第3話 同類

キーン コーン カーン コーン


あの後、武者小路陽子の素顔を見たショックからか覚束ない足どりで、学校へと到着した俺達であったが、友人の春樹は本来の性格からなのか直ぐにそんなことは忘れてしまったようでクラスに入るや否や悪友達の元へと足を運んで行ってしまった。


「………よう、さっきぶり」

俺はこの時ばかりは、普段率先して友人を造らなかった自分を呪い、良くも悪くも交友関係の広い春樹を羨ましく思った。

そう声を掛ける隣の席には、先程初めて互いに認識をかわした、入学して以降ずっと隣の席に着く武者小路が居て、相も変わらず仏頂面をしていた。

「ああ、…さっきの」

そう言った武者小路は、マスクをつけておりそれが一層近寄りがたさを増しているのだった。


「そのマスク………」

「…何だ?文句でもあるのか?」

そうして俺と武者小路が会話をしていると、普段春樹としか話さない俺と、誰とも喋らず教師ですら声を掛けるのを躊躇ってしまう雰囲気を放つ武者小路の声を初めて聞いたクラスメイト達が突如騒ぎだした。


「え、嘘?何で湊くんが武者小路さんと………」

「武者小路さんが誰かと喋ってるとこ初めてみたぜ」

「えー…」

「マジか…やるなぁアイツ!」

「へへ。さすが俺の親友だぜ!」


…最後のセリフは親友のいない俺には誰かまっったく判らなかったが、そんなクラスメイト達を他所に俺は会話を続ける事にした。

「いや、折角もとが良いんだから勿体ないと思ってな…」

「な!?馬鹿か貴様? 破廉恥な! 恥をしれ馬鹿者が!」

初めて自分から声をかけた女子に2回も馬鹿と言われ俺は…

「手厳しいな。これでは暫く立ち直れそうにもない」

と本音を漏らしていた。

「な!………そ、それはそのスマなかったな………全くこの時代の男は軟弱で困る………」

最後の方は良く聞き取れなかったが、マスクから上の表情筋をみれば、目尻は下がっており何故だか自分が悪い事をした気持ちにさせられた。


フゥ…


「いや、こちらこそ悪かった。申し訳ない。」

俺は、そう言って頭を軽く下げ、自分の席へと腰を下ろすのだった。 


……………………………………………………………


時は流れ、昼休みとなった。

俺の隣の席の武者小路は、昼食時はいつも何処かに行ってしまう為ご飯を食べる時に外すであろうマスクの下は未だ誰にも見られておらず、だから自分もあの時驚いたのかと高校生活3カ月目にして初めて気づいた自分を少し恥ずかしく思い殴りたくもなった。


「あれ? 湊どこ行くんだ?」

どうやら友人からいつの間にか親友になっていた春樹に声をかけられた俺は、いつもなら自分の席で春樹と共に昼食を取っているのだが、何故だか今日はそんな気分にも馴れずもっと周りに誰もいない静かな場所を探しに足を運ぶことにした。

「すまんな春樹、今日は一人で飯を食いたい気分なんだ」

「ふーん。了解」

付け加えておくが俺は今日色々あったから春樹と飯を取りたくないんじゃ無い事だけは分かって欲しい。



「ここら辺で良いか………」

そうして今、俺は一人屋上へと繋がる階段へと来ていた。アニメや漫画等の描写に良く使われる定番のボッチ飯の名所である。

「ん? 施錠が外れている?」

それは、遠目からは判りづらいが屋上のドアノブにかかった鎖の施錠が外れているのを俺は見つけてしまった。

普段、誰も来ることが無いから発見されなかったのだろうそれは、今日の俺を誘惑するには取って付けの出来事だった。

「たまには、開放的な場所で一人で食べるのも悪くないか…」

誰かが開けたとは考えもせずに足を運ぶのだった。


ガチャリ


「うわっ………失敗したか?」

ドアを開けた先に待っていたのは茹だるような炎天下と雲一つない青空で、ほんの僅かばかりの風だった。

「クソ。やっぱり戻るか」

そう言って、屋上の今度は照りつける日差しのせいで熱くなったドアノブを握った時である。


「あん?」


そんな、何かを咥えながら喋る今日はよく聞く声が聴こえて来たのは………


声の元を探るように自身の右斜め下に目を向ければ、

僅かばかりの日陰で胡座をかいて汗をかきながらマスクを顎の下辺りにずらして自分と同じような昼食に噛りつく武者小路陽子がいた。



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