第12話 嫉妬

あれから、1週間程経ち世間ではもうすぐ夏休みが始まるということで周りのクラスメイト達も妙にソワソワし始め、恋人のいない者達は初めての高校生活の夏をなんとか彩りのあるものにしようと、あちらこちらで様々な駆け引きが行われていた。


「………なあ」

「何だ………」

「アンタら付き合ってんじゃなかったのか?」

「いいや………」

あれから、学校でもマスクをしなくなった武者小路は一躍男子生徒達の注目の的になった。

女子生徒達も注目はしている様だが自分達の目の前で机を蹴りあげた武者小路にビビってしまい中々声を掛けづらい様子で、現在は遠巻きに見守っているといった感じである。

俺はというと、あの机事件(芹沢事件とも言う)の次の日にクラスメイト達から、俺と武者小路の関係について問い質されたが、全て否定し、そういった男女の関係ではない事を説明した後は今まで通りの日常を送っていた。


「む、武者小路さん、こ、今度の休みどっか行かない?」 

「いや、そんな奴より俺と二人でカラオケでも行こーよ!」

「てか、アドレス交換しよーぜ」


俺は、である。

机を蹴りあげようが、口悪く啖呵をきろうが脳ミソハッピーな男子達にとってはそんなもの関係無く、俺と付き合ってないと知るや否や、注目の的となってしまった武者小路は連日のようにアタックされている始末であった。

「へー………アタシはてっきりそうだと思ってたんだけどねぇ」

先程から俺と一緒に賑やかな窓際の席を見ながら話す芹沢はと言うと、あの日から暫く体調を崩して学校を休んでいた為(怪しいが)、今日自信2日目となる登校を果たした所だった。

「………もう、体調は平気なのか?」

「体調?………どっか具合悪いのか、高杉?」


ピンッ


「痛っ」

思わずデコピンを飛ばした俺だった。

「阿呆、お前の事だよ。………ったく、何処で何してたか知らないけど、もうちょっと上手くやれよな」

髪型がセンターで分かれている為か丁度良い所にオデコがあっての行動だった。

すると………


「へへっ………実はさ、まだちょっと引っ越して来たばかりで家ん中片付いてなくてさ、ほらウチ父子家庭だろ?だから父ちゃんこっち来て直ぐに会社も休む訳に行かなくてさ、………まあ家ん中の片付けは2日位で終わったんだけど、今度妹が熱出してさぁ、ほらまだ小学生だろ? それで父ちゃんは仕事で居ないしで面倒看てたら、気付いたら一週間終わっててさ_」

「………そうか」


………聞いてない。俺はそこまで聞いてないぞ。

それに芹沢の家が父子家庭な事も初めて聞いたし、妹がいて小学生なのも俺は知らん!

何だ?この女、何故此方が求めて無い情報を勝手に与えてくる? それに何故デコピンされて若干嬉しそうにしている?


「み~な~と~」

なにやら怨念のこもった声で後ろから呼ばれたので振り向けば、少し顔の赤い芹沢の後ろに春樹が立って此方を睨み付けていた。

「どうした鬼の様な顔をして?」

「そら、そうなるわ!? 何、いつの間に芹沢ちゃんと仲良くなってんの? 何?ヨーコさんだけじゃ飽きたらず今度は芹沢ちゃんもってか? ふざけんなよ!?」

コイツもコイツで脳ミソハッピー野郎だったのを忘れていた………。

「いや元々、武者小路とはそんな間柄じゃ無いし、芹沢とも別に今日で会うのは2回目だしそんな仲良くは………」

「ハア!?」

すると、今度は何故か芹沢まで怒りだし目の前には金髪の鬼が2頭並んでいた。

「芹沢………? いや、その………な?」


ガタンッ!


バシィィ!!


「いってえええ!!」

急に後ろからもの凄い力で背中を叩かれ(絶対モミジの後が出来てるぞコレ)、振り向けば今度は黒髪の悪鬼が立っていた。

「む………む、武者小路………さん?」

「来い!!」


グイッ


「お、おいッ!?」

俺はなす術も無く引きずられて行くのであった……。


……………………………


【教室に残された人々の会話】

「………なあ、アイツら付き合って無いんじゃなかったっけ?」

「あ~同士諸君、流行る気持ちは分かるがあの二人の間に入るのは止めておけ? な? 飛んで火に入る所じゃ無くなるぞ!」

「………マジかよ」

「くそう、高杉の奴………」

「アタシはぜってー諦めねえ!」

「「「………え!!?」」」


愉快なクラスメイト達であった………。


……………………………………………………………


「おい!おい離せよ!」 

俺はあまりにも強引で理不尽な武者小路の振る舞いに少し腹を立て、掴まれていた腕を振り払った。

場所は相も変わらず屋上に来ており、どうやら武者小路はここが俺と二人で話すのに一番適していると判断している様子だった。


「………んで」

「ああ?」


「なんでアイツばっっかり構ってるんだ!!!?」


「………………え?」

突然の武者小路の大声に俺の怒りは吹き飛ばされてしまった。

「いや、別にそんなことは……てか、アイツって誰だ?」


ドカッ!


「痛っ!?」 

今度は、脛を爪先で蹴られた。

ちくしょう、何だ、俺が何をしたってんだ?

「馬鹿か貴様!? 芹沢に決まってるだろ!? アタシがこの一週間どれだけ耐えたと思ってる! 近寄ってくる馬鹿どもにどれだけ耐えたと? いつ、殴り飛ばしてやろうかそればっかり考えて……それでも湊に迷惑がかかるかも知れないと思って我慢してたのに……貴様と言う奴はあろうことか知り合ったばかりの女子とイチャコライチャコラと……この唐変木!!」

酷い言われようである。イチャコラなんてした覚えも無いのに………しかし

「あー…すまなかったな武者小路、悪かった。そんなに武者小路がアイツらに腹を立てていたなんて分からなかったんだ許してくれ!この通りだ!」

彼女の思いを聞いた俺は素直に頭を下げた。

気付けなかった自分に、別にいいかと放っといてしまっていた自分に何だか無性に腹が立った。彼女を過去に戻すと約束までしたのに………

「そうだよな、武者小路はいずれ過去に帰るんだもんな。こっちで、こんな何処だか分からない未来で恋人なんて作れる訳無いよな! 分かった!今度からはちゃんと俺もアイツらに釘を指しとくよ、あまり武者小路には近寄るなってな!」

「………」

どうしたことだろうか?武者小路からの返答が無い。

俺は何か間違ったことを言ったのだろうか?


「…ク………クク」

「ク? 何だどうした?」


「ククク……アーハッハッハッハッハッ__」


気付けば、武者小路は大声で笑っていて、皮肉にも彼女を泣かせてばかりの俺にはそれはとても眩しく見えた。


ハァ ハァ


「いや、すまんな………貴様がそこ迄とは………ク……クク………、はあ、悪かったな湊どうやらアタシの完っ全な勘違いだったようだ。 貴様にそんな甲斐性が有るわけ無いものな…いやぁスマンスマン」

そう言って謝罪する武者小路であったが、何故だろう物凄く馬鹿にされてる気がするのは………

「いやなに、アタシもハッキリと奴らを突き放せば良かったんだよな、中途半端に放っとくから付け上がるんだ………そうだよ殺るなら徹底的に………」

何だ? 何か今もの凄い恐い字面が見えた気がしたが

気のせいだろうか?  ………ハハッ




キーン コーン カーン コーン


気付けば、昼休みの終わりを告げる鐘の音が響いていた。

「………戻るか武者小路」

「ああ………すまなかったな湊」

「いや………なあ、武者小路」

「あん? 何だ?」

「お前、夏休みは何するんだ?」

「さあな、別に何も決めてない。 アタシはこちらの世界の娯楽を殆ど知らんからな」

「そっか………なら、一緒に沢山遊ぼうな。 まあ、戻る方法が見つかれば一番良いんだけどさ………」

「全く貴様は平然と良く………フンッ!分かった分かった精々楽しませてくれよ…湊。」

「ああ」



もうすぐ、一学期が終わりを告げる。

そして、俺と武者小路の最初で最後の夏休みが始まろうとしていた………。






















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