第10話 転校生
「ぐあああああああああああ」
何だあれは? 俺は何を言った? アイツに武者小路に何て言った?
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ
「うああああああああああああ」
「湊ー!煩いわよ、いい加減に寝なさーい」
家に帰ってからずっとご飯と風呂に入る以外、ベッドの上で転がり続ける俺であった。
……………………………………………………………
「よーす! どした親友、朝から暗い背中しやがって!」
昨夜、ほとんど眠る事が出来なかった朝の登校中に、バッチリ快眠したようで元気一杯の春樹が声をかけてきた。
「よう………」
「うわっ何だ?そのひでークマは? そしてその顔の怪我は…」
昨日、殴られた部分の大きな絆創膏を見て春樹が聞いてきた。
「何でもない」
「いやいやいや、喧嘩でしょそれ? 何?誰とヤったの?」
ウザいくらいに興味津々な様子で聞いてくる春樹に、俺は本当にウザいので仕方なく答える事にした。
「三年。 名前は知らん」
「かーっ、この喧嘩マシーンめ!なに人が休みの時にそんな楽しいことしてくれてんの?」
コイツにだけは言われたくないセリフを俺はただ黙って流すことにした。
「ちょっ聞いてんのかよ? ………ん?あれはヨーコさん?」
そう言われて前を向けば、今もっとも会いたくない人物、武者小路陽子がいた。
「おーい、ヨーコさーん」
こともあろうか、隣の馬鹿は大きな声でその人物に呼び掛けやがった。
「おい、春樹!」
俺は焦ってそれを止めようとしたのだが……しかし時既に遅しとはこのことで、武者小路はこちらに気付き振り向いていた。
「あん? げっ、………湊に大村か」
「おはようヨーコさん。 てか、ヨーコさんもクマ凄いな………」
確かに、馬鹿の言う通り武者小路の目の下はクマで凄い事になっていて、その大きな目と下のマスクも相まってそれは、よりいっそう目立っていた。
「確かに凄いな、どうした武者小路? 寝不足か?」
「~誰のせいで………」
「ん? 何だ?」
バコッ
「痛っ」
何故か、鞄で背中を叩かれた。
「良いか? あんまチョーシん乗んなよ? 湊!」
それだけ言って武者小路は先にズンズンと歩いて行ってしまった。
「なんだ………アイツ?」
俺がそう言って悩む横でニヤニヤと笑って見てる馬鹿を殴りたくなったのは言う迄もない………
……………………………………………………………
ガヤガヤガヤガヤ
「おはよー」
「マジあちぃー」
「てか、昨日さあ」
教室に着いた俺は、相変わらず騒がしい級友達の中、いつも通り一番後ろの自席へと腰を落ち着ける。
左隣を見れば窓際に位置する席で外を眺めている武者小路が座っていた。
「なあ」
「………」
「おい、武者小路」
「煩い、今日はアタシに話かけんな!………別にアンタが悪い訳じゃないけど今日は駄目だ」
そう言って、一度こちらを見た武者小路はまた外に目を向けてしまった。
「………なんだよ一体?」
ガラリ
「おはよう皆、早く席に着け」
朝のHRの時間が近づいてきた頃、クラスの担任である男性教師がそう言って教室に入ってきた為、騒いでいたクラスメイト達は渋々その声に従いそれぞれの席に着いていった。
一通り騒ぎも治まった所で教壇に立つ教師が口を開く。
「うーし、今日は皆に新しい仲間を紹介するぞ」
ザワッ
年は20代後半で見た目も若いその教師は、そう言って
再びドアを開けた。
ガラリ
「入っていいぞー」
そう促されて教室に入ってきたのは女子で、その髪型はと言えばセミロングとでも言えばいいのだろうか?
背中の肩甲骨の辺りまでの長さであり、しかし問題なのは長さではなく、色である。
金髪だった、別にほぼ毎日のように見てるから珍しくないが、金髪の女子高生という中々のインパクトの女子が教室に入ってきた。
ネクタイもせずシャツをスカートに入れることも無く、さらにそのスカートの丈は短くて………
うん。ヤンキーだった。何処をどう見てもヤンキーだった。
「神奈川から来た、芹沢環(たまき)さんだ。皆、仲良くしろよ」
そう言って自身の隣に立つ転校生に教師が自己紹介を目線で促す。
「………よろしく」
しかし発せられたのは、なんとも元気の無い挨拶であり、クラスメイト達もその見た目のインパクトも相まって動揺を隠せないでいた。
「なんだなんだ、元気ないなあ…まあいいか、席はそうだな…一番後ろの高杉の隣が空いてるからそこに座れ」
「っす」
そう言って俺の隣へと歩みを進める転校生と、なに勝手に決めてんだと言いたい教師を目にしながら俺は…
「勘弁してくれ………」
と、さらに自身の隣で相変わらず外方をむいている武者小路を見て、何かと前途多難な自身の高校生活に頭を抱えるのだった。
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