踏まないように
尾八原ジュージ
友人からの電話
『ねぇねぇちょっと聞いてよ。あんたの好きそうな話だからさぁ』
そう言って夜半に突然電話をかけてきた友人は、私が電話を取るなりぺらぺらと話し始めた。
友人の出身地――彼女いわく海辺のド田舎だそうだが――の小学校には、校庭に一体の銅像があった。少年と少女が空に向かって手を伸ばしている姿を象った、これといって特徴のないものだそうだが、この周囲で転ぶ生徒がやけに多かった。
おそらく周囲が微妙に盛り上がっているなどして、つまずいてしまうのだろう。大人たちはそう説明したが、子供たちは「像の呪い」だと噂し、学校の七不思議扱いになっていた。
「像のモデルになったのは、学校で自殺した生徒」
「元気に走り回っている子供たちを見ると羨ましくなって、足を引っ張って転ばせる」
などという怪談話が、まことしやかに語り継がれていたという。
『いや、それはホントにただのうわさなんだけどさ。でも怪我が多かったのは実際そうなんだよね』
先月、その地方で地震があった。
その影響か、くだんの銅像が傾いてしまった。そもそも友人の在校以前からあった古いもので、潮風などによる劣化も激しい。これを機に撤去しようということになり、業者が入った。
『わたしの同級生がそのぉ、造園業だったかな? 地元のそういう会社で働いてて、銅像の撤去に向かったらしいのよ』
銅像を持ち上げると、その下から割れたり腐ったりした木の板が大量に出てきた。白木もあれば、漆塗の黒いものもある。
一体なんだろうと拾い上げて眺めていた上司が、突然悲鳴を上げた。
銅像の足元、半径二メートルほどの地面の下を少し掘ったあたりに、まるでパズルのようにみっしりと敷き詰められていたのは、位牌だった。
どれも戒名や俗名などが彫り込まれていたという。
結局位牌の出処は不明、誰がこんなところに敷き詰めたのかもわからないらしい。
銅像は撤去され、跡地は現在立入禁止になっているという。近く代わりの像かなにかを設置する予定だそうだ。
『一応よく探したらしいけどさ、うっかりまだ埋まってるやつがあるかもしれないじゃない。だから誰も踏まないようにっていう配慮らしいよ』
友人はそう言って話を終えた。
踏まないように 尾八原ジュージ @zi-yon
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