第26話 エルドランダー・エクス登場

 促されるまま俺たちは外に出てエルドランダーのクラスチェンジを見守る。


『スタンバイ完了、クラスチェンジ、レディ————スタート』


 エルドランダーの車体が虹色に輝き始めた。

 やがて車体を覆い尽くした光が膨らむようにして形を変えていく。

 その様子にシンシアとランスロットが驚愕する。


「な? なんですの!? このキラキラはっ!?」

「変化の魔術の類なんだろうが肌で感じられるくらい膨大な魔力だ……制約によって使用機会を限定することで効果を上乗せしているのか。だが、蓄積された魔力を一気に使用するにしても時間制限のない変化なんて魔術界の原理原則を無視し過ぎだ。これはもはや魔法の類じゃないか?」

「魔法ですって!? それはいくらなんでもおとぎ話が過ぎましてよ!」

「おとぎ話が現実と交差するなんてのはありふれた話さ。だけど、これは俺ですら背筋が凍るレベルだ。この世界の運命すら左右する何かが動き出しているような予感がする……」


 わー、なんかロボットアニメみたいだ。

 宇宙機動隊アロンダイナとか疾風迅雷バクソウガーとか。

 新幹線とか飛行機とかがロボットに変形したりするヤツ。

 子どもの頃大好きで学校から帰ってかじりつくように観てたっけなあ……



 二人と俺とで温度差があるのは世界観の違いのせいだろうな。



 虹色の光に包まれたエルドランダーがみるみる変形していく。

 タイヤの部分が大きく太くなり車幅からはみ出るが追いかけるようにフェンダーも巨大化した。

 木が枝葉を生やしていくように追加装甲らしきものが装着されシルエットがどんどん攻撃的なものになっていく。

 最後にフロント部分が犬の鼻のようにせり出し、パリィーンと割れるように虹色の光が砕け散り、進化を終えたエルドランダーの全容が明らかになった。


「うお…………すっげぇ」


 俺も思わず言葉を漏らしてしまった。

 車体は二回りは大きくなっただろう。

 もう日本の公道を走るのは無理だ。

 しかし、トラックタイヤさながらの巨大なタイヤが4列8輪と並ぶ力強い足回りに鎧兜を装備したような豪華で重装なボディ。

 そしてトリコロールカラーを主体とした鮮やかなカラーリング。

 俺の中の少年心をくすぐってやまないヒロイックな姿にエルドランダーは進化していた。


『クラスチェンジ完了しました。エルドランダーあらため、エルドランダー・エクスと名付けておきましょう』


 姿は大きく変わったが声は変わっていない。

 言っていた通り別の物に代わるのではなく、エルドランダーがそのまま強化されたのだと分かり、俺は安堵する。

 一方、シンシアとランスロットは黄色い声を上げて喜んでいる。


「カッコいいですわ〜! エルドランダーさん!」

「へぇ! 見るからに強そうじゃん! 何ができるようになったんだ!? エルドランダー!」

『エルドランダーではありません、エルドランダー・エクスです』


 一丁前に不機嫌そうな声音になってやがるの。ウケる。


「呼び方なんて慣れたものでいいだろ。それに長い名称は定着しないんだ。イギリスのことをグレートブリテンおよび北アイルランド連合王国なんて呼ぶ日本人いないだろ?」

『その例えが適切なのか怪しいですが……まあ、あきらめますよ』

「不貞腐れるなって。カッコいいぜ、今のお前。割られたガラスも治ってるし。ぶっちゃけ性能はどれくらいなの?」

『今の私を車の性能で測るのは適切とはいえませんが、最高速度400キロ、パワーは5000馬力はあるのではないでしょうか?』


 たしかに車の範疇に入れて良いか疑問符がつく。

 これがクラスチェンジか……


 呆然としていると、ランスロットがヒョイっと屋根に登る。


「明らかに頑丈さが上がってるな。なあ! これならアレを載っけられるか?」


 そう言って宿場町から引き摺ってきた荷物を指す。


『可能ですよ。今の私の最大積載量は10トンを有に越しますから』

「だったら話が早いや! コイツを固定するの手伝ってくれ!」


 言われて俺も屋根にのぼり、ロープで積荷を固定した。

 確かに屋根の上だと言うのに足場がしっかりしていて傷つける心配がない。


「本当にモンスターマシーンになっちまったなあ」

「いいことじゃない。これくらい強そうな方が都合がいい」

「まーね。だけど、燃費は悪そうだなあ」

『経済速度で走ればリッター10キロといったところです』

「あ、思ったより少食だ」


 何気ない言葉のやりとりだったから聞き流してしまったが、ランスロットが「都合がいい」という言葉を発したところで物騒な気配を察知すべきだった。


 新生エルドランダーの初陣はこれまで以上に過酷で目を覆いたくなるようなものになることを俺は知る由もなかった。

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