第17話 会合

あれから3日程経ちようやく身体を動かせるようになった俺は本格的に武者小路の捜索を始めることにした。


「………武者小路陽子?」

「ああ、君だったら知ってるんじゃ無いかと思ってさ………」

その日、朝食の時間に爺さんが居ないのを見計らって俺は彼女に話しかけた。

俺が此処にくる前にいた世界で、この目の前の少女をライバルだと呼んでいたのだ。

それならば、この子がその名を知らない筈はないと踏んでの質問だった。

「知ってるけど…時女のトップよね?………貴方、どうしてそれを?」

「いや、それは………」

相変わらず、鋭い所をついてくる少女の質問に俺は言葉を詰まらせた。


ハァ………

「良いわ、詮索しないって言ったのは私だものね。

なあに、その子がどうかしたの?」

「………ただ会って話がしたいだけだ。」

「話し?」

「ああ」

そう、俺はこの世界にパラレルワールドに飛ばされたと確信してから、一つ考えていた事がある。


それは彼女、武者小路陽子を俺のいた世界に行かせないことだ。


あの日、スマホに表示された日付を見た時にそれは思った。

武者小路は、卒業式の日にこの目の前の少女、九条真由美と喧嘩をし、この少女を助けた時に落雷し飛ばされたと言っていた。

ならば、武者小路を落雷に合わせなければ、あの世界に飛ばされる事は無くなるのではないか?

例え俺が彼女に会えなくなろうとも、それで武者小路は救われるのではないか?

………もう、泣かせてしまう事も無くなるのではないか? 


そんな、思いから俺は九条真由美に武者小路の行方を聞いたのだった………


「困ったわね……貴方のその表情を見る限り会わせて上げたいのだけれど………」

「なら!」

「………私、嫌いなのよね、あの女」

九条真由美は、酷く冷たい瞳でそう言った。


なあ、武者小路、お前のライバル滅茶苦茶恐いんだが……


……………………………………………………………


「ここよ」

あの後、渋々だが、それは物凄く渋々だが会わせてくれることを了承してくれて、早速その日の朝に彼女、九条真由美に、武者小路が通っているらしい学校へ連れてきて貰った俺だった。

(因みに彼女は"遅刻していくから別に良い"との事だった)


「なんだテメエ? ゲッ、逆女のトップの九条じゃねえか?」

「ああ? ウワッ! ホントだ!? 何しに来やがったテメエ! ……しかも男連れで!!」


なんだろう………目の前に、出会った頃のあの殺伐とした雰囲気の武者小路が沢山いる気がしてならない。

「ハァ………だから来たく無かったのよね………

ねえ、貴女たち武者小路陽子を呼んできてくれない?」


ザワッ


「よ、陽子さんをだと? テメエついにケリをつけに………!?」

「おい、陽子さんを呼んで来い! 逆女の頭がケリをつけに来たってな!」


ザワザワ………


いつの間にか、俺の目の前にはロングスカートを履いて厳つい化粧を施した少女の集団で溢れかえっていた。

「………凄いな」

「貴方のせいよ……ったく、ケリなんかつけに来た訳じゃないのに」

俺がそんな、女子に囲まれているのに全く嬉しくない状況の中、隣の九条真由美と話している時にアイツは現れた。


「どきな!!」


出会った時と同じようにマスクをして、あの時と同じように殺伐とした雰囲気を身に纏って………。


……………………………………………………………

 

「で、なんの用だい真由美? 遂に決着をつける気になったか?」

「………用があるのは私じゃないわ、それに貴女との決着は卒業式の日と決めたじゃない? 馬鹿なの? もう忘れたの? その頭は鶏なのかしら?」


(………スゲエ煽るな、この女。)

俺は目の前で繰り広げられる舌戦に、口調こそ穏やかに聞こえるものの完全に武者小路を圧倒する彼女を見てやはり敵に回すべきでは無いと改めて実感していた。


「チッ………、んでなんの用だい兄さん?」

どうやら口では完全敗北したらしい武者小路が此方に視線をよこし、そう言ってきた。


「………ああ、すまない。 こっちで会うのは始めましてだな、少し君に話があって来たんだ」

「話?」


ザワッ


「なんだあ? あの野郎陽子さんに話だあ?」

「まさか、告白じゃあねえだろうな? おい!」


くそっ、周りが煩すぎてまともに会話できる状態じゃない!

「ああ……でも勘違いしないでくれ、決して変な話じゃない。ちょっとしたお願いがあって来たんだ………出来れば静かな場所で話したいんだが、少し時間を頂けないだろうか? ………頼む!」

授業には遅れてしまうかも知れないが、この際仕方ない。

俺は、そう言って武者小路に精一杯頭を下げた。


………………………


「………チッ、………お前らアタシはちいと抜けるから先公には上手いこと言っといてくれ」


「え? 良いんですかい? そんな得体も知れない奴に着いていって?」

「そーっスよ!! 陽子さん、危ないスよ?」

またも、周囲の女子生徒が騒ぎ出した。


「五月蝿い!!」


シーーーン


「………アタシにだって人を見る目くらいはある! だからどうにもこの兄さんが嘘をついてる用には見えねえ、なんか深い事情があるんだろ?」

「………ああ、話を聞いてくれるのか?」

そう言って顔を上げた先の武者小路は笑ってこう言った。


「フン! 当たり前だろ? アタシを誰だと思ってる? いざとなったらアンタみたいな優男には負ける気はしないさ!!」


そうだよ武者小路、やっぱり泣いているより、そうやって笑っているのが君には合ってる………。

俺は、絶対に彼女をあの世界には来させないと決めたのだった。







 

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