第2話 救い救われて 前編

「ん……」


 落ち着く匂いと温かさを感じて私は目を覚ます。まだ少し眠気が残る中で目を開けると、そこには私を抱き締めながら気持ち良さそうに眠る恋人の顔があった。私の恋人は体岡たいおか育志いくしさん。まだ高校生の私よりも10は年上で違う学校ではあるけど、体育の教師でもある人だ。

そのため、育志さんは結構筋肉質な体をしていて、私とシている時に抱き締められると、その少しゴツゴツとした感触がとても落ち着き、育志さんと会えなくて一人でシている時よりも遥かに気持ちいいのだ。

そんな関係だからこそ、他の人にはこの事は言えない。そもそも私には言えるような相手もいないし、たとえいたとしても私は言わない。何故なら、私達のこの関係は私達だけの物で良いと思っているから、他の人の介入なんて求めていないんだ。


「……子供みたいな寝顔。私を求めてくれてる時は男らしくてすごく力強い感じなのに、こうして眠ってる時はこんなにもあどけない感じなんてなんだか不思議だなぁ」


 今日は朝から育志さんと一緒にいて、少し仕事疲れしてるように見えたからこうして添い寝してたけど、私の方がなんだか癒されてる気がした。

服越しでも育志さんの心音は私に伝わり、その単調なリズムと穏やかな寝息のハーモニーが私の心を包み込み、育志さんと一緒にいない時のストレスをゆっくりと無くしていってくれる。だからか、少しだけいたずら心が騒いだ。


「……今の内ならもしかして……」


 そう言った後、私は毛布の中の育志さんの服を捲りあげ、盛り上がった胸の辺りに手を置き、そのまま擦るようにして八の字に触っていった。


「んっ……んぅ、すぅ……」

「……まだ大丈夫。それじゃあ次は……」


 私は毛布の中に潜ると、捲り上がった逞しい胸にキスをしてから、手を少しずつお腹の方へと動かして、おへその周りをさわさわとしてから育志さんの様子を窺った。けれど、育志さんが起きる様子はなく、更に行けると思った私は育志さんのズボンのベルトに手を掛けた。

カチャカチャという音が静まり返った部屋に響いたけれど、それでも私の手は止まらず、自分がしている事に興奮を覚えながらズボンを引き下げてその下にある物に手を伸ばそうとした。しかし、その時だった。


「そこまでだ、不来方こずかた


 その声と同時に私の手首が育志さんの手に掴まれ、観念した私は首を横に振ってから顔を出した。そこには呆れ顔の育志さんがおり、そんな育志さんに対して私はそのままキスをした。


「んっ……おはようございます、体岡先生」

「……おはよう、不来方。というか、俺が寝てる間に何をしようとしてた?」

「本当はそのまま寝顔を見てようと思ったんですけど、どこまでなら起きないかなと思って、最後は体岡先生のズボンとパンツまで脱がせようとしてたんです。それでも起きなかったら、それより先の事までしようとしてましたけどね」

「……止められて良かった。今は普通に寝ていたいと思ってたからな。それをされてたら、絶対に止まらなくなってたよ」

「それでも良いんですよ? 体岡先生に、育志さんに出会えて私は救われたわけですし、育志さんに愛されるのは幸せですからね」

「良子……」


 私の言葉を聞いて育志さんは哀しそうな顔をする。体岡先生とのこの関係が始まったのは数か月前からだ。私の家は一般的な家よりは酷い家庭で、両親はそれぞれ他所に愛人を作っている事から、小学生の頃からあまり家に帰ってこず、お互いにその事を黙認していたため、離婚にも至らずに今もそんな事をズルズルと続けている。

だから、私にとっては親が朝に置いていく食費で夕飯を買って食べる日が日常で、たとえ帰ってきたとしてもその時には自分達が家で愛し合うための邪魔者として扱われて追い出されるので、補導されないように気をつけながら朝までどこかで過ごしていた。

そんな両親がいつしか嫌いになった私は性欲に支配された父親や母親の愛人に襲われても良いように身体を個人的に鍛え、最悪中学卒でも仕事にありつけるように勉強にも精を出した。

その結果、学校での成績は徐々に良くなり、校内での評判は良くなっていったのだが、それに嫉妬した生徒がどこから聞きつけたのか両親の情報や私が夜に出歩いてる事を校内に広めた上に私も援助交際をしているのだと言い出し、どうにかそれは嘘だと証明出来たものの、その頃から女子の中では私を汚れた物のように見る奴が、男子の中には身体をジロジロと見たり私に抱かせろと言ったりする奴も出始めた。

そんな現実に私は嫌気がさし、いっそ本当に援助交際でもしてやろうかと考え、高校に上がった頃から夜の繁華街を歩くようになった。そんな時に声をかけてきたのが体岡先生だったのだ。

体岡先生は自分のとこの生徒が夜に出歩いていないか自主的に見回りをする程の真面目な先生で、私が声をかけられたのも他校の生徒とはいえ、見過ごせなかったかららしく、私は正直体岡先生をウザいと思っていた。

けれど、体岡先生はファミレスでご飯を奢ってくれながら私の話を真剣に聞いてくれて、その後も私を警察へと引き渡さずに家まで送ってくれた事で体岡先生の事を私は少し見直し、私からの提案で連絡先を交換した。

そして、何度か体岡先生に話を聞いてもらったり時間がある時には会ってもらったりしている内に私は徐々に体岡先生の事を一人の男性として好きになり、ある日思いきって告白した結果、体岡先生も私の事を好きになっていたようで私達は恋人同士になった。

だけど、その日の内に私達が一夜を共にしたわけではなく、私も体岡先生のその身体には魅了されていて抱かれたらすごく幸せだろうと思って家で体岡先生とする事を想像しながら何度も果てた夜だってあったが、両親の不貞や中学時代の男子達からの嫌らしい視線が心の奥でジクジクとした傷になり、私はそこまで踏み切れなかった。

そんなある日、デートも終わりそうになって体岡先生がいつものように私を送ってくれようとした時に私はうっかりつまづいて転びそうになり、それを何とかするために体岡先生が腕を引くと、その反動で私は体岡先生に抱きつく形になった。

その時の私の心臓は緊張と嬉しさで早鐘を打っていたが、密着している事で伝わってくる体岡先生の心臓の鼓動も同じように早く、なんとなく股間に固い感触があると思いながら視線を落とすと、その部分が大きく膨らんでおり、体岡先生が私で興奮してくれている事を知って私は更に嬉しくなった。

それでようやく吹っ切れた私は体岡先生に抱いてくれるように頼み、体岡先生も最初は私の身体を気遣って断ろうとしていたけれど、私が本気なのを見て決心したらしく、私からのお願いを聞いてくれると、そのまま体岡先生の家へと行って私達は年の差があるただの恋人から男女の関係になった。

初めてだった事もあって体岡先生の愛撫やキスは私を快感の渦へと引き込み、体岡先生と身体を繋げた時には体岡先生はすぐにでも動かしたいのを我慢して私がお腹の中の異物感に慣れたり痛みを和らげるためにキスや愛撫をしながらジッと待ってくれて、私がようやく痛みが無くなった事を確認した後も声をかけてくれたり私が気持ち良くなる方法を探してくれたりしてその気遣いに私は嬉しくて涙が出ていた。

そしてその日、私達は避妊をしながら何度も絶頂し、お互いに満足した後に体岡先生が頭を撫でながら気持ち良かった事や私の身体や顔について褒めてくれた事はとても嬉しく、体岡先生と恋人になれた事が心から幸せだった。

その日から私達は体岡先生の家を私の避難先として決め、親が家に帰ってくるとわかってる日にはデートの帰りにそのまま体岡先生の家に行き、お互いに身体を求め合うようになり、その際は必ず避妊だけ徹底すると決めていた。

私としては体岡先生の子供は欲しいし、体岡先生を直接感じたいけれど、学生の間はそれだけは無しにしている。

その代わりに体岡先生は私が気持ち良くなるために色々な工夫をしてくれていて、そんな体岡先生とのこの関係が私は何よりも好きだった。

そこまでの事を思い出した後、私は再び体岡先生にキスをした。けれど、今度はしっかりと口の中に舌を入れ、鼻で息をしながら体岡先生の舌をまるでアイスキャンディーを味わうかのようにしっかりと舐め回し、口を離してみると、体岡先生は同じように鼻で荒い息をしていた。


「……育志さん、今ので興奮しちゃいました?」

「はあ、はあ……まあな。まったく……日中は我慢するつもりだったんだけど、今のでもうそれすら難しくなったぞ」

「良いんですよ、我慢しなくて。私もそのつもりでしたし、どうせ明日の朝まで両親は帰って来ませんから、好きなだけ私を求めて良いんです。いや、求めて欲しいんです」

「良子……」

「だから、しっかりと私を求めて下さい、体岡先生。私を愛して下さい、育志さん」

「……わかったよ。出会った頃はこういう事までする関係になるとは思ってなかったけど、こうなった以上は絶対にお前を見捨てないし裏切らない。あの日みたいに哀しみと絶望に満ちていたお前なんてもう見たくないからな」

「育志さん……」


 育志さんの顔を見ていると、育志さんは私に顔を近づけてキスをした。もちろん、さっきの私と同じように舌を入れた大人のキスだ。そして口を離した後、今度は私の首筋に数回キスをし、私達は揃って服を脱ぎ出す。

生まれたままの姿の育志さんに私は惚れ惚れとした後、両手を広げる育志さんの姿に安心しながら抱きつき、私達は再び熱く舌を入れたキスを交わす。

その後、私達は幾度かの愛撫と絶頂を繰り返しながら何度も相手を求めあった。やっている事は両親とその愛人がしている事と一緒かもしれない。けれど、あいつらと違うのは私達の関係と愛の形だ。あちらは不倫な上にただ快楽を求めあうだけだけど、私達は学校が違うとはいえ生徒と教師という禁じられた関係だけどしっかりとした愛がある。

年の差もあるし、今のところは他人には打ち明けられない関係ではあるけど、私達にはお互いしか愛し合う相手はいないし、私は育志さん以外の男性を好きになる気もこういう事をする気もない。それだけ私は育志さんを愛していて、私には育志さんしかないのだ。


「……育志さん」

「……なんだ?」


 何度目かの一緒の絶頂の後、育志さんに抱き締められながら私は育志さんの胸に顔を埋める。


「……いつまでも愛してくださいね」

「……ああ、約束する。お前だけをずっと愛し続けるよ、良子」


 育志さんの言葉に安心感を覚えた後、私はまだまだ大丈夫というサインとして再び育志さんにキスをし、それに応えてキスをしてくれた育志さんと私はその後も何度も求めあった。

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