第5話 魂は覚えている 前編

 世の中には前世を覚えているという人がいるらしい。その人によって前世は違うが、有名人だった人や性別が違った人、中には種自体が違った人など様々なのだという。

実は俺、清天せいてん志音しおんにもそういった前世の記憶があり、それが理由で初めましてのはずなのに懐かしさを覚えた人物がいる。それは二歳年下の妹の清天せいてん凜花りんかで、凜花が生まれてきてその顔を初めて見た時、二歳だった俺でもなんだか初めましてじゃないような感じがしたのを今でも覚えている。

前に前世で友達や家族、恋人だった人同士は来世でも惹かれあって親しくなる事もあると何かで聞いた事があるが、結果から言えば、俺と妹もそうだった。だけど、ただ親しいのではなく、俺と妹は前世でも兄妹だった上に恋人同士。そしてそれは今回の人生でも影響し、俺は妹に恋をしてしまったのだ。

それに気づいたのは、俺が中学二年生で妹が小学六年生の春だった。その日は両親が揃って出掛けていて、俺は部活動が休みだったため、朝からずっと凜花の面倒を見る事になっていた。

朝に両親が出掛けてから俺は凜花と一緒に朝飯を食べて、その片付けをしてから二人でそれぞれ宿題をやっていたが、気づくとリビングの机を挟んで向かい側にいた凜花が隣に座りながら俺の事を見ていた。

黒いショートカットに血色の良い肌、他の女の子よりも幼く見える可愛らしい顔に少し低めの背丈、と小学六年生よりも幼く見られる事もある凜花の姿はやはり可愛らしく、その様子を眺めていたいと思ったが、そうも言っていられないので俺は苦笑いを浮かべてから声をかける。


「おい、凜花。宿題片付けないと遊びたくても遊べないぞ?」

「えへへ、そうなんだけど……やっぱりお兄ちゃんの近くにいたくなっちゃって……」

「まったく……それじゃあ俺の膝に座るか?」

「え、良いの!?」

「ああ。でも、膝の上に座って少し元気をチャージしたら宿題を終わらせるんだぞ?」

「うんっ!」


 凜花は嬉しそうに答えた後、すぐに俺の膝の上に乗る。やはり小学六年生ともなればそれなりに重くはなっていたが、嬉しそうな凜花の笑顔や凜花がすぐそばにいるという安心感で重さは気にならなくなり、俺は凜花を膝に乗せたままで宿題を再開した。

こういう事も平気で出来るくらいに凜花は生まれた時から俺に懐いていて、初めて話した言葉も『お兄ちゃん』だった上に俺が行くところにはいつもついていこうとするし、小さい頃は昼寝から覚めた時に俺がいなかったら泣き出す程であり、両親は兄妹仲の良い俺達を微笑ましそうに見ていたが、中々兄離れをしない凜花の事は心配していた。

俺も凜花の事は嫌いどころか大好きであり、小学校の頃は何か用事が無い限りは登下校も一緒にしていたし、事前に凜花が何か予定を入れてきたら友達から誘われても断るようにしていたため、友達からはシスコン兄貴だの将来は妹と結婚しそうだの色々言われていた。

もちろん、血の繋がりがある兄妹では結婚は出来ないし、友達も冗談で言っているのはわかる。だけど、俺は本当に凜花と結婚するのも悪くないと思っていた。

俺も凜花も出会った時からお互いの事を好きであり、この頃も一緒に風呂に入ったり夜に凜花が俺のベッドに入ってきて一緒に寝る事も珍しくなかったため、凜花さえよかったら本当に凜花と結婚してしまうのもありだなと考えていた。

ただ、本当に結婚するのならそれは家族愛ではなく、恋心や恋人への愛が必要であるため、俺はあくまでもするのなら程度にしか考えておらず、今のように凜花が膝に乗ってきたり不意に抱きついてきたりしてもその行動にドキリとする事はなかった。

そうして凜花を膝に乗せた状態で宿題をする事十数分、そろそろ凜花を降ろしても良い頃合いだと思っていると、凜花はコクリコクリとしており、俺は仕方ないと思いながら凜花に声をかけた。


「凜花、眠いならソファーまで運ぶぞ?」

「う、ん……お兄ちゃんの、お膝がすごく……温かくて、安心出来るからつい……ごめん、ね……」

「まあ、いつもの事だしな。ほら、運ぶから一旦降りてくれ」

「わかった……」


 うつらうつらとしながら答え、凜花が降りると、途端に膝が冷えると同時に何故か寂しくなってしまい、眠そうに目を擦る凜花に後ろから抱きついてしまった。


「んむ……おにい、ちゃん……?」

「……ごめん、なんでかわからないけど、お前が離れた途端に寂しくなっちゃってさ」

「そっ、か……えへへ、でも……お兄ちゃんが後ろから抱きついてくれてるとすごく温かいよ……」

「……俺も温かい。なんだかこのままずっとこうしてたいくらいだ」

「うん、私も……」


 眠そうだけど嬉しそうに言う凜花がとても愛おしく思え、俺は凜花を抱き締める力を強くする。離したくない。そんな気持ちが俺の中に込み上げてくる。

別に凜花は一眠りするためにソファーへ行くだけだし、以前から凜花がどこかへ行く際に少し寂しさを感じた事はあったが、ここまでの寂しさを感じた事はなかったため、まるでこれが今生の別れかのように感じている自分に正直驚いていた。

このまま離れていったらもう会えない。それはあり得ないとわかっていても俺の中にある寂しさは消えず、俺は凜花を抱き締めながら自分の頬を凜花の頬に擦り付けていた。


「ふふ……お兄ちゃん、甘えんぼさんだ」

「ああ、たまには良いだろ?」

「うん、たまにじゃなくいつでも良いよ」

「わかった。なあ、せっかくだから俺も一眠りしたいし、俺の部屋で一緒に寝ないか?」

「お兄ちゃんのお部屋……うん、良いよ。ソファーだと落っこちちゃうからね」

「ああ。それじゃあ行こう、凜花」

「うん」


 嬉しそうに凜花が答えた後、俺達は揃って俺の部屋まで来た。そして、一眠りするために二人でベッドに横になった時、向かい合っている凜花の顔がいつもより可愛らしく見えた。


「え……」


 たしかに凜花は兄の贔屓目を抜きにしても可愛い。だけど、その時の俺にはただ可愛いのではなく、まるで凜花が恋心を抱いた異性かのように可愛く思えており、これまで何度も一緒に眠っているのに心臓がバクンバクンと大きな音を立てていた。


「り、凜花……」

「なんですか、お兄様?」

「え、お兄様……?」

「あ……ううん、ごめんね。なんだかお兄ちゃんの事がいつもよりかっこよく見えるなぁって思ってたら、つい口に出てきちゃって……」

「そ、そっか。でも、敬語の凜花もなんだか新鮮だし、いつもとは違った可愛さがあるぞ? いつもの凜花が明るく元気な可愛さなら、さっきの凜花はおしとやかで楚々な感じの可愛さだったし」


 その言葉に嘘はない。突然お兄様なんて呼ばれて驚きはしたが、敬語の凜花はまた違った魅力があり、そんな凜花を見ていると、まるで妹がもう一人出来たかのように感じた。

だけど、可愛らしいと感じると同時に突然見せられた可愛さにドキリとさせられたからか凜花の顔が更に可愛らしさを増したように見え、可愛いなと思っていた瞬間、俺は凜花の唇に自分の唇を重ねていた。


「んっ……」

「んむ……」


 突然キスをしてしまった事に俺自身が驚き、どうにか唇を離さないとと思っても、凜花の唇の瑞々しさとキスをしている時の凜花の顔が更にキスをしたいという欲求を高め、俺は凜花を抱き締めながら更にキスをし、その内に俺の舌は凜花の口内の舌と絡み合い、俺達はお互いに抱き締め合いながらしばらく水音とお互いの鼻息が部屋に響く中で一心不乱にキスをした。


「ん、はあ……んふ……」

「んむ……はあ、んぅ……」


 端から見れば、俺達の姿は兄妹には見えなかっただろう。一般的な兄妹なら、こんな恋する異性同士がするようなキスはしないし、性的な興奮なんて感じない。

だけど、キスをしている内に俺は凜花に対して性的な事をしたいという欲求が高まっており、抱き締めている事で伝わってくる凜花の体の柔らかさと温かさに安心感を覚えると同時にこのまだ幼い妹の体を自分の物にしたいという強い独占欲が込み上げてきていた。

そうして十数分程度キスを交わした後、凜花から顔を離すと、凜花は気持ち良さそうにしながら顔を赤くしていて、その静かだけど少し荒い息づかいが色っぽく感じ、凜花への愛欲が強くなっていた時、俺の口は意思を無視して開いた。


「り、凜音りんね……」

久音くおんお兄様……」


 突然お互いの口から出てきた名前に俺は驚き、それは誰なのかと思ったが、凜音と久音という名前は何故か懐かしく感じ、それと同時に凜花の顔に長い黒髪の可愛らしい少女の顔が重なり、俺はたまらなくなって再び凜花にキスをした。


「凜音……ああ、凜音……!」

「久音お兄様……!」


 俺達はまたその名前で相手を呼び、さっきよりも熱くキスを交わした。正直な事を言えば、凜花への愛欲はもう既に限界まで来ており、このままだと確実に凜花とシてしまうのはわかっていたため、どうにか離れないといけなかった。

けれど、久音と凜音になった俺達の相手への愛情は止まらず、また十数分程度キスを交わした後、俺達は示し合わせたかのように自分の服を脱いで相手の体をじっと見つめた。

これまで一緒に風呂に入った事もあるから今さら何も感じないだろうと思っていた凜花の裸はまだ幼さが残っていたものの、愛おしさを感じさせるには十分すぎる程であり、お互いに息を荒くしながら見つめあった後、俺が凜花の胸を触り始めた事で俺達はただの仲良し兄妹から一組の男女へと姿を変えた。

相手は妹だとわかっていても、高まった欲求と愛情は止まる様子はなく、これまでにそういった行為への経験はないはずなのにどうすれば凜花が気持ち良くなってくれるかを熟知している様子で俺は凜花を愛撫し、凜花も同じように手慣れた様子で俺を愛してくれた。

まるで長年会えなかった分の時間を必死になって埋めようとするかのような情熱的な行為に俺は酔いしれ、何度も何度も絶頂を感じ、凜花も同じくらい快感に身を打ち震わせていた。

その間、俺達は相手を凜音と久音と呼び、その内に元々俺達はそんな名前だったような気がし始めると同時に見知らぬ建物や男女の姿、人目を忍んで相手への愛を口にしながら体を重ねた日々やそれを見つけられて離されそうになった事で無理心中をした事などが頭の中に蘇り、昼過ぎになってようやく二人の体力がなくなって、俺達は相手の体液や汗でぐちゃぐちゃになりながら息を荒くしてベッドに横たわった。


「はあ、はあ……」

「ふう、ふう……」


 凜花との愛に溢れた一時の余韻に浸りながら俺はさっき浮かんだ出来事について考えた。俺が清天志音なのは間違いなく、妹が清天凜花なのもまた間違いない。

だけど、俺が久音だったのもまた間違いないなくて、妹が凜音だったのもまた間違いないという確信があり、俺と凜花の中に浮かんだのは恐らく前世の俺達の記憶で、前世の俺達は同じように兄妹だったが、それと同時に恋人同士だったのだろう。

だけど、俺の中に久音としての記憶が甦ってしまったせいか俺は妹の凜花に対して大変な事をしてしまった上にもうただの妹ではなく一人の女の子としか見られなくなっており、体の熱さを感じながら横にいる凜花に視線を向けると、凜花も俺に対して恋人に向けるような愛しそうな視線を向けていて、同じように凜花も俺への気持ちが変化してしまっていたのは確実だった。

この状況についてどうしたら良いか両親にはどう説明したら良いかなど考えないといけない事は多かったが、度重なる交わりで疲労した事で俺は強い眠気に襲われ、隣から聞こえてくる凜花のすーすーという寝息を可愛いと思いながら俺も静かに眠り始めた。

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