第7話 「     」

カリカリカリカリ………

「で、具体的にはどーやって助けてくれんだ?」

カリカリカリカリ………

「アタシ的にはもー1回雷に打たれるしかないと思ってンだけど?」

カリカリカリカリ………

「て、聞ーてんのか?湊?」

カリカリカリカリ………

「なぁ?」

カリカリカリカリ………


「うるせーな!! 今は授業中だっての!!!」


カリカ………

「高杉、煩い。」

「………はい。」


………………第7話「繋がる電話」……………………


あれからの俺と武者小路はというと、勢いでああ言ったは良いものの具体的な案が見出だせない俺に対し、武者小路が業を煮やして突っ掛かってくるようになり、先程の光景の様に授業中でも俺に話しかけてくるようになっていた。


「いや~お暑いですな~お二人さ~ん」

ヒューヒューと口笛を鳴らしながらそう言ってくる「時越高校」一年のトップである我が友人、大村春樹は悲しいかなすっかりギャグ要因に成り下がっていた…。

「春樹か?いや、違うからな俺と武者小路の関係は決してそんなやましいものじゃ無いからな」

と、何度説明しても納得してくれず、クラスの連中に至ってはあれ以来、女子は何故か俺に対して冷たい態度と目線を送るようになり、男子に至っては目の前の脳味噌筋肉野郎と似たようなリアクションで、先程の授業中に至っては生暖かい視線と極寒零度の視線でそれを会わせれば何故か途轍もない魔法を繰り出せるような気がした程だった。


「おい、武者小路」

その諸々の原因である武者小路はといえば、あれ以降春樹と三人で教室で昼食を取るようになり(素顔は俺と春樹の背で隠れていて、どうやらあまり見られたくないらしい…)、今は昼寝タイムを楽しんでいるようだった。

…こんなこと言っては何なのだが、それだったら授業中寝て欲しいものである。


「んあ?」


このクソ暑いなか冷房が効いてるとはいえ良くマスクをしたまま寝れるな…と感心しつつ、寝惚け眼の彼女に話を続ける事にした。

「今度の土曜日ヒマか?」


ザワッ


またも、極大消滅呪文が放てそうな空気がクラスを支配した。

「…土曜? ヒマだが?」

「なら、一緒に出掛けるぞ」

「あー…オッケーわーったよ………Zzz」

そう言って武者小路はまたも眠りについてしまい

「み、湊………いや、師匠! あんたスゲーよ」

そう言った春樹に対しクラスの脳筋共は一斉にウンウンと頷いていた。


……………………………………………………………


「ふぁ~あ……で? 何処に行くんだい湊?」

所変わって土曜日、俺は地元の駅前で武者小路と待ち合わせをして、約束していた図書館へ彼女の問題を解決するべく調べものをしに行く予定だったのが………

「まさか聞いて無かったのか? 俺はきちんとお前に目的地を伝えたハズだ」

「………あ、いや~あれだろ?帰り道、何か言ってたあれだろ?」

(駄目だ、コイツの脳味噌も筋肉で出来ていたことを考慮すべきだった。)

俺は、自分の浅はかさを再び呪った。

こんな形でまさか再び呪うことになるとは思っていなかったが、そういえば彼女の携帯番号を知らなかった事に気付き、それがあればこんな事態も防げたハズと思い彼女に聞くことにした。

「武者小路、携帯出せ」

「は?」

「"は?" じゃなくて携帯出せ。そして俺と番号交換しろ」

すると、目の前の女子高生はキョトーンとした顔をしており、休日の土曜だというのに上下真っ黒のジャージで(上は半袖だが)背中には竜の刺繍が入った格好のその女子高生は

「携帯って何だ?」

………そう尋ねてきた。


「持ってないのか?」

「だから、携帯って何だ?」

言われてみれば、確かに昭和から令和の時代に飛ばされた彼女からしてみればそんなもの知らなくて当然で、持ってなくて当たり前だと言うのに………俺は、俺はなんて浅はかな男なんだ………!


プルルルル………


「あ、悪い湊、ちぃとタンマ」

ピッ

「もしもし? ああ、お母さん? 大丈夫ですよ。

ご心配なさらず  …ええ …では、失礼します」

ピッ


………何から突っ込むべきだろう?

敬語を使えた事に突っ込むべきか?

親に対して他人の様に会話する姿にか?

それとも、いとも簡単にスマホを使いこなす昭和産まれの女子高生に突っ込むべきか?

………いや、それよりも何よりも………


「それが、ケータイっつーんだよ!!!」


ああ、俺は彼女と出会ってから叫んでばっかりだ。


……………………………………………………………


「ほう、これがケータイと言うやつなのか? アタシはてっきりなんだか凄いトランシーバーだとばかり思っていたぞ」

「トランシーバーじゃなくて電話だ、携帯電話。 正確にはスマホだが。」

場所は変わって、俺達は近くにあった雰囲気の良いレトロな喫茶店へと来ていた。 理由はあの後図書館へ向かう途中この店を見つけた彼女がどうしても入りたいと騒いだ為である。

彼女の手元にはアイスコーヒーがあり、俺はジンジャーエールを飲んでいた。

「てか、良く使いこなせるなそのスマホ」

武者小路が「はー」とか「ほー」とか言ってスマホを指で摘まんで眺めている。

現状、飲み物を飲むためマスクをずらしながら言うその姿は、ぶっっちゃけ可愛かった………

「スマホ? これをスマホと言うのか? ケータイじゃなくて?」

「スマートフォンだ正確には。携帯電話と違って様々なインターネットサービスが使え、今では全国で94%の割合で普及している女子校正の必須アイテムだ」

「チッ、また訳わかんねーことをベラベラと………

今の母親に教えられただけだよ…ったくこちとらテメーの面なんか知らねーつーのに、心配ばっかしやがって………事あるごとに寄越してきやがる」


そう言った彼女の顔は、言えばきっと怒るだろうが言葉とは裏腹に何故か何処か嬉しそうにみえた。


……………………………………………………………


「これでいつでもアンタに電話が出来るよーになった訳だ?」

「ああ」

結局、あのまま喫茶店で携帯やスマホの説明をした後、彼女が何故親に敬語なのかとたずねたり、(何故か無言でテーブルの下から脛を蹴られたりしたが)この件に関しては俺がデリカシーに欠けたことを認めよう。

まあ、そんなこんなで長居してしまった俺達は帰宅する為に駅へと歩いていた。


「色々、すまなかったな」

「あ? あ~まぁ気にすんな」

俺は、武者小路に今日約束した図書館に行けなかったことや彼女が過去へ戻る方法を何1つ調べる事が出来なかった事を悔やみそれを含めて彼女に謝罪をした。

しかし、きっとその謝罪の意味を全ては分かっていないだろう武者小路は飴を加えたまま笑ってそう言ったのだった。 


ブー ブー ブー


そんな時だった。急に俺の携帯が鳴り出したのは

「ん?何だ? ………非通知?」

俺は、出るのを躊躇いスマホを仕舞おうとしたのだが………

「お!? 電話じゃ~ん! 何だ?女か~」

隣の悪童に盗られてしまい、こともあろうかその悪童は、通話ボタンを押しやがった!(使いこなしてんじゃねぇ!!)


ピッ


「もっしもーー…」


ザッ ザザッ ザッ


『もし……も…し? よ…うこ……?…わ…………わた………しは………ゴメ………ン………』


ザ-------………


「ま、真由美? 真由美なのかい!? 真由美----ー-!!!」

 



呆然と立ち尽くす彼女が見える。

俺のスマホを持ったまま、ただ呆然と立ち尽くす彼女が見える。

誰が思ったのだろう?タイムマシンが出来ればきっと楽しい思いが出来るって、誰が言ったのだろうタイムスリップ出来るなんて夢のようだって………

俺の眼に映る武者小路は楽しい思いなんて1つもしていなくて………ただただ泣きそうな顔をして立ち尽くしていた。

















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