第17話 いともたやすく行われる違法行為

 転んでもタダでは起きない。

 それが俺の強みだと思っている。


 ヘリオスブルグで門前払いされた俺だったが、同じように王都に入れず壁の周辺でウロウロしている連中に片っ端から声をかけて、物を売る方法を調べまくった。


 すると、ヘリオスブルグから別の街に向かう街道にある宿場町に大規模な隊商キャラバンが訪れるという話を聞いた。

 商品を買い付けたか売り捌きに行くのか、どちらにせよ商人の集団だ。


 ヘリオスブルグは王都だけあって城塞があったり、門番がいたりで入るのは難しい。

 だが、宿場町に逗留するキャラバンならエルドランダーさえ隠しておけばいくらでも接触できる。


 その旨をシンシアに伝えると俺たちはすぐ街道沿いを走り宿場町を目指した。


「ところでアンゴさん。いったい何を売るおつもりですの? あなたのお持ちの品はとても良いものばかりですから良い値がつくかもしれませんが屋敷を買えるほどの値段がつくとは」

「大丈夫。その辺もバッチリ考えてある!」



 昨晩のこと————



 やっぱ金髪のボンキュッボンな美女が良いのか、それともちょっとロリが入った大和撫子が良いのか、はたまた三次じゃなくて二次元の方がいいのか……これは難問だ。


 夜、平原の真ん中に停めたエルドランダーの車内で俺はノートPCの中に保存したエロ画像を閲覧していた。

 その総容量は28.3GBだが、特別スケベだとは思わない。

 大学生の頃、遊び半分で付き合った彼女が二、三人いた以外は女に縁のない生活だったし、風俗は苦手だから必然的にこういうものが必要となる。

 男のサガってヤツだ。


 とはいえ、うら若い乙女がカーテンがわりのバスタオル一枚の向こうにいるというのにイカ臭い事をするのは大人の男しての沽券に関わる。

 てか見られたら泣く。俺が。

 それでも俺がリスクを抱えてエロ画像を漁っているのは金策の為だ。


 昔、読んだ異世界マンガで紙幣や写真を美術品として買い取ってもらい当座の資金を作るみたいなシーンがあった。

 美術品というのは案外、普遍的な価値を持つ。

 為政者や大金持ちは大抵の贅沢はし尽くしている。

 その贅沢の上にある欲求解消手段の一つが道楽。

 美術品集めはその道楽の最たるものだ。

 時には国や城を代価にしても手に入れたいという需要が生まれることもある。


 つまり、金策するなら美術品の売買が最も効率的!

 俺はそう考えたが、そこでもう一捻り考えた。


 ここが中世ヨーロッパ世界ならなんの変哲もない風景写真であろうとその写実性だけで価値はつくだろう。

 しかし、そこにエロが上乗せになったらどうだろうか?


 シンシアの反応を見る限り、性はある程度タブーとして扱われている模様。

 つまりエロい絵が氾濫していない可能性が高いということだ。

 そんな社会に俺の秘蔵のエロ画像フォルダから選りすぐった画像をプリントアウトして売り捌けば…………きっと莫大な富を築く事ができるだろう。


 フフフ……とほくそ笑みながら俺はエロ画像を閲覧する。


 あ、たしかマンガフォルダにBLものが数冊あったな。

 俺は腐ってないけど普通に泣ける話と話題だったからダウンロードしたヤツ。

 あれもプリントアウトしとくかぁ。



※現実世界でインターネット上の画像を許諾なくダウンロードすることは違法ダウンロードとして罰せられる恐れがあるのでやめましょう。売買なんてもってのほかです。





「よくお似合いですわー!」


 シンシアの能天気そうな声が車内に響く。

 俺は工房に残されていたシンシアの父親の服を着込んでいる。

 貴族趣味のギラギラしているものではなく、トラッドなジャケットスタイルだったから比較的違和感なく着こなせていると思う。

 顔立ちは隠しようがないが、キャスケットを深めにかぶっておけば少しはマシか。


「馬子にも衣装、ってとこだな。これで少しは話を聞いてもらえるといいな」


 そう言って昨夜プリントアウトしたエロ画像たちを詰めた鞄を肩に下げる。


「じゃあ、ちょっくら行ってくる。すぐに車体は偽装するんだぞ」

「本当は連れて行ってほしいんですけどね」


 シンシアが少し拗ねた様子で呟く。


「君は目立ち過ぎるし、相手がどんな連中か分からないからな。ここで待っていてくれ」

「危険なのはアンゴさんも同じでなくて?」

「大丈夫だよ。飛び込み営業は俺の得意分野さ」


 そう言って俺はエルドランダーから降りる。


「良い子にしていたら、君に合いそうな服を買ってきてやる。通行証のいらない街で一緒に歩こう!」

「絶対ですわよー!」


 シンシアに見送られながら荒涼とした平原を歩いていく。

 バッグの中には大量のプリントアウトされたエロ画像……もとい、商品だ。


「コイツらを売って金に出来ればよし。ヘリオスブルグの金持ちに取り次いでもらえるならさらによし。ブラック営業マンの腕の見せ所だぜ」


 やや違法感はあるけれど、お年寄りから貯金を巻き上げる仕事に比べれば足が軽い軽い。

 現代日本のエロ文化がこの世界でどれくらいの価値を示すのか、ワクワクが止まらないね。

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