第6話 馬と鹿
雨が降っている。
空き教室の窓に、雨が刺さるように当たり続けている。
俺はなんて馬鹿だったのだろう。
タイムトラベルが楽しく見えるのは所詮、映画や漫画、小説等の創作物の中の出来事だからなのだ。
自分が実際に体験した時彼女のような事態も起こりえるかも知れないと何故、空想出来なかったのだろう。
自分の胸に顔を埋めて泣いている彼女を見て何故"面白そう"だなんて言えたのだろう。
「………この、大馬鹿野郎がっ」
ガシッ
「え?」
「良いか武者小路、先程の事は素直に謝ろう。君の気持ちをまっったく考慮しなかった俺に非がある。…すまなかった!」
気付けば俺は、武者小路の両方の肩口をそれぞれ両手で掴んでいた。
見れば、彼女の顔はマスクなんてとうに外れていてその涙も相まってより一層美しく見え………見え……
「この糞馬鹿野郎が!」
「な、何だ貴様!さっきから人の事を馬鹿だ馬鹿だとっ」
「いや、スマン気にするな。君に言った訳では決して無い。君を泣かせてしまったことと、その美ぼ………何でもない気にするな。とにかく俺が全て悪かった!
」
言いきった。多少危なかったが言いきった!
「い、いや別にアタシも高杉を責めてる訳では無いからな? それにこっちも悪かったっつーか、言い過ぎたっつーか………と、とにかく手を放してくれ!」
「あ、ああ…すまない」
チッ チッ チッ チッ
俺はいつの間にか彼女を掴んでいた恥ずかしさで、彼女は人前で泣いてしまった恥ずかしさからだろうか二人の間に静寂が流れる。
時計を見ればもうすぐ五時限目が終わりそうになっていた。
俺はこのままこの子を泣かせたままで良いのだろうか? 奇しくも自分だけが気付いてしまった彼女の秘密をこのまま放っておいて良いのだろうか?
それは、幼い頃から嗜んできた剣道から学んだ正義感からだろうか、それともー…
「おい、武者小路」
気付けば俺は教室の出口に向かっていた武者小路を呼び止めていた。
「ん?何だ…まだ何かあるのか?」
そう言って振り向いた武者小路は先程とは別の、何処から取り出したか分からないマスクを着けていた。
「お前が過去に戻る方法一緒に考えてやる!」
「………は?」
…俺の馬鹿野郎!!
……………………………………………………………
「なーんで、あんな事言っちまったのかねぇ」
時刻は午後4時を周り、部活にも入っていない俺は絶賛帰宅中であった。
あの後、武者小路と共に教室に戻った俺は女子からの非難の目と男子からの憐れみの目を向けられ、それはそれはひどく居たたまれない気持ちで六時限目を乗り切ったのだった。
約一名、好奇の目を向けてくる金髪がいたが、そんな奴は誰だか面識も無い間柄なので、帰り際声をかけられたがフルシカトして帰宅することにした。
「なーにが言っちまったかなんだよ湊?」
何故かそいつがストーカーの様にずっと隣にいるのだがシカトだシカト!
「しっかし、湊とヨーコさんがねぇ…明日から女子共は荒れるぞ~…男子はまぁ、素顔知らないから今んとこはお前に同情してるだろうがなぁ~しかしなぁ~」
「煩いな。さっきから隣でブツブツと…別に俺と武者小路に何が有ろうと無かろうと誰も気にする訳無いだろう?」
すると、何故だろう隣の金髪馬鹿、大村春樹は声に出てないはずなのに「う~わ、マジかコイツ」とこちらに分かるように訴えかけてきた。
そんな時である…
バシッ
「痛っ」
「アタシがどーしたって?」
急に背中を叩かれ振り向けば、噂をすればとはこのことだろうか?
相変わらず薄い学生鞄をぶら下げた武者小路陽子がいた。
「武者小路…いや何でもないぞ。てか、その鞄痛すぎるぞ! 中に何入ってんだ!?」
「鉄板」
「は?」
「え?」
そう言って武者小路は自慢気に学生鞄の中身を俺達に見せてきた…中には大量の棒着き飴と薄い鉄板しか入っていなかったのだが…
「お、お前………」
「ンだよ? 文句あんのか? こちとらか弱い女子コーセーなんだぞ? こんぐらいしねーと、いざって時、身を守れねーだろ?」
「か弱い………」
「………女子高生ね…」
そう言って快活に笑う武者小路に俺達二人は、呆然と苦笑いしながらそう返すのが精一杯だった…。
「なんだなんだぁ、その顔は? 昼間アタシに啖呵切った時のアンタは何処にいったんだあ? 思わず惚れそうになるくらいは格好良かったぜ?」
「何?」
「へぇー」
隣で馬鹿………いや、止めよう人をあまり馬鹿馬鹿言うもんじゃない…春樹がニヤニヤしているが無視する事にした。
そんな俺達二人を置き去りにして歩みを進めていた武者小路だったが急に歩みを止めて振り向いて…
「つー訳で、明日から宜しくな! 協力してくれるんだろ?………み・な・と・君」
…最後にわざとマスクをずらして俺の名前を呼び微笑んだのだった。
「………湊」
「………何だ」
ポンッ
初めて春樹に肩を叩かれた
「…頑張れ………」
それは馬鹿にしてる訳でもなく、彼からの純粋な励ましで、俺は…
「俺の馬っ鹿野郎----!!!」
と、大声で叫んでしまったのだった。
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