第5話 魂は覚えている 後編

「……はあ、またシちゃったな」


 窓とドアを閉めきった室内で、俺は裸のままでベッドの上に寝転びながら独り言ちる。隣にはすやすやと寝息を立てながら眠る同じく裸の妹の姿があり、かけられた毛布から時折見える柔らかくキメ細やかな素肌に俺はごくりと喉を鳴らした。

しかし、体を起こしながら手を伸ばそうとするのをどうにか堪え、再びベッドの上で仰向けになる。


「……俺、本当に凜花の事を好きなんだよな?」


 自分の中に浮かんだ疑問を口に出す。前世である久音の記憶が蘇った中学二年生のあの日、俺と凜花は交わり、前世の俺達である久音と凜音も久方ぶりに交わった。

初めてだったはずなのにどこか懐かしい凜花とのその数時間は俺をしっかりと満たしてくれ、ただの大好きな妹から一人の愛する異性へと意識を変えた。

兄妹でそんな事をするのは間違っているとわかっていたから、凜花にもこれは本来ならおかしい事で、もう二度としてはいけないと言い含め、凜花もそれには素直に頷いてくれた。

しかし、一度外れてしまった禁忌の鎖はその程度では再び繋ぐ事は出来ず、翌日も両親の目を盗んで夜に凜花との行為に酔いしれていた。

その日は普通に眠るはずだったが、急に凜花に会いたいという欲求に頭と心が支配され、ドアを開けた時に凜花が目の前に立っており、お互いに相手の目から思考を読み取ると、言葉を交わさずに部屋へ入って俺達は再び何度も愛し合った。

その日さえ乗りきってしまえば、俺達はおそらくいつも通りの仲良し兄妹に戻れたのだろう。だけど、二度も禁忌を侵した俺達はもう止まれなかった。

毎日ではなかったし、流石に避妊はしていたが、両親がいない時間や日、眠ってしまった後に俺達は何度も相手の体を貪り、時には野外や年齢を偽ってそういう場所でもするようになり、その度に俺と久音は凜花と凜音の甘い声やその若くて張りのある体に自身の性欲を滾らせて、全身だけでなく心の奥底まで愛し続けた。

そうして行為に溺れていく内に俺も中学生から高校生に、凜花も小学生から中学生になり、お互いにそれぞれの性別らしい体つきになってきた事で、俺達の中にある情欲は更に強くなり、これまでは裸でしかやってこなかった行為にもバリエーションを求めるようになっていた。

そして今日も両親がいない事で、朝から昼頃の今まで“俺達”は“凜花達”と愛し合っていたが、ふと我に返ってみた結果、先程の疑問に辿り着いたのだった。


「……俺は少なくとも凜花の事が大好きだ。だけど、それは妹に対する家族愛だし、もしかしたらその家族愛すらも俺達が久音と凜音という恋人兼兄妹だったからなんじゃないのか?」


 その可能性を考えて俺の背筋は凍る。俺は少なくとも凜花を妹として好きだし、きっかけがどうであってもこれまで愛し合ってきた事もあるから、異性としても好きだと断言できる。

だけど、凜花の事を生まれた時から好きだと思っていたのが、本当に前世からの久音の想いによる物だとしたら、志音おれ自身の想いは偽りの物だった事になるんじゃないか。

そんな事を考えて寒気を感じた後、俺は体を起こしてから自分を抱き締めるようにして両腕を回した。

怖い。好きだと思っていた想いが自分の物じゃないかもしれない事が心から怖い。これまで凜花の事を好きでやってきた事も抱き締め合い繋がり合いながら愛の言葉を伝えてきた事も全てが借り物の想いによる物で、俺はただ性欲に負けていただけだったかもしれないのが、俺は何よりも怖かったのだ。


「嫌だ……そんなの、嫌だ……!」


 涙と共にそれを拒絶する言葉がポロポロと出てくる。妹を一人の異性として好きになり、恋愛感情も持ちながら交じり合うのは世間的に間違っている事だとわかっているけれど、好きであるという想いだけは間違ってないと信じたいし、この想いは俺の物だと言いたい。そうじゃければ、俺のこれまでは何だったのか。

そんな事を考えていたその時だった。


「おにい……ちゃん……?」


 少し眠たそうな声が聞こえ、ハッとしながら隣を見ると、体を起こして目を擦りながら俺を見ている凜花の姿があり、その露になった汗にまみれた上半身に俺は喉をゴクリと鳴らして凜花に抱きついた。


「きゃっ……もう、どうしたの?」

「……凜花が可愛かったから」

「まったく……ふふっ、お兄ちゃんはやっぱり甘えん坊さんだね。だから、もう一人で悩まなくて良いんだよ」

「え……?」


 くっつき合っている事で直に感じる凜花の身体の柔らかさと肌のスベスベとした感触に心地よさを感じながら驚いていると、耳元で囁くように凜花は話し始めた。


「……お兄ちゃん、私の事を本当に好きなのか疑い始めてるんじゃない?」

「え……ど、どうしてそれを……?」

「今の、聞こえてたんだ。でも、本当はその前から私も同じ事を悩んでたの。私の中には前世である凜音の記憶があって、お兄ちゃんにも前世の久音さんの記憶があって、私達はあの日から四人二組でずっと愛し合ってきた。

だけど、この想いは本当に私の物で、お兄ちゃんが愛しているのは私の中の凜音なんじゃないかって不安だったの」

「凜花……」

「でも、お兄ちゃんが同じ事を悩んでるのを知って、私はスゴくホッとしたの。お兄ちゃんが見ていてくれたのは私で、愛してくれていたのは私だったんだって」

「……俺もスゴく嬉しいよ。俺の想い、偽物でも借り物でもなかったってわかってスゴく……嬉しい」


 安心と喜びでまた俺は涙を流す。そのせいかまだ少し幼さの残る裸の凜花に抱きついているという状況に俺は興奮をし始め、待ちきれなくなりながら息を荒くしていると、凜花は体を軽く離してからクスリと笑う。


「お兄ちゃん、またシたくなったの?」

「ああ……安心したら急にお前が欲しくなって……」

「私も。初めこそ久音さんと凜音の二人に導かれるようにしてやってたけど、今は私達の意思で、私達だけの想いでこうやって相手を求めてる。これって本当に嬉しい事だね」

「……そうだな。凜花、良いか?」

「……うん、いつでも良いよ。私の事、いっぱい愛してね、お兄ちゃん」

「もちろんだ。凜花は大切な妹で大切な恋人なんだ。他の誰も真似出来ないくらいいっぱい愛してやる」

「うん」


 嬉しそうな凜花の顔に愛おしさを感じてから俺は凜花の頬に両手を当てながら唇を重ねる。にゅるりと唇を割って入っていった俺の舌は凜花の口内を丹念にねぶり、凜花の唾をまとってから今度は凜花の舌にねっとりと絡み付く。


「んっ、んふぅ……はぁ……」

「はぁっ……んぅ、んふ……」


 声を上げながらひたすら相手と舌を絡めて俺達はキスを交わす。舌と舌がふれあう度に水音が鳴り、相手を求めてキスをする度に興奮で鼻息も荒くなっていく。

そしてどれだけそうしていたかわからなくなってきた頃、俺達はどちらともなく顔を離し、俺はゆっくり凜花の体をベッドに横たわらせ、俺達は心から通じ合った喜びを噛み締めながら体を重ねた。

朝からさっきまでやっていたはずなのに、俺達の体力は一度休憩を取ったからかすっかり回復しており、俺は愛おしい凜花に気持ちよくなってもらうために何度も愛撫などを繰り返し、凜花も様々な方法で頑張ってくれたため、俺達は相手への愛の言葉を伝えながら幾度も絶頂した。

これまでもしてきた事なのに、こうしてお互いに好きである事を再確認した後だと、その気持ちよさもまた違い、これまでは全身を包み込まれるような物だったのに対して今では魂までも包み込まれるような物になっていた。

当然、まだ凜花が中学生な上に両親には秘密の関係であるため、自分の中の欲望が唆してきても俺達は絶対に避妊をし、俺達はお互いに満足が行くまで相手の体を相手の前世ごと求めた。

そうして愛し合う事数時間、日も落ちて室内も薄暗くなってきた頃、俺達は息を荒くしながらも満ち足りた気持ちで恋人繋ぎをしながらお互いに向かい合った。


「ふふっ……やっぱりお兄ちゃんはカッコよくて逞しい自慢のお兄ちゃんだね」

「お前だって可愛くて綺麗な自慢の妹だよ。でも、これからは妹であり大切な恋人だ」

「うん、兄妹だけど恋人。それが私達だね」

「ああ。だから、この事はちゃんと父さん達にも言わないといけない」

「……うん、そうだね。認めてもらえないと思うし、もしかしたら離ればなれにされるかもしれない。でも、私にとって愛してるのはお兄ちゃんだけだよ」

「俺もだ。もしも離ればなれにされたら、その時は二人でどこか遠くに行こう。久音と凜音は死ぬ事を選んだけど、俺達は生きていくんだ」

「うん……大好きだよ、お兄ちゃん」

「……俺も大好きだ、凜花」


 愛おしい恋人からの言葉に返事をした後、俺達は相手を優しく抱き締めた。その後、俺達はしっかりとシャワーを浴びたり着替えたりしてから両親をリビングに呼び、前世の事は隠した上で俺達がお互いに恋愛感情を抱いている事、何度も体を重ねてきた事を話した。

話している最中、両親は険しく真剣な顔をしていて、その雰囲気が良いものとは言えなかった事から、俺達は最悪の状況を覚悟した。

けれど、手を繋いでいた事で少しだけ緊張は解けていたため、どうにか恐怖と不安に打ち勝って話を終える事が出来ると、両親の口から信じられない言葉が出てきた。

俺達が兄妹で愛し合っているのは社会的には許されない事だけど、自分達はそれを認めると言ってくれたのだ。どうやら両親は前々から俺達がお互いに異性として好きらしいと感じていたらしく、両親にバレないようにしながら声を潜めていた時も相手を想いながら自分を慰めていた時も実は見られていたと知り、俺達は恥ずかしさで顔を赤くしていたが、その後に聞いた話は俺達にとって本当に驚くべき事だった。

俺達の前世である久音と凜音は実は俺達の先祖にあたるらしく、もう一人いた兄弟が血を残していった事で俺達が生まれ、こうして時を越えて再び出会えたようだった。

父さん達も二人の話は前に聞いた事があったらしく、こっそりと俺達の事を見ていた際も俺達の口からもその名前が出てきた事で俺達がその生まれ変わりだと感じ、そういった関係になるのも仕方の無い事だと話していたと言っていて、関係は認めるけれど絶対に最後まで相手を愛し続ける事は約束するように言ってきたため、俺達はそれに対してしっかりとした決意を持って答え、両親公認の恋人関係になった。

その後も俺達は兄妹であり恋人でもあるという関係のままでい続け、両親に気を遣いながらではあったけれど、家でも緊張せずに愛し合う事が出来るようになった。

もちろん、この関係は世間的には間違っていて、それを知った人からは軽蔑されるだろう。だけど、俺はそれでも構わない。こうして時を越えて再び出会えた愛しい相手を想い続ける事が俺にとっては何よりも幸せな事で、たとえまた死に別れても魂は相手への想いを忘れないと信じているから。

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