第9話 雷
あの日、結局俺が彼女を呼び出して出来たことは彼女の現状を説明する事のみで、彼女がどうやって元の世界に戻れるのか、その方法を何1つ解明出来ていなくて、何も解決してはいなかった。
………………………月曜日……………………………
今日は春樹が珍しく休みということもあり、俺達二人は昼食の時間久しぶりに屋上へと足を運んでいた。
ジリジリジリジリ
「………暑いな」
「ああ」
文字通り、ジリジリと照らされる太陽を身体に浴びながら俺達はこの前と同じように同じ場所で日陰に隠れながら昼食を取っていた。
「なあ、武者小路」
「あんだ?」
相変わらず購買で購入したパンを口に頬張りながら武者小路は返事をした。
「この前はすまなかったな………」
「この前?」
「俺が君を朝早く呼び出した時だよ。」
「ああ、あの時か。 それが? …モグモグ」
モグモグしながら武者小路は俺に尋ねる。(なんだ?この可愛い生き物は!)
「………俺は、君を助けると言ったのに、結局あの日君に出来たことは君の今の状態を説明する事だけで、君が過去へ戻る方法を何1つ解明出来ていなかった。
だから、すまない。」
プッ
「アハハハハハッ」
必死に頭を下げた俺の上で突然彼女の笑い声が聞こえてきた。
俺は、何事かと思い恐る恐る頭を上げると…
「ア、アンタ馬鹿だなぁ。 んなもん別に気にしてねーって!」
「し、しかし………」
「いーんだよアタシが良いって言ってんだからさ、探そうとしてくれてるその気持ちだけで十分さ」
武者小路はゆっくり背伸びをするように立ち上がり、そう言って笑う彼女に俺は何も言えなくて。
ガチャリ
「それに、いつかは見付けてくれんだろ?…んじゃな」
そう言い残し去っていく武者小路をただ見送る事しか出来ない俺だった………。
……………………………………………………………
そんなモヤモヤとした気分のまま向かえたその日の放課後の事である。
「武者小路陽子はいるか?」
突如として、教室の出口の方からそんな声が聞こえてきた。
見ればそこには彼女と初めて会話をした日に見た不良達がニヤニヤとした佇まいで居て、その後ろには3年生だろうか、かなり大柄な男が一人立っていた。
それは俺が武者小路と帰り道も同じで同じ帰宅部ということもあり、一緒に帰る予定で準備していた時の事だった。
「アタシに何か用かい?」
武者小路はそれに応え席を立つ。
「お前が武者小路か、成る程…上背はあるようだが随分と華奢だな」
言い忘れていたが、武者小路の背は恐らく170cm以上あり、比較的大きい部類の春樹と俺と歩いていても何の違和感も無いほどである。
「ハン! 見た目で喧嘩の強さが決まるのかい? 全くどの時代でも男ってーのは馬鹿だねぇ?」
「おい! 武者小路!」
俺は、またも時代というキーワードを出し不良達の元へ歩いていく武者小路を呼び止める。
「あん? 湊? 心配してんのか?」
(してる訳無いだろう! 馬鹿かコイツは! 寧ろ相手の方が心配だわ!!)
と、鞄1つで(鉄板入りだが)高2男子を道路の端から端へ吹っ飛ばした目の前の華奢?な女に俺は小声で耳打ちする。
「あんま、時代時代言わないほうが良いんじゃないのか?」
「あ、ああそうか、そうだな分かった。~分かったから離れろ!」
何故かマスクの上の顔を赤くしながら武者小路はそう返答してきた。
「イチャイチャしてねえで、ちょっと面貸せや!」
すると、その大柄で赤髪の男が声を張り上げた。
「チッ。…イチャイチャなんかしてねえ!でもそうだな今決めた…テメェは殺す………半殺しだ!」
「お、おい武者小路!」
「湊、悪い心配かけて。今日は先に帰ってくれ」
「おい!」
そう言って、武者小路と不良達は教室から出ていき、後に残された俺は…
「………いや、だから心配なのは相手の方なんだって………」
そう呟き、仕方なく彼女の後を追うのだった。
……………………………………………………………
ハァ ハァ
「畜生、また屋上かよ!」
俺は今日何度目かの屋上への階段を駆け上がっていた。 違うのは天気ぐらいで突如降りだした夕立と鳴り出した雷は、屋上に近づくにつれ徐々に激しさを増していった。
ゴロゴロゴロ…
「武者小路!」
バン!
俺は屋上の扉を勢いよく開け放った。
「湊? 帰って無かったのか?」
「馬鹿野郎、心配で帰れる訳ないだろう!(相手が)」
見れば、立っているのは武者小路と三年の男子のみで、地面には五人の不良が倒れ付していた。
「ん? お前は確か高杉か? さっきは気付かなかったが、そうか………おまえがあの話題の一年坊主の片割れの………」
雨が激しさを増すなか武者小路の正面にいる三年が俺に声をかけてきた。
「………何の話題か知らないがそうだな、確かに俺は高杉だ」
「ほう?やはりそうかお前があの高杉か……まあ良い今日の所はお前に用はない。 用が有るのはお前の女の方だ」
「ハン!誰が湊の………か、彼女だ? ………駄目だ! テメーは半殺しじゃすまさねぇ!」
そう言って、武者小路は降り注ぐ雨粒を物ともせず構えを整える。
「行くぞ!」
「来な」
先に動いたのは三年生の方で、大きく拳を振り上げ武者小路へと向かっていった。
その時である。
ッビカッ!!
突然の強い雷光がおきたのは。
だが、そんなことは物ともせずに三年生は武者小路へと接近していく。
「おいっ!? 何をしている!?」
しかし、その先を見れば武者小路はその場にうずくまっていてそれは、手先が小刻みに震えて身を守るように両手で頭を抱えていた。
「くっ………馬鹿野郎!」
バキッ
気付けば俺は、咄嗟に彼女の前に身体を投げ出し正面から三年生の拳を顔面で受け止めていた。
「………み、なと?」
恐る恐る彼女は顔を上げる。
「グゥ………何をしている武者小路? 君ならこんな奴、屁でもないハズだろう?」
しかしその顔は、ずぶ濡れになってマスクは雨の重みでずり下がっていて………さらに顔色は真っ白だった。
「ア、アタシは………」
フゥ
俺は息を1つ吐き気を整える。
「まあいい、先ずはコイツに退場願うとしよう」
「はあ!? 彼女の前だからって調子に乗るなよ一年坊が!」
俺は、ちょうど自分の目線の先にあった木刀を爪先で拾い上げる、恐らくコイツの仲間が持ってきたのだろう(懸命な判断だ)。
「1つ、俺からも訂正させて下さい………」
ヒュッ!
ズドッ!!!
「さっきから言ってるじゃないですか?恋人じゃないって!」
俺は相手のがら空きの腹におもいっきり銅打ちを叩き込んだ。
「つ………強えぇ」
ドサッ
……………………………………………………………
「で? 一体どうしたんだ? 武者小路」
俺は、ようやく雨が上がった屋上で彼女に何故あんなことになったのかを問いかけた。
「………笑うなよ?」
「笑わないさ」
不良達は、未だその場に倒れ込んだままである。
ハァ……
「……アタシはさ、あの日、ライバルだったアイツを助けた時からさ、何故か恐くなっちまったんだよ雷がさ……雷を見ると思っちまうんだよどうしてもさ………」
彼女は、その場にへたり込んだまま事情を話し始める。
「………雷を浴びたら戻れるかも知れないってのと同時に、また全然自分の知らない世界に行っちまうんじゃかってさ。」
ゆっくりとずぶ濡れのまま立ち上がり武者小路は更に話を続ける。
「それは、日を追う毎に強くなる一方でさ、今の両親がアタシを心配すればする程、知り合いが増えれば増える程………アンタみたいな………湊みたいな奴に会えたら尚更…どんどん怖くなって来ちまってな。」
気付けば、先程の天候はどこへやら地上は明るく照らされていた。
「でもさ、いつまでもこのままじゃ駄目だよな! なぁに、大丈夫だ今後はもう二度とこんなざまにはならないようにするさ。」
そう言って、無理して明るく振る舞う彼女の辛そうな笑顔を見て俺は………
「安心しろ、俺がいつでも…いつでも助けてやる。君がこの時代にいる限りいつでも。」
「え」
気付けば俺の口はそんな気障ったらしたいセリフを吐いていた。
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