第11話 マスクの下は?2

転校生というものは普通、休憩時間になるとクラスメイトに囲まれるものではなかっただろうか?


「どーも初めまして! オレ春樹、大村春樹ね!

宜しくね! えーと、環ちゃん!」

現状、その休憩時間に話しかけてるのは一応、俺の友人である春樹のみで、クラスメイト達は彼女の放つオーラに近付けないでいた。

「………チッ、気安く名前で呼ぶんじゃねーよ」

何だか、何処かの誰かを彷彿とさせる対応に俺は思わず笑ってしまった。

「プッ」

「なんだ? 今、笑ったのはテメェか? ………確か高杉っつったか?」

「! ああ、いやすまない、芹沢さん」

慌てて気付かれたことに対して、武者小路とはまた別の鋭い三白眼で睨まれた俺は素直に謝罪を述べた。 

「………チッ、別に同い年なんだし"さん"はいらねぇよ」 

どうやら、舌打ちが癖のようである。

「あ、ああ悪かった芹沢」

「………チッ」

そう言って、スマホを取り出し椅子に背中を預けていじり出してしまった。


バシッ


「痛っ」

すると、芹沢の方を向いていた俺の後頭部に強い衝撃が与えられた。

咄嗟に後ろを振り返れば、そこには武者小路が今日初めて俺を正面から見ていて、それはそれはマスクの上からでも分かるぐらい深く恐ろしい笑みを浮かべていた。

「な、なんだよ武者小路?」

「別に、ただ随分と楽しそうだなと思っただけだ」

それの何処に人の頭を叩く理由があるのか問い質したい所だったが、また直ぐに外方を向いてしまった為、

それは止めることにした。


「湊………テ、テメェは………」

すると、どうしたことか今度は春樹が芹沢のいる後方で怒りのオーラに包まれていた。


「テメェは、何処のラブコメ漫画の主人公だー--!!」


急に意味不明な事を叫んだ春樹にビックリしていると、クラスの男子からも似たようなオーラが吹き出しているのを感じた。


………友達やめようかな。


……………………………………………………………


結局、あのまま武者小路はというと、お昼は一人で食べると言い何処かへ行ってしまった為に、今日1日殆ど彼女と会話をする事なく放課後を迎えた。


「さて、帰るか…じゃあな武者小路」

俺は今日1日なにやら不機嫌オーラ全開の彼女にそう声をかけて帰宅しようとした。 しかし………

「何処に行く?」

「は?」

さらに不機嫌オーラが増した彼女にそう尋ねられた。

「だ・か・ら、何処に行くと聞いている? まさか、一人で帰るつもりか?」

「い、いやだってお前、今日なんか機嫌悪いし…」

「っハァ!? 誰のせいで…ったく! いーから、帰るよ!」

「あ、おい!」

そう言って、俺の手を掴んだ武者小路は出口へと歩きだした。


「プッ………クスクスクス」

すると、後ろで未だ席に着いたままスマホを弄っていた転校生が突如笑い出した。


ピタリ


「………何だい? アンタ何がおかしーんだい?」

武者小路が急に立ち止まり(危ないだろうが!)ゆっくりと後ろを振り返る。

「いやぁ、べっつにぃ? ただ、アンタが今掴んでる男……高杉?つったけ? ソイツもかわいそーだなぁと思っただけだよ」


ユラリ


「………どういう意味だ?」

いつの間にか掴んでいた手を放した武者小路は、馬鹿にされてる事を機敏に察知したのか、ゆっくりと転校生、芹沢環に近づいていった。

すると、まだ放課後のチャイムが鳴ったばかりということもあり教室には、今日は用事があるからと先に帰った春樹以外のクラスメイトがほぼ全員残っていて、その視線が俺達の方に集まっていた。 


「ハッ! そのまんま意味さ、アンタみたいな大柄で、このクソ暑いなかそんなでっけーマスクで顔を隠さなくちゃ男と話す事も出来ない【ブス】に絡まれてるソイツが可哀想だっつーはな………」


ガアアアン!!!


吹っ飛んだ。芹沢の座っていた前の机が天井まで吹っ飛んだ。 

蹴りで、武者小路の蹴りで(重要)!!


「誰が、ブスだって? 誰がマスクしねーと男と話せないって?」

気付けば武者小路はマスクを外していて、芹沢をこれでもかと睨み付けていた。

途端、クラスメイト達が騒ぎ出した。


「え?武者小路さんて、あんなに綺麗だったの?」

「マジかよ………そうと分かってれば高杉なんかより先に………」

「ヤバくない!?」


ザワザワザワザワザワ


ハァ

「これだよ、アタシがマスクを外さなかった理由は……良くも悪くもこの顔は注目を集めちまうみたいでねぇ? 腕っ節にしか自信のないアタシにはちぃと邪魔でさぁ…喧嘩する時どーにも相手に嘗められちまってね………でもそこまで言われちゃ流石のアタシも女が廃るってーもんよ!」

「は、はぁあ!? 何言ってんだアンタ? 喧嘩?頭おかしーんじゃねぇの?」

どうやら、芹沢の方はそこまで喧嘩をするようなヤンキーではないらしく、素行の悪い不良少女といった所らしかった。


スッ

「だからかな?アンタみたいな悪そーな目つきに憧れちまうのは………」

「武者小路!!」

俺は、武者小路が芹沢の胸ぐらを掴もうとしたのを慌てて声をかけて止めた(死んでしまう)。

「………湊?」

「やめろ」

見れば芹沢の方は武者小路の迫力にすっかり気圧されていて、顔面蒼白といった感じであった。

「………ハイハイ、分かりましたよ。…芹沢だっけ? 湊に感謝しなよ?」

何だか猛獣使いにでもなった気分の俺は、溜め息をついてから芹沢に声をかけた。

「すまなかったな、芹沢。 俺を庇ってくれたのにな。」

「チッ………んなんじゃねーよ……。」

どうやら、かなり意気消沈しているようで、俺は何だか励ましたくなってしまった。

「俺は嫌いじゃないぞ。」

「は?」

「その目付き、………どちらかと言えば好きかな?」


バシーン!!!!


「~~帰るぞ湊!!」

「いつつ……お、おい?」

またも彼女に頭を叩かれた俺は、またも彼女に腕を掴まれて引きずられるように教室を後にするのだった。 


……………………………


「な、なんだアイツ………」

残された芹沢は顔を茹でダコのように真っ赤にしており、クラスメイト達は男女問わず


(何処のラブコメ漫画の主人公だよ………)


と、呆れ気味に思うのであった。


……………………………………………………………


「なあ、武者小路?」

「あん? 何だ?」

帰り道、ようやく手を解放された俺は武者小路に気になっていた事を聞くことにした。

「前に言ってた、その………俺になら別に良いって言ってたのはどういう意味だ?」

「?………ああ、マスクの事か?」

「ああ」

「別に?ただそのまんまの意味だよ。 アタシにとってアンタはこの時代で特別って意味さ! ………それがどうかしたのかい?」

そう照れもせずに笑った彼女は話しを続ける。

「ま、でもそんなアンタにあーやって迷惑がかかるなら、もうマスクなんて必要ないかな!」

そして、彼女は俺にマスクを放り投げて歩き出し……



「ど、何処の少女漫画の男前主人公だよ………」



一人残された俺は耳を少し赤くしながらそう呟いていた………。








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