのは俺が飛ばされる前の2022年の8月。………つまり、俺が今から起こそうとしてる過去改変(タイムパラドックス)はまだ起こっていない未来だ。 だからこの先の未来2022年の8月にはまだ、飛ばされた武者小路と1986年の2月に飛ばされる前の俺は存在している事になる。 だから、不思議じゃないんだよ、何故電話だけが繋がったのかは定かでは無いが…もしかしたら助けた度合いによるものかもしれない。 しかし、君の理屈で言うならそれは可能になる。」
「………」
沈黙が流れる、自分でも滅茶苦茶な事を言ってるのは分かっている。
だがそれも仕方の無い事だ、歴史上未だ誰も実現も証明も出来ていない話なのだから………
「貴方、馬鹿でしょう? こんな話真面目に考えて………」
「君も馬鹿じゃないか? 俺の話を真面目に捉えるなんて………」
フ、フフ………
ハハハ………
「良いわ、馬鹿どうし証明してみせようじゃない?
貴方の居た未来でも分からなかったこの現象を」
「ああ、そして俺は武者小路をこの時代に残して、必ずいつか自分の世界に帰ってみせる」
そう言って俺達、二人は握手を交わした。
………しかし、次の瞬間彼女の口から発せられた言葉に俺は驚くことになる。
「あら、それなら良い方法があるわ。 貴方が私を庇えば良いのよ3月1日の卒業式の後、彼女と決闘する予定だった場所で」
「は?」
「勿論、落雷に打たれるのを庇うなんて普通は出来ないし、下手したらどちらかが死ぬかも知れないけれどね?」
「ハァアアアアアア!??」
目の前に居たのは、ショートカットでつり目の美人で、しかしその実態はタイムトラベルなんてものを本気で考える俺より馬鹿で中二病の喧嘩番長だった…。
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