第2話 マスクの下は?
「………武者小路?」
「あん? なんだいアンタ、急に人の事呼び捨てにして?」
俺は、思わず目の前の非現実的な出来事から彼女を名字とは言え呼び捨てにしていた。
「あ…いや………悪い」
「しょ、翔ちゃーん!! …なんだこの女ァ!?てか、てめえも1年か? クソ暑い中デケェマスク何か着けやがって気味わりぃな」
「ヒャハハハ! おい止めろよ可哀想だろ? きっとどうしようも無いくらい不細工なんだろーぜ?」
目の前のボスであろう人物をぶっ飛ばされた不良達が騒ぎだした。
「テメェら………」
ギリッ
すると、多分自分の友人であろう大村春樹が、その発言が気に入らなかったのか、拳を握り込んでいる。
「おい、落ち着け春樹、アンタらも煽るな。」
俺はなんとかその場を落ち着かせようと試みた。
先程迄とは違い、か弱い?女子もいるのだ。大事になったら不味いと判断しての行動だった。
しかし…
「五月蝿いねぇ、アンタら…」
ドガンッ!!
目の前でボスであろう人物をやられ騒いでいた不良二人が、華麗に決まった彼女の回し蹴りによって、仲良く壁にめり込んだ。
「………」
「ふ、太くん、マサルくーん!?」
「お、おい逃げるぞ!!」
不良達は仲間を担いで一目散にその場を逃げ出して行って、残されたその場にいるのはか弱い女子ではなく、いるのは圧倒的強者だけであった…。
「あー、悪かったな武者小路………さん?」
俺は結果的に巻き込んでしまった事と、先程呼び捨てにしてしまった謝罪も込めて彼女にそう伝えたのだが
「チッ………別に呼び捨てで良いよ。」
そう彼女、武者小路はぶっきらぼうに返答してきた。
「ホント? サンキュー助かったよ! ヨーコ!」
バキッ
「ただし、下の名前は駄目だ。 …たしか大村だったか? そのバカそーな頭は」
友人、大村春樹は武者小路からの殴打によって数メートル程吹っ飛んでいった…。
クルリ
「ところでアンタは?………………高杉でイーんだよな?」
突如、振り向いた彼女が物凄く近い距離で俺に話しかけてきた。
「あ、ああ………」
見れば彼女の顔は、ソバカス一つ見当たらず睫毛なんか自分の倍以上生えていそうで、切れ長ではあるが三重程ある瞼とその眼で俺を睨みつけてきた。
「な、何か?」
「いんや、別に? ただ同じクラスの隣の席にアンタに似たよーな奴がいた気がしただけだ。」
「いや"気が"じゃなくて、その通りだぞ武者小路」
俺がそう答えると彼女は少し驚いたあと申し訳なさそーに少し後ずさり、後頭部を掻きながらこう答えた。
「あーわりぃわりぃ。 なんせこっちに来てまだ4カ月なもんでな、そこのバカは目立つしすぐ解ったんだがアンタはどーも存在感が薄いっつーか………わりぃ」
パチンッ
そう言って、彼女は今度は目の前で両手を合わせて謝罪してきた。
「いや大丈夫だ。自覚はしてる気にするな」
「そーそー、こんな陰キャ覚えなくていーよ。陽子さん」
早々に復活して、そんなことを述べる元友人に俺は睨みをきかせる、自覚はしているがコイツに言われると何故か腹が立つ。
しかし、そんな怒りも彼女の次の発言で霧散してしまった
「陰キャ? 何だそれは? キャンプの事をこの時代では、そー呼ぶのか?」
「………は?」
キャンプ?いくらこんな東北の田舎だからといって、現役女子高生が陰キャを知らないだと? それになんて言った彼女は今、"この時代"? どういう事だ?
「ありゃ、知らなかった?ゴメンゴメン。陰キャつーのはコイツみたいな根暗でパッとしないヤツの事をそー呼ぶのさ!」
俺が彼女、武者小路の発言に気を取られている間にそう発言した誰だか知らない無礼なやつを、俺は後で殺そうと決意した時だった。
「はーん。成る程、そーいう事かい? まぁいいや、ところでアンタらこれ持ってるかい?」
そう言う武者小路の手は、人差し指と中指で何かを挟むような仕草をし自身の口元へとそれを近づけた。
「?」
「………持ってる訳無いだろう」
隣の通行人Aは不良の癖に気付かなかったようだが、俺は兄貴の吸ってる姿がすぐさま思い浮かびそう応えた。
「はー、ヤッパそうかい、悪かったね変な事聞いて」
すると武者小路は薄いカバンから、棒のついた飴玉を取り出しマスクを取って口に咥えた。
「この時代の奴らは、ホント健康的だよ。 ハァ…そんじゃアンタら、高杉と大村だっけ? また学校で! ンじゃな!」
そう言って笑った彼女"武者小路陽子"は、先程の不良達が言った不細工等では決して無く、今まで観たことが無い程の美しい顔をしており、俺達はその姿をただ呆然と見送る事しか出来なかった………。
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