第4話 ファーストコンタクト
ミーン ミンミンミン ミーン
「………」
ガサリ、モグモグ…
「………」
ビリ、ズー…ズコー ごくごく
「………なあ」
クシャリ、ポイッ
「なあ…暑くないのか?」
ズコー………
「あ? んな野暮な事聞ーてんじゃねぇよ」
照りつける日差しの中、俺はあの後一度戻ろうとした所を踏み止まり、ちょうど日陰になっている武者小路が座っている隣に体育座りのような格好で腰を落ち着けていた。
「暑いに決まってんだろ?」
「やっぱ、そーなんじゃねぇか!!」
現在気温は35度程あり、もう少しで人間の体温を超えるといった所だが俺と武者小路はまるで我慢比べのようにその場を動かなかった。
「なあ、移動しようぜ?」
「はぁ?移動? アタシは誰にも邪魔されず一人で休みてーんだ!…しかも何でアンタなんかと一緒に!」
俺がこの場にとどまったのは、彼女「武者小路陽子」に聞いてみたい事があったからだ。
「いいから、行くぞ」
思えば、この時の俺はどうかしていたんだと思う。
普段なら絶対に自分から声をかけない異性と二人きりで居て、あまつさえ彼女の手を引いて歩き出すなんて…。
「あ、オイ! ちょっ、テメェ!」
暑さの所為にしたくなるくらい、ホントどうかしてたんだと思う。
……………………………………………………………
ガラリッ
「あん? 何だこの教室誰も居ねーじゃねぇか?」
俺達は現在、校舎の一階の端にある空き教室へと来ていた。
「空き教室だよ。今は使われていないから誰も居ないし誰も来ない」
入学してから3カ月が経ち、ある程度友人関係も確立してきただろうが、それでもまだ皆何処か浮足立っており新たな友人を作ろうと必死になったり、彼氏や彼女など華のある学生生活を送る事に夢中で、こんな所で昼休みを過ごす奴は少なくとも俺の学校にはいなかった。
「………いい加減、手ェ離せよ……」
「!? え、あ、わ、悪い」
「助兵衛な野郎だ」
キッ! と武者小路から睨まれながら俺は、そういえばここに来る時やたら見られていたのを思い出し、更にその中に目立つ大柄な金髪がいたのに気付き、激しい後悔に襲われていた。
「そ、そんな落ち込むなよ。アタシも言い方が悪かったよ」
気付けは何故か被害者であろう武者小路に、机に手をついて項垂れた俺は慰められていた。
フゥ………
「嫌、大丈夫だ。武者小路は悪くない、寧ろ悪いのは俺で今は自責の念に駈られていただけだ気にするな」
「自責…?頭の良い奴はいちいち難しい言葉を使うよなホント…」
そう背筋を再び伸ばして武者小路に伝えれば「とにかく悪いのはアンタで、アタシは悪くないんだな?」と、安心した表情(マスクで殆ど見えないが)を浮かべていた。
「で?何だい?こんなとこに連れ込んで…喧嘩かい?ステゴロなら受けて立つよ! アンタ、見たとこ剣道か何かやってんだろ?別に怖くはないし負ける気もしないが、ちぃと部が悪いからね」
そう言って武者小路は拳を構え始めた。
「い、いや待ってくれ! そんな気は全然無い! とにかくその拳を収めてくれ、てか良く分かったな剣道やってるって?」
「あん?違うのかい? ………さっき、て、手を握られた時に気付いただけだよ。その豆の付きかたは何かやってるとしか思えないしな」
「成る程、そうか………いや、すまなかった。」
「………じゃ、何の用だい」
俺は小さい頃憧れていた事を思い出す。
タイムスリップ、タイムトラベル、タイムリープといった言い方や方法は別々だがどれも過去や未来に行き来して冒険したり、恋愛したり、様々なイベントが起きるのを映画や漫画、小説で見て憧れていた。
大きくなったらタイムマシンが出来ていて、俺もそんな夢のような出来事を体験できると本気で信じていた。
でも、いつの日かそれはただの夢であると認識し、そんなことを考えるのは恥ずかしい事なんだと級友と話していくうちに実感していった。
だが
今、目の前にもしかしたらその夢が現実となっているかもしれない。
そう思って気付いたら彼女の手を握って走り出していた。
「んだよ、黙ってちゃ分かんねーぞ」
そして、彼女はまた飴を咥えた。
「………」
「~オイ!」
「武者小路陽子、単刀直入に聞く。君は過去から来たのか?」
………………。
中々、返答が無いなか(我ながらなんと恥ずかしい質問だ…)と心の中で身悶していた時だった…。
「な」
「え?」
「何で、分かったんだ?」
そう言った彼女を見れば、咥えた飴は口から零れ落ちそうになっていた。
もしかしたら、これが本当の最初の武者小路陽子との出会いで、俺の人生が大きく変わった日でもあったのかもしれない。
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