第6話 第一異世界人を発見

「たらたらたったった〜♪」


【人喰いガエルを3匹倒した。

 経験値を30獲得した。

 エルドランダーはレベルが3に上がった。

 排気量が300cc上がった。】



「たらたらたったった〜♪」


【人喰いガエルを5匹倒した。

 経験値を50獲得した。

 エルドランダーはレベルが4に上がった。

 馬力が30上がった。】


「たらたらたったった〜♪」


【人喰いガエルを12匹倒した。

 経験値を120獲得した。

 エルドランダーはレベルが5に上がった。

 燃費が2km/L上がった。】


「たらたらたったった〜♪」


【人喰いガエルを25匹倒した。

 経験値を250獲得した。

 エルドランダーはレベルが6に上がった。

 馬力が15上がった。

 オートクルージング機能を手に入れた。】



 〇〇中略〇〇



「たらたらたったった〜♪」


【人喰いガエルを145匹倒した。

 経験値を1450獲得した。

 人喰いガエル(アルビノ)を倒した。

 経験値を3600獲得した。

 エルドランダーはレベルが15に上がった。

 音声コミュニケーション機能(中級)を手に入れた。】



 雨の降る中、愛車に群がるカエルどもを轢き殺しまくった。

 結果、エルドランダーはレベルアップを繰り返し…………




 排気量

 2800cc→5200cc

 馬力

 134馬力→280馬力

 燃費

 10km/L→22km/L


 機能

 バックモニタ(初期装備)

 オートクルージング機能

 目つぶしライト

 超強度バンパー

 防弾ガラス

 音声コミュニケーション機能(中級)




 と、めでたくモンスターマシンとなった。

 パーツを変えたわけでもないのに車の性能が上がるとか物理法則完全無視のゲーム式ステータスそのものだ。

 まあ、車いじりとかできる人間じゃないからありがたいけど。


「でも……問題は燃料なんだよなあ。

 残り40リッター切ってるし。

 燃費が良くなった分、航続距離は伸びたんだけど。

 もうちょっとカエル轢き殺したら【燃料回復】みたいな機能つかないかな?」

『マスター。思い入れのある愛車に血を吸わせることに抵抗はないのですか?』


 流暢な喋りを身につけたエルドランダーが小賢しくもツッコミを入れてきた。


「そんなこと言ってもさあ、お前も燃料無くなったらただの鉄の箱だぜ。

 安い感傷なんかより実利を優先するのは当然だろ」

『マスターがあこぎな営業で好成績を上げていた理由がわかった気がします』


 ふん、なんとでもいえ。

 実際、こいつの燃料がこの世界にあるのか怪しいところなのだ。

 ガソリンや軽油の精製には原油を蒸留させる大掛かりな装置が必要だったはず。

 ある程度科学文明の栄えた世界でないとそれを作るのは難しい。

 もし、エルドランダーがガソリン車だったら詰んでいる。

 しかし、こいつはディーゼル車なのだ。


 積荷の中にあるサラダ油を見つめ、連想する。


 菜種油であれば、中世レベルの文明でも普通に作られているはずだ。

 それに苛性ソーダの水溶液とメタノールを混ぜればバイオディーゼル燃料が出来上がる。

 燃料を供給する方法さえ確立すれば、遠慮なく電気を使えるし、大陸横断だってなんのその、並のモンスターは轢き殺せる。


 俺にとってエルドランダーは生活基盤であり、唯一の武器である。

 異形の化け物が跋扈する世界で生き延びるためにはコイツの安定稼働が大前提となる。




 俺が目覚めた場所から300キロ以上離れて、ようやく草原以外の景色が見えてきた。

 ところどころに地面が隆起してできたような岩山がそびえ立つ赤茶げた土の荒野。

 走行可能だろうが砂利だらけの道は燃費が良くないだろうしタイヤのダメージも気になる。

 それに疲れも溜まってきた。

 雨はとっくに上がり、カエルが大量発生している地獄のような地域は脱せられたようだし、このあたりで睡眠をとりたい。


「実際、落ち着いて寝られるって恵まれた環境だよなあ。昔の侍が横になって寝ないって気持ちがよくわかる」

『敵が近寄ってきたら起こすくらいのことはできますが』

「一晩中アイドリングしてろってか? 燃料のアテもないこの状況で」

『人間も睡眠を摂らないと動けなくなります』

「だな……まあ、いい感じに目立たない場所があればそこに停めてひと眠り————ん?」


 大きな岩山にポッカリと開いた口のような洞窟があった。

 しかもおあつらえむきにエルドランダーがすっぽり入りそうだ。

 早速その入り口にエルドランダーの頭を突っ込ませ、ライトを点灯した。

 目つぶしライト、と表現されるほど強い光を放つエルドランダーのフロントランプによって洞窟の岩壁が照らし出される。

 その全貌は奥深くに続いておらず、10メートル足らずで行き詰まっていた。

「ハハ、ラッキー。手頃なガレージゲットだぜ。ここなら少しは落ち着けそうだ」


 だが、エルドランダーは安堵する俺に水を差す。


『落ち着けるのですか? クマの巣かもしれないのに』

「……いや、野生動物の巣って一般的に狭いもので」

『この世界の生き物に前世界のルールを適用するのは尚早です』

「ホント、嫌なことばかり言うね。見てくりゃいいんだろ」


 車をアイドリングさせライトをつけたまま外に出る。

 キョロキョロと地面を見渡すが糞や食べカス的なモノは残っていない。これなら大丈夫だろう、とホッと息を吐こうとした瞬間、


「ア…………アアァ…………」

「ヒィッ!?」


 呻き声に慄き、飛び上がった。


「な、なんだ!?」


 声のした方に目を向けるがライトで照らされた岩壁があるだけ————いっ?!


 ドサァッ!


 岩壁の一部が剥がれて地面に落ちたと思ったら、その岩が煙のように消えて代わりに紫色の髪をした女が横たわっていた。

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