第8話 時をかける不良少女
あの後、俺と武者小路はお互い無言のまま駅へと歩き、決して賑やかではない駅のホームに二人でベンチに座り電車を待っていた。
「なあ…」
「………何だ?」
茜色に染まる空の下、俺はゆっくりと探るように話を切り出す。
「さっきの電話の相手って………」
「…アタシが最期に庇ったヤツだよ…多分な」
武者小路は夕日をぼんやりと眺めながら俺にそう答えた。
俺は、かねてより気になっていた事を彼女に尋ねる事にした。
「君は確か36年前、1986年から現在2022年に飛ばされたって言ってたな?」
「ああ」
「なら、君のそのライバルとやらも今の君より年齢は上だろうがこの時代にいるんじゃないのか? 探したりはしなかったのか? 背中を預けあった仲なんだろう?」
しかし、それは彼女の気持ちを全くと言って良いほど考えてない質問で_
「………てるだろ」
「え?」
「探したに決まってるだろ!!!」
隣で夕日を眺めていた武者小路は立ち上がってそう叫んだ。
「アタシが探さない訳ないだろう!? アタシが庇ったアイツは無事だったのか? 誰か昔のアタシを知ってる人はいないのか?アタシの本当の両親は何処かにいないのか………まだ、生きているのか?
アタシがこの4カ月どれだけ探したと思ってる!!」
「武者小路………」
気付けば、その顔はくしゃくしゃに歪められていて彼女は大粒の涙を溢していた……。
「………居なかったんだよ…何処にも…電話帳を調べてアイツと同じ名字のヤツに片っ端から電話したさ!
でも、返ってくる応えは"そんな人いません"の一点張りだ。 自分の親を探しに以前住んでいた町にも行ったさ、でもな…でもそこには自分の家なんて無くて住んでいるのは仲の良い幸せそうな家族で、以前の住んでいた人の話を聞いてもその人達はそこに40年以上住んでるらしくてな……アタシが住んでた跡なんて1つも無かった!」
俺の隣の席がやたらと空席が目立ったのはその所為だったのか、思えば入学してから3カ月間彼女の顔を見ることは殆ど無くて…
俺は、あの日武者小路と初めて話したあの日、彼女が俺の事をうろ覚えだった事を思い起こしていた。
ガシィッ
「なあ、湊………あの電話はホントに真由美なのか? アタシを騙そうとアンタが仕組んだんじゃないのか?」
「っ………それは違う!」
「じゃあ、何でだ?なんでアタシがどれだけ探しても見つからなかった真由美から電話がかかって来たんだ? 何でアンタのケータイに電話が来たんだ?」
「………それは…」
「なぁ、何でだ!?」
彼女からの質問に俺は応える事が出来ず、いつかあったあの日と同じように武者小路は俺の胸ぐらを掴んで胸に頭をつけて泣いていた。
ああ………彼女に出会ってから俺は泣かせてばッかりだ。
……………………………………………………………
プァーーー
ガタンゴトン ガタンゴトン キキー………
「…じゃあな、今日はすまなかった武者小路」
「いや、アタシの方こそ八つ当たりみてーになっちまって悪かったよ………」
俺達はあの後、帰りの電車の中で二人終始無言のままでいて……今はお互いの家に近い駅へと降り立ち、俺は今日の自分の不甲斐なさを武者小路に謝罪したのだった。
……………………………………………………………
ガチャッ バン バタバタバタバタ
「あら、お帰り湊ご飯はーーー?」
「後で食べる!」
母親が声をかけてきた。
(馬鹿野郎、何が力になるだ! 何が手伝ってやるだ!
俺が今日したのは彼女を泣かせた事だけだ!)
だが、後悔でいっぱいの俺は帰宅早々、自分の部屋に飛び込んだ。
「どうしたのかしら? ねぇ隼人」
「さあね、アイツも年頃何じゃねぇの?」
階下からは、母親と大学生の兄貴の声がきこえてくる。
でも、そんなことに構っている余裕は無い。
俺は幼い頃にタイムトラベルに関する自分の考えを書き記していたノートを取り出した。
そこには_
"タイムトラベルとは通常の時間の流れから独立して過去や未来へ移動すること。
タイムスリップとは現実の時間、空間から過去や未来の世界に瞬時に移動すること。
タイムリープとは自分自身の意識だけが時空を移動し過去や未来の自分の身体にその意識が乗り移ること。
タイムトリップとは自らの意思で時間移動すること。"
_と、記されていて
「なんだ?どういう事だ? 確かに武者小路は過去から未来へ来た。それは確かなハズだし、彼女が嘘ついてるとも思えない。しかし、この世界に彼女がいた形跡も無く、彼女が過去で出会った人達は今のところ別の人物や元々存在していない扱いになっている」
おかしい、一体どういう事だ? 俺は彼女の事をタイムスリップしてきたタイムトラベラーだと認識していた。
タイムトラベル、タイムスリップ、タイムリープ、タイムトリップどれも言葉は違えど過去や未来へ今の自分が移動する事を指している。
しかし、ここは彼女のいた世界の未来じゃない。
両親も違えば、友も存在しない。
「湊、ご飯置いとくわよー」
いつの間に時間が過ぎていたのだろうか時刻は深夜0時を指しており、さすがに心配になった母親が夕飯を部屋の前に置いていってくれた。
俺はそれを無言でドアから取り、さらにパソコンの電源を入れた。
AM7:00
「これは………」
部屋の窓から眩しい程の明るさが入り込んだ部屋で俺は、パソコンの画面を凝視していた。
「はは………、見つけた、見つけたぞ………」
気付けば俺はスマホを掴み武者小路へと電話をかけていた。
プルルルル………ピッ
「武者小路か? スマンが今から会えないか?」
「………湊か」
「ああ、今からどうしても会って話したいことがある。 そうだな、場所は学校の近くに公園が有っただろう? そこで落ち合お_」
プチッ
ツーツーツーツー………
プルルルル ピッ
「もしもし武者小路か?」
「殺すぞテメー何時だと思ってやがる」
電話の向こうから、もの凄い低い声でもの凄い事を言われた。
「い、良いか? 分かったんだよ君の身に何がわかったのか」
しかし、俺はめげない。
「………ホントか?」
「嘘ついてどうする? あんな姿の武者小路を見て嘘なんか付ける訳無いだろ!?」
「っ……分かった!公園だな? 行くからそれ以上喋んじゃねー!」
電話の向こうからは先程よりも何トーンも高い声が聞こえてきた………。
……………………………………………………………
ジワジワジワジーー…
「で?」
「え?」
「"え?"じゃねーよ、早く教えろよ。 アタシャ早く帰って二度寝してーんだよ………ファァア」
目の前で大きく欠伸をする彼女の格好は何故か真っ白なワンピースでマスクもしてなくてそれはとても綺麗だった。
「………その格好…」
「あ? んだよ別にいーだろ、気合い入れんのも誰かさんのせいで朝早く起きたばっかりだから面倒だったんだよ。自分のクローゼットから適当に選んだだけだ」
どうやら、彼女にとってあのジャージは気合いを入れた事になるらしい
「マスクは?」
「? 何で湊に会うのにマスクしなきゃなんねーんだ? 別に良いだろお前なら」
その別にがどどういう意味か非常に気になるところだが、俺は本題に入ることにした。
フゥ…
「……2015年8月5日、イギリスに住むジョン・アーノルドが自身の携帯に非通知で電話がかかってきた。かけてきた相手は自分にはいるハズの無い弟からの通話で、ジョンの安否を確認してくる内容だった。」
「お、おい急になんだ?」
「しかし、そんな電話に対して無言でいると、急にノイズが入り始め一方的に電話が切れていた………
どこかで、聞いたような話じゃないか?」
俺がそう問いかけると、武者小路は眼を大きく見開きながら呟いた。
「………真由美?」
俺は大きく頷き、我が意を得たりとばかりに話をつづける。
「パラレルワールド」
「?はらはらわーるど?」
「パラレルワールドだよ。君のいた世界から分岐し、それに平行して存在する別の世界だ」
「……よく分かんねーけど、それとさっきのジョンなんたらと何の関係があんだよ?」
彼女が鋭い目付きで早く話せと促してきた
「……分かった。結論を述べよう…君はタイムリープして意識だけが未来へ、こちらの世界の君に移動したんだ… この君がいた世界とは別の世界パラレルワールドにね。 あの電話は君が元々存在した世界から、たまたま俺のスマホに繋がった…パラレルワールドからの電話だったんだ。」
「意識だけが………別の世界………」
ミーン ミーン ミンミンミンミン
日差しがどんどん強さを増していく。
ちょうど真ん中にある木の影の下で、葉の隙間から降り注ぐ光を浴びながら彼女は口を開く。
「元の世界のアタシはどうなってる?」
「っ………それは、恐らく………いや、まだ分からない」
「…もう………真由美からはかかって来ないのか?」
「分からない…」
「アタシがいた世界でのアンタはどうなる?」
「恐らく産まれて来ないだろう………」
ジーワジーワジワジワジワジワジー
「………アタシは戻れるのか?」
武者小路らしくも無い、うつむき加減で聞いてくる。
「すまない…それも分からない」
目の前の武者小路が更にうつむいていく。 そして絞り出すように彼女は言った。
「そうか。」
_と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます